高齢化率が高まっている日本では、農業従事者の高齢化に伴う担い手不足、後継者不足から「省力化」というキーワードを度々目にするようになりました。そこで本記事では、作業の省力化に一役買っている「ヘタなしミニトマト」に着目。ミニトマトのヘタの有無は農業の現場にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
ヘタなしミニトマト
その名の通り、ヘタのついていないミニトマトのことです。とはいえ、栽培時からヘタがないわけではありません。ヘタなしミニトマトは収穫する際、ヘタが離れやすい(果柄が離脱しやすい)特性を活かして、ヘタを残さずに収穫したものです。
ヘタなしミニトマトは健康志向の高い消費者や利便性を求める消費者のニーズにあった商品として人気を高めています。
ヘタなしは収穫作業時間を軽減させる!?
もちろん生産者においてもヘタなしには利点があります。ヘタの有無で収穫作業時間に差が生じます。
藤﨑涼香・堤淑貴・髙橋賢人・元木悟『ミニトマトのへたの有無が収穫作業時間に及ぼす影響』(2020年、農作業研究第55巻第4号)には、果形の異なるミニトマト合計6種を用いて、収穫時のヘタの有無が収穫作業時間に及ぼす影響についてまとめられています。
実験内容は、ヘタをつける収穫とヘタをつけない収穫に要する時間を計測すると言うもの、収穫は収穫作業に熟練した一人の被験者が行います。収穫適期のトマトを一定数収穫するのにかかる時間を1反復として、3反復分の分析が行われました。一定数は2017年の検証では30果、2018〜2019年では20果となっています。
品種や果形によって差はあるものの、ヘタをつけない収穫の方がヘタをつける収穫に比べて作業時間が短く済む結果となりました。作業時間の削減率は、丸・楕円型の「千果」は46%、「ミニキャロル」が30%、洋ナシ型の「アイコ」は78%、「ロッソナポリタン」は73%となっています。特に洋ナシ型の2品種は、2017年も2018〜2019年も、ヘタなしの収穫作業時間はヘタがある場合に比べて7〜8割削減できています。
ヘタなしは貯蔵性にも影響あり!
なお、ヘタなしミニトマトの利点は貯蔵性にもあります。
髙橋賢人・相原悟・元木悟『ミニトマトのへたの有無が貯蔵性に及ぼす影響』(2019年、園芸学研究第18巻第3号)で、ヘタなしミニトマトがヘタありのものに比べ、果実へのカビ発生率が低いことが示されています。
上記実験では、「ミニキャロル」「千果」「アイコ」「ロッソナポリタン」の4品種の完熟果を収穫し、ヘタがあるものとヘタのないものに分け、暗黒条件下で25℃、7日間の貯蔵し、重量の減少率、水分やアスコルビン酸含量、糖度等の変化、カビの発生率などを調べています。
いずれの品種においても、ヘタなしの方がヘタありに比べ、貯蔵性があることが示唆される結果となりました。本項目冒頭で述べたカビ発生率については、「ロッソナポリタン」のみを用い、5℃貯蔵と25℃貯蔵で比べた実験では、貯蔵温度が5℃であればヘタの有無に限らず、カビは発生していません。しかし4品種を用いて25℃で貯蔵した実験においては、いずれの場合もヘタなしではカビは発生せず、ヘタありではヘタの部分にカビが発生しています。
今後も注目なヘタなしミニトマト
本記事ではヘタなしの利点についてまとめましたが、もちろんヘタがある品種も利点はあります。例えばヘタが取れにくい品種であれば、完熟しても落果しにくいため、ロスが減るといえます。どのような利点を得たいかによって、ヘタの有無を考慮するのも良いでしょう。
一部の品種では、ヘタなしの出荷がすでに行われていますが、多くのミニトマトの品種は、収穫時および運搬時にヘタが取れたものは、裂果や奇形果などと同様B級品として扱われています。とはいえ、ヘタなしミニトマトの認知度は今後も広がって行くはずです。生産者との間でヘタなしミニトマトの利点が広く知られるようになれば、ヘタなしミニトマトがB級品ではなく一つの品種として認知されやすくなるのではないでしょうか。
参考文献