現代の日本農業は数々の問題点を抱えていると言われています。
よくあげられるのが「高齢化問題」。農業従事者の高齢化により、後継者不足や耕作放棄地の増加が問題視されています。また日本の農林水産生産額は世界8位(2018年)なのですが、輸出額は世界44位と他の国に劣っています。
とはいえ、農林水産物や食品の輸出額は2013年から拡大しており、2019年には政府が輸出目標「1兆円」を掲げ、輸出拡大に取り組んでいる真っ最中です。この背景には、2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたこと、海外での日本食ブームが追い風になっていること、海外の日本食レストランが増加していることなどが挙げられます。
そして2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。今こそ、日本の農林水産物や食品を発信する絶好の機会といえます。
そこで本記事では「日本農業の強み」に着目。日本農業の衰退を食い止めるヒントになる「強み」を紹介していきます。
日本農業の強みとは
成熟した国内市場を持つ
各国の所得水準を比べてみると、日本は依然として所得水準の高い国に位置しています。OECD(経済協力開発機構)が2019年5月に発表した「所得に関する総合的なランキング」によると、日本の順位は14位。そのうえ日本の人口は1億人を超えています。豊かで成熟した国内市場を持っているのは、日本ならではの強みと言えます。
日本食の特徴や食味のこだわりが強みに
世界に目を向けた際にも強みがあります。
世界中でブームになっている日本の食文化。日本食の「おいしい」「ヘルシー」「安心・安全」という点が定着しつつあります。このキーワードを大切にしながら農作物を生産、輸出すれば、市場の拡大が見込めます。
また食にこだわりがある富裕層、特に富裕層の割合が増えつつある中国などをターゲットにできるチャンスが広がっています。
まずはあえて日本農業の「弱み」に触れます。農研機構が2014年にまとめた「世界における日本の穀物生産力のランキング」によると、1961年には世界102ヵ国の中で5位だった「水稲の単位面積当たりの収量」が、2014年には14位に下がってしまいました。
この背景には「食味の良さの追求」があります。1960年代から、収量ではなく食味の良さが重視されるようになりました。その結果、水田農業経営の生産性は落ち、世界一高いコメを生むことになってしまいました。
しかし今、そんな良食味のコメが中国などの国で人気を博しています。「味の良いブランド米」を求める富裕層の存在が、コメの輸出量の増加を後押しするのではないでしょうか。
高齢化による大量離農も強みになる!?
高齢を理由に農業から引退する農業従事者の数は増加していくことでしょう。しかし窪田新之助氏の著書『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』では、その「大量離農」をポジティブに捉える一文が書かれています。
日本では二〇一七年から、零細な農業従事者が高齢を理由に農業界から一気に撤退していく。農業所得はわずかしかなく、主にはサラリーマンとしての収入や年金を頼りに暮らしている零細な農家が、次々と農業を辞めていくことになるのだ。
世界の農業大国は零細な農家に撤退してもらうため、一九六〇年ごろから離農政策を推し進めてきた。それが農業を成長させた要因となっている。
引用元:窪田新之助, 『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』, 2016年1月1日, 株式会社講談社
著者は日本の農業問題の本質は、農業者の減少でも耕作放棄地の増加でもなく、労働生産性の低下にあるとしています。1960年頃、農業生産物の供給過剰や農業就業人口の過剰に頭を抱えていた日本。他の先進諸国も同じ問題を抱えていました。
しかしその後の日本と欧米の対応の違いが、現代の農業の在り方に大きな差を生んだと言います。
たとえばアメリカでは、事態の解消に向けて、アメリカ経済開発委員会(CED)が「農業人口三割削減論」を提出した。つまり、農業保護を止めて、競争原理の導入と離農促進へと農業政策を転換するよう、政府に働きかけたのだ。これは国内で熾烈な議論を呼び起こしたが、最終的に農業人口を三割以上減らすことに成功し、世界でもまれに見る合理的な農業を築き上げた。
引用元:窪田新之助, 『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』, 2016年1月1日, 株式会社講談社
簡潔に内容をまとめると、この「大量離農」の後、集約化された農地で、専業農家が効率よく農業を行えるようになったとあります。
近年、日本も農地の集積・集約化を進めています。農業法人や他業種の農業参入が増えつつあることから、合理的な農業生産が進むかもしれません。
世界は日本農業を後押しする!?
それから、世界的な農業トレンドが日本農業を後押しすると言われています。
日本は人口減少やそれに伴う生産・流通コストの上昇等の課題を抱えています。しかし世界的に見ると人口は増加傾向にありますし、生活水準の向上も受け、食糧消費は拡大していきます。2009年から2030年にかけて、世界の食肉需要は70%、そしてトウモロコシやコメ、大豆などの穀物は、40〜50%増加すると予想されています。
その一方で、供給量や資源不足が懸念されています。
もちろん、日本の農業が抱えている課題を解決することが先決ですが、もし日本の農業生産性が向上し、掲げている輸出目標を達成することができれば、世界市場が日本の農業生産物を求めるようになるかもしれません。
ピンチはチャンス
日本の農業には「弱み」と呼べる課題も多々ありますが、国内外のトレンドをキャッチし、ビジネスチャンスと捉えて、農業に参入する若い世代や企業が増えつつあるのも事実です。先で紹介したように「大量離農」や「収量<食味」といった点も、視点を変えてみるとポジティブに捉えることができます。
衰退を感じる人も多い日本農業ですが、ピンチをチャンスと捉えれば、ご紹介した以外の「強み」も見出すことができそうです。
参考文献
- 世界の農業生産額 国別ランキング・推移 GLOBAL NOTE グローバルノート – 国際統計データ専門サイト
- 世界の農産物・食料品 輸出額 国別ランキング・推移 GLOBAL NOTE グローバルノート – 国際統計データ専門サイト
- OECD Better Life Index
- 日本農業の戦略的強み活かし、高コストなど弱みを克服すれば十分に競争力 農水省次官OB高木さんの問題提起に賛成、TPP参加表明で農業抜本改革を 賢者の選択
- 窪田新之助, 『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』, 2016年1月1日, 株式会社講談社
- 「はじめの一歩」~日本の農業② ノウハウ伝承が不可欠 株式会社共同通信社
- グローバルな視点から見た日本の農業の現在と今後の発展 McKinsey&Company