本サイトでは2019年12月に以下の記事を公開しています。
ラウンドアップとは、1970年にモンサント社が開発した除草剤です。農業者だけでなく、家庭菜園の手入れなどにも使われていますが、発がん性があると疑われています。2018年8月にラウンドアップの発がん性に対する損害訴訟が起き、モンサント社は高額な賠償金の支払いを命じられていました。
2020年6月24日、2018年にモンサント社を買収したドイツの化学大手バイエルは、上記訴訟に109億ドル、日本円にして約1兆1600億円を支払うことで和解したと発表しました。
独バイエル、除草剤の発がん性めぐる訴訟で和解 1兆円超 – BBCニュース
ラウンドアップの主要成分グリホサートの発がん性について、バイエルは以前より、「科学的知見に基づき、がんの原因にはならない」と主張してます。訴訟の解決のために支払いを行いましたが、バイエルはグリホサートの安全性について不正行為はなく、これまで同様グリホサートの発がん性を否定しています。
グリホサートの安全性、使用に関する現状
グリホサートの安全性について、科学的な結論はまだ出ていないのが現状です。さまざまな文献でグリホサートの安全性に関する知見が紹介されています。
ドナ R .フ ァ ーマ ー、脇森裕夫『グリホサートの毒性試験の概要』(日本農薬学会誌 25 (3) p.343-349、2000年)では、グリホサートの眼や皮膚に対する刺激性や発がん性試験、繁殖試験など各種毒性試験を実施。その結果、発達毒性や薬理試験における心臓・循環器系への影響を示した結果も認められたものの、それらは毒性が認められる量の投与、高用量の投与の場合に限られていたため、通常の使用を行うかぎり、グリホサートによる中毒は発現しないと結論づけられています。
グリホサートの毒性試験の概要 – 国立国会図書館デジタルコレクション
(↑)概要全文(PDF)を読むことができます。
レビュー論文Jose V. Tarazona『Glyphosate toxicity and carcinogenicity: a review of the scientific basis of the European Union assessment and its differences with IARC』(Arch Toxicol、2017年)では、2015年3月にグリホサートを「おそらく発がん性がある」と結論づけた国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer:IARC)の発がん性評価と、欧州連合(EU)が実施したグリホサート健康評価を比較。さまざまなリスク評価を実施した結果、グリホサートへの曝露が遺伝毒性を有するとするIARCに対し、EUの評価はヒトでの遺伝毒性はないと思われるという結論で、公共の懸念を示すものではないことが示唆される結果となりました。
(↑)英語ではありますが、全文(PDF)を読むことができます。
2021年6月には欧州食品安全機関(European Food Safety Authority:EFSA)が、EUで2022年12月まで使用が許可されているグリホサートの更新評価の見直しを開始し、評価グループはグリホサートはヒトの健康にリスクをもたらさないとしました(参考文献5、6)。
一方、Cindy Peillex &Martin Pelletier『The impact and toxicity of glyphosate and glyphosate-based herbicides on health and immunity』(Journal of Immunotoxicology、2020年)では、グリホサートの魚類と哺乳類の健康に及ぼす影響を通じて、人体への影響について触れられています。この論文では、グリホサートの免疫系への影響として、魚類では炎症性サイトカイン※はの産生を増加させること、げっ歯類においては局所臓器炎症、ヒトでは急性または慢性炎症性症候群の誘発が挙げられています。
※
炎症性サイトカイン(えんしょうせいさいとかいん、proinflammatory cytokine)とは、炎症反応を促進する働きを持つサイトカインのことである。免疫に関与し、細菌やウイルスが体に侵入した際に、それらを撃退して体を守る重要な働きをする。血管内皮、マクロファージ、リンパ球などさまざまな細胞から産生され、疼痛や腫脹、発熱など、全身性あるいは局所的な炎症反応の原因となる。引用元:伊藤正男ほか編『医学大辞典 第2版』(医学書院、2010年)
さまざまな視点から安全性が問われているグリホサートですが、そんなグリホサートを含む除草剤を禁止する国もあれば、使用を認めている国もあります。
フランスではグリホサートの使用自体は認められているものの、2019年1月15日にグリホサートを主要成分としたラウンドアップの販売が禁止されました。ベトナムは2019年4月10日にグリホサートの使用禁止と輸入禁止を発表しています。
一方、日本は2017年12月に一部の農産物の残留基準値を引き上げました。トウモロコシは1.0ppmから5倍の5ppmに、小麦は5ppmから6倍の30ppmに、蕎麦やライムギは0.2ppmから150倍の30ppmに緩和されています。
日産化学株式会社 財務部 農業化学品事業部により、2020年1月22日に行われた「ラウンドアップの現場説明会」資料には、ラウンドアップへの日本の見解が記されています。
内閣府食品安全委員会(2016年7月)
グリホサートは神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び遺伝毒性は認められなかった。従って、ラウンドアップマックスロードの有効成分であるグリホサートは、国によって発がん性がないことが確認されています。
ラウンドアップの見解はさまざま
昨今では、ビジネスや技術ニュースの専門ウェブサイト「ビジネスインサイダー」で2022年7月20日に、多くのアメリカ人の尿からグリホサートが検出されたというニュースが公開されました。
ほとんどのアメリカ人の尿から除草剤の成分を検出…CDCの調査で。発がん性などについてはさらなる研究が必要
アメリカ疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は、2310人の調査参加者の尿サンプルの80%以上からグリホサートが検出されたと発表し、グリホサートが健康リスクをもたらすかどうかについてさらなる研究が必要である、と示しています。
同記事には、CDCが調査した尿に含まれるグリホサートの量は、毒性が発現しない最小量よりもかなり低い、というバイエルの広報担当者の回答も記されていました。
上記資料(ラウンドアップの現状説明会)にも記されていますが、IARCが「おそらく発がん性がある」成分としてグリホサートを分類する一方で、アメリカ環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)は2019年4月に「グリホサートは発がん物質ではないことを確認した」という見解を示しています。
安全性について両極端の意見が交わされていますが、各国のグリホサートに対する今後の動向に引き続き注目したいところです。
参考文献
- 独バイエル、除草剤の発がん性めぐる訴訟で和解 1兆円超 – BBCニュース
- グリホサートの毒性試験の概要 | CiNii Research
- グリホサートの毒性試験の概要 – 国立国会図書館デジタルコレクション
- Glyphosate toxicity and carcinogenicity: a review of the scientific basis of the European Union assessment and its differences with IARC
- Glyphosate: EU regulators begin review of renewal assessments | EFSA
- Four EU governments conclude glyphosate poses ‘no risk to human health’
- Full article: The impact and toxicity of glyphosate and glyphosate-based herbicides on health and immunity
- 売上No1除草剤に発がん疑惑、禁止国増える中、日本は緩和(猪瀬聖) – 個人 – Yahoo!ニュース
- 除草剤グリホサート/「ラウンドアップ」 ヒトへの発がん性と多様な毒性〈上〉
- ラウンドアップの現状説明会
- ほとんどのアメリカ人の尿から除草剤の成分を検出…CDCの調査で。発がん性などについてはさらなる研究が必要 | Business Insider Japan