豆腐や味噌、醤油などの原料である大豆は、日本の食卓に欠かせない食材です。昨今、そんな大豆生産の伸び悩みが報告されています。
大豆生産の現状
2021年7月17日に公開された「大豆生産なぜ増えず 主産道県に聞く|日本農業新聞」によると、日本政府は2020年3月に閣議決定した食料・農業・農村基本計画で、2030年度の大豆の生産努力目標を34万トンとしました。18年度実績は21万1300トンで、目標達成には毎年1万トン以上増産する必要があるとされています。しかし記事によると20年産の生産量は21万8900トンで、目標達成のために必要な量には到達していません。
なお大豆の作付面積を歴史的に振り返ると、大豆輸入の自由化や高度経済成長による就業構造の変化などを背景に減少した作付面積は、昭和44年に開始された米の生産調整により大豆が転作作物に位置付けられたことで増加しました。しかし近年の作付面積は、畑のかい廃(田または畑を他の用途で用いる土地に転換することで、作物の栽培が困難となった状態の土地のこと)や野菜などの高収益作物への転換で徐々に減少し、横ばいになっています。
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日本農業新聞では、大豆の生産が伸び悩む要因について主産道県に聞き取りを行っていますが、
- 収量が安定しない
- 天候不順による不作が原因で敬遠されている
- 他の作物との輪作体系や農家の経営安定をふまえると、大豆だけを増産するのは難しい
といった意見が挙げられています。
事実、大豆は気象災害の影響などによって生産量が減少しやすく、このことに伴い、価格も大きく変動します。
また農林中金総合研究所『大豆の国際需給と日本の自給』には、大豆生産が採算的に厳しいことについても記載されています。ここで紹介されているデータは「97年産」とかなり古いのですが、農林水産省の統計資料「工芸農作物等の生産費」によると、0.1ha以上の大豆農家の平均生産費(60kg当たり、支払利子・地代を含む)と基準価格(農家の手取り価格)は以下の通りです。
- 平均生産費 16,191円
- 基準価格 14,160円
1.5ha〜3.0ha未満の農家は生産コストが基準価格を下回り、1日当たりの平均所得は10,454円(0.1〜0.3ha未満の農家は3,603円)、大豆を30ha作っても所得は70,215円にしかならないことが記載されています。
日本の大豆生産の今後
国内生産が伸び悩んでいる大豆ですが、国内需要は高まると期待されています。
農林水産省「大豆をめぐる事情」(平成29年4月)には、“近年、量販店等で販売される豆腐や納豆において、「国産」表示の商品の売上が増加傾向。”とありました。農林水産省は、2022年度から義務化される加工食品の原料原産地表示により、豆腐などに使われる国産大豆の需要が高まるとみています。
ただし、需要増には「価格、供給量、品質の安定が前提」との意見も。先で紹介した通り、大豆の生産コストの高さや、天候不順による不作で変動しがちな価格などは、生産者から見ても、小売や仲卸、食品加工などの実需者から見ても懸念されるところです。
そこで対策として、
- 安定多収生産技術の開発
- 低単収の要因に対するアプローチ
が挙げられます。
まず「安定多収生産技術」について。大豆は湿害に弱いのですが、関東以西においては播種の時期が梅雨と重なります。そこで湿害を回避するため、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構によって「耕うん播種技術(大豆300A技術)」が開発されました。耕うん播種技術の事例は以下の通りです。
事例 | 内容 | 利点 |
小畔立て播種技術 | 高さ8〜10cmの畔を立て、株付近の排水性を高める | ・低コスト
・容易に導入できる |
耕うん同時畔立て播種技術 | 高さ15〜20cmの畝を立て、湿害を軽減する | ・粘土質の土壌にも対応可能
・耕うんと同時に、畝立て・播種を行うことができる |
不耕起播種技術 | 耕起せずに播種を行う。
湿害の軽減には、弾丸暗渠等の排水対策を組み合わせて行う。 |
・播種・整地作業を省くため、労働時間が削減できる |
上記以外の事例は「大豆編 耕うん・播種技術|麦・大豆編|農作業便利帖|みんなの農業広場」で見ることができます。
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次に「低単収の要因に対するアプローチ」について。低単収の要因は
① 有機物の補給が不十分な状態で田畑輪換を繰り返したことによる地力の低下
② 転作率の上昇と大豆作付頻度の増加に伴う病害虫や雑草害の増加等、いわゆる連作障害
とされています。上記で紹介したような、湿害を回避するための排水対策のほか、地力の向上や輪作体系を確立することで単収を維持・向上していく方法が対策として挙げられています。
参考文献