近年、「スマート農業」は日本の農業に欠かせないものとなりつつあります。
スマート農業とは、従来の農業技術に最新の情報通信技術(ICT)やロボット技術を組み合わせることで、作業効率化や生産性向上、高付加価値な農作物の生産を目指すもの。
この背景には農業人口の減少と高齢化などの課題が存在しています。たとえば日本の農業就業人口は1995年の約414万人から2020年代には200万人を下回るまで減少し、2023年の基幹的農業従事者の平均年齢が68.7歳となっています。
農業を取り巻く環境が厳しい状況にある中、スマート農業はこれらの課題を解決する手段として期待されています。
そこで本記事では、スマート農業の導入を考える人に向けて、その導入プロセスについて解説するとともに、導入時の注意点や情報収集のポイントについても触れていきます。
スマート農業の導入プロセス
スマート農業を成功させるには、明確な計画を持ち、段階的に導入を進めることが重要です。
目標の設定
スマート農業を導入する際の第一歩は具体的な目標を設定することです。
たとえば、まず掲げられる目標には、作業負荷の軽減やコスト削減、経営規模の拡大や売上向上などがあげられるかと思います。具体的な目標設定というのは、これらの目標に具体的な数値を設けることです。作業負荷の軽減でいえば「作業時間を年間で30%削減する」、他にも「生産量を20%増加させる」などがあげられます。
なお、農林水産省が公開するスマート農業の導入効果に関する実証データを参考にすると、現実的で実行可能な目標を立てやすくなります。
作業体系・利用形態の検討
まず、作業体系の検討について。導入するスマート農業技術を活用した年間スケジュールを作成します。この際、単なるスマート農機の利用計画を作成するだけでなく、作業者の配置や複数の機械を同時に運用する際の計画も重要です。
次に、スマート農業技術を効果的に利用するための形態を検討します。この検討によって、費用負担の軽減につながることもあります。
たとえばメーカーや政府が提供するスマート農業に関するサポートプログラムを活用することで、スマート農機などの導入リスクを低減することが可能です。そのほか、複数の農業者が共同で機械を利用する、スマート農業技術を用いた農作業を専門のサービス事業者に委託するといった選択肢もあります。
資金計画
スマート農業技術の導入には初期費用がかかります。そのため、事前に資金計画を立てることが重要です。先述したように、さまざまな利用形態があります。スマート農業技術を導入する際、購入以外にリースやレンタルといった選択肢もありますから、初期費用を抑えつつ技術を活用する方法もあります。そのほか、政府や地方自治体が提供する補助金や助成金の活用も視野に入れることをおすすめします。
事前研修を行う
新しい技術をスムーズに導入するためには事前に技術を習得することが重要です。事前研修として、都道府県やメーカーが主催・提供する技術指導研修会に参加する、農業大学校の短期プログラムに受講するなどの方法がおすすめです。
いよいよ導入へ
準備が整ったら、いよいよ技術を現場に導入します。はじめのうちは導入に不安があるはずですから、メーカーやサービス提供者からサポートを受けることが重要です。また、現場でのトラブル対応を重視することは、スムーズな技術の導入と早期の収益向上を実現することにつながります。
スマート農業で失敗しないためのポイント
スマート農業は多くの可能性を秘めていますが、注意すべき点も少なくありません。
導入機器やサービスの実績やリスクを確認する
たとえばスマート農業技術は日々進化を遂げていますが、発展途上のものも少なくありません。そのため、導入する機器やサービスの実績やリスクを事前に確認することが推奨されます。この際、国や地方自治体が実施している実証事業の結果が参考になります。
サポート体制が充実しているものを選ぶ
不具合が発生した際の修理体制や、導入時の技術指導の有無を事前に確認し、導入後のサポートやメンテナンスサービスが充実しているメーカーを選びます。
規格の違いに注意する
スマート農業で利用される機械はさまざまな企業が開発を行っているため、メーカーごとに規格が異なることも多々あります。違うメーカーの機械同士では互換性が低い場合もあるので、さまざまなメーカーの機器を取り入れる際には注意が必要です。
使いこなせる技術を選ぶ
高度な技術になればなるほど、使用する際に専門的な知識が求められる場合があります。導入プロセスでご紹介したような、事前研修を行い(研修会や体験会に参加し)、自分自身で使いこなせる技術かどうか確認します。
とはいえ、近年ではスマートフォンから簡単に操作できるシステムなども多く登場しています。
事前研修というと仰々しく感じられるかもしれませんが、実際に使ってみて使いこなせるかどうか、使いやすいかどうか、ぜひ確かめてみてください。
情報収集のコツ
日本の農業に欠かせないものになりつつあるスマート農業を導入する際には、最新の技術や情報を収集することが不可欠です。技術革新のスピードが速いため、情報の更新が重要になってきます。そのため、実際にスマート農業技術を導入している現場を視察したり、展示会に参加して最新の技術を直接確認したりすることが大切といえます。
情報収集を行う際は、SNSや展示会の活用がおすすめです。SNSには全国どこにいても他の農業者の取り組みや成功事例を把握できるというメリットがあります。また展示会やイベントは、実際に技術を目にしたり、専門家の講演を聴いたりすることができ、多くの情報を短期間で得ることができます。
具体的な展示会には、農林水産省が主催する「アグリビジネス創出フェア」や都道府県等が主催する「スマート農業フォーラム」などがあげられます。
参考文献
- 中村恵二 『図解入門業界研究 最新農業の動向としくみがよ~くわかる本』(秀和システム、2023年)
- 三輪泰史『図解よくわかるスマート農業-デジタル化が実現する儲かる農業』(日刊工業新聞社、2020年)
参照サイト
- スマート農業技術導入手引き書
- スマート農業が抱える課題とは? 導入費用を抑える方法も紹介 | BizDrive(ビズドライブ)−あなたのビジネスを加速する|法人のお客さま|NTT東日本
- スマート農業とは? 仕組みやメリット・デメリットなど | 株式会社 日立ソリューションズ・クリエイト
(2024年12月10日閲覧)