近年、燃油価格の高騰が農業経営に大きな影響を及ぼしています。特に、冬季の加温が必要な施設園芸では、燃油代が経営費に占める割合が高く、コスト削減が課題となっています。
本記事では、農業用ハウスの暖房代を節約するための実践的なアイデアをご紹介します。
燃油代軽減の工夫事例
ハウス内の断熱効果を向上させる工夫を行うことは燃油代の軽減につながります。たとえばハウスの出入り口や天井にカーテンを取り付けて、ハウス内の空間を小さくすることで隅々まで暖房が効くようにするのも工夫の一つです。
また、ハウス内に新たにフィルムを取り付けると暖房効率の大幅な向上につながります。この際、カーテンとカーテンの間に空気層を設けると、外気との熱交換を抑えることができ、保温性が高まります。また既存の内張りフィルムが劣化している場合には、中間に空気層を持つ多層フィルムに交換してしまうのもおすすめです。中間に空気層を持ったものであれば1層でも保温効果が高まります。
そのほか、ハウスの外側を特殊なビニールで覆い、ハウスとビニール膜の間に送風機で空気を送り込むことで、外気との温度差を利用して断熱層を作る方法があります。初期コストがややかかりますが、長期的に見ると燃油削減効果が期待できます。
換気をする機会の少ない冬季だけ換気窓や扉の隙間に目張りを施すのも有効です。
薪ストーブ活用術
電気がなくても使用できる薪ストーブも、暖房代節約ワザの一つ。
メリットとしては、薪ストーブの燃料に木材を利用しますが、燃油よりも安価であること、建築廃材や剪定した樹木を燃料として活用でき、持続可能なエネルギー源であることがあげられます。
ただし、導入時の初期投資が必要になる点や燃料となる薪の調達、保管スペースが課題となる点がデメリットとしてあげられます。加えて、ストーブ単体では加温が不十分な場合があります。そのため、重油暖房機との併用が推奨されています。
薪ストーブの操作にはある程度の技術が必要になり、適切な管理を怠るとハウス内の温度ムラが発生する場合もありますが、農業情報誌『現代農業』では度々、燃油代の節約に成功した導入事例が掲載されています。
たとえば千葉県のある農家では、重油暖房機と薪ストーブを併用し、燃油代を1年あたり約200万円節約することに成功しています。この事例では、薪ストーブ導入による利点は燃油代節約に限らず、栽培作物(キュウリや促成トマトや促成ナス、ミニトマトなど)の病気が減り、収量がアップした、ともありました。さらに燃油代を減らす工夫として、この農家は高い生育温度が必要な作物の面積を縮小し、比較的低温で栽培可能なイチゴやミニトマトへの切り替えを行っています。
高知県のある農家では、薪ストーブと既存の重油ボイラーを併用し、暖房効率の向上に努めています。薪ストーブに火をつける際の焚き付けには、無料でもらうことができる建築廃材を利用しており、重油ボイラーとの併用によって重油の使用量は7割減ったとあります。
ヒートポンプ活用術
ヒートポンプとは、「熱(ヒート)を温度の低いところから集めて温度の高いところへ汲み上げる機器(ポンプ)」です(引用元:省エネ設備で 施設園芸の収益⼒向上を|農林水産省)。
ヒートポンプのメリットは、少ないエネルギーで効率的に加温ができる点です。ヒートポンプは消費するエネルギーの3〜6倍の熱を利用できます。
ただし、初期費用が高額な点がヒートポンプ導入最大の課題といえます。ヒートポンプ自体の価格が燃油暖房機の3〜5倍かかり、ヒートポンプだけで暖房をまかなおうとすると初期費用がとても高価になります。そのため、小規模な農家では導入が難しい場合があります。
また、外気温が極端に低い環境では性能が低下するため、一般的には重油暖房機と併用したハイブリッド運転が推奨されます。ハイブリッド運転では、外気温が一定以下になると重油暖房機が作動し、全体の効率を補完します。
初期費用がかかり、外気温が極端に低いと性能が低下するというデメリットはありますが、ヒートポンプを導入することで電気代を含めた暖房費を大幅に削減することができます。
たとえば農林水産省が公開する「ヒートポンプの導⼊による営農改善事例」で紹介されている福島県のあるトマト農家では、ヒートポンプの導入により、11月〜5月の暖房期間で燃油暖房機のみの暖房と比べ、約140kLの燃油を削減しています。
千葉県のメロン農家では、既存の燃油暖房機とヒートポンプの併用により、燃油使用量が約52kLから約6kLに減少。ヒートポンプを利用したことで電気代は増加しましたが、それでも暖房費が約6割削減できた(約360万円→約140万円)、とあります。
紹介されているいずれの事例も、ヒートポンプ導入による電気代の増加に言及していますが、燃油使用量も暖房費も減少しています。
なお、従来の燃油暖房機とヒートポンプを併用する際、外気温が極端に低い環境において、先述したハイブリッド運転(外気温が一定以下になると重油暖房機が作動し、全体の効率を補完する状態)が有効な一方、低下した外気温が再び上昇する際に燃油暖房機が優先的に働いてしまうと省エネ効果が低くなる点に注意が必要です。燃油暖房機やヒートポンプのセンサーの位置や温度設定など、機器の運転状況についてこまめに確認してください。
その他工夫
そのほか、割安な電気料金メニューを選ぶことも暖房代の節約ワザの一つです。各電力会社は、農業を含む事業者向けに、昼と夜の電気料金に差をつけ、夜間の電気料金をより安くする契約を設けています。夜間の電気使用が多い場合にこの契約を利用すると、電気代を2〜3割節約することができます。
農業用ハウスの暖房代を節約するためには、断熱効果の向上や薪ストーブ、ヒートポンプの導入など、さまざまな工夫が考えられます。どの方法を選ぶかは、農家の規模や経営方針、地域特性によって異なりますが、コスト削減と環境負荷軽減を両立する取り組みが重要です。ご自身のハウスに最適な方法をぜひ検討してみてください。
参照サイト
- 冬の燃油節約対策_ シリーズ「最適な農業用ハウスで強固な経営」Vol.7
- 【燃料代高騰対策1】ハウスの加温 薪ストーブで重油代200万円節約(全文掲載) – 現代農業WEB
- 【暖房代を減らす】冬春トマト 林業家と手を組んでハウスをハイブリッド加温 – 現代農業WEB
- 省エネ設備で 施設園芸の収益⼒向上を
- 農業の冬場の電気代に お困りではありませんか!?
(2024年11月20日閲覧)