新型コロナウイルス(以下コロナ)の影響で、さまざまな業界が打撃を受けています。農業界においては「売り先がなくなってしまった」という声も聞こえています。
突如として売り先がなくなる原因はコロナだけとは限りません。天災や経済的な理由でも起こりえます。そこで本記事では、あらゆる状況を乗り越えるために、複数の販路をもつことについてご紹介していきます。
販路を複数確保すべき理由
まず野菜の販路にはどのようなものがあるでしょうか。
- JAへの出荷
- 市場への出荷
- 直売所等への出荷
- 小売店等(スーパーマーケットなど)への出荷
- 飲食店への出荷
- イベント(マルシェなど)での出荷
- インターネット通販
これらを細分化していけば、これ以上に販路を増やすこともできます。
後ほど具体的な事例を紹介しますが、販路を複数確保することでリスクを分散させることができます。例えば、販路が市場への出荷のみ、または契約が1社のみだった場合、何らかの原因で市場価格が大幅に下落したり、契約が打ち切られてしまった場合、売り上げは0になってしまいます。
複数の販路を組み合わせることで、そのリスクを回避することができます。
ただし、販路を闇雲に広げればいいというわけではありません。育てている野菜の種類によって、品目や量、畑の面積も異なりますし、農家自身の性格や営業の得意・不得意なども異なります。販路を確保するために、人と話すのが苦手なのにマルシェなどで直接販売するのはあまりおすすめできません。
実際にやってみることで、描いていたイメージとの違いに気づけることもありますが、どのような商品をどんな風に販売していきたいのか、経営を行う上での展望をしっかり定めた上で販路を見極めていくことが大切です。
事例から学ぶ、複数の販路をもつメリット
2020年7月1日に刊行された『現代農業7月号』では、複数の販路があったからこそ、コロナの危機を回避できた事例が紹介されています。
例えばある農家ではレストラン向けの野菜の売上が、緊急事態宣言で飲食宿泊施設に休業・自粛要請が出されたことで激減。レストラン向けの野菜はややマイナーな品目が多く、対面でなければ販売が難しいものも多かったようですが、一方で学校給食や外食のほか、スーパーマーケットにも卸していた野菜が従来同様販売できていることで、給食、外食向けの注文は減りつつも、なんとか持ち堪えました。
コロナではレストラン向けの注文が減り、ピンチに陥りましたが、この農家は雪害で施設栽培の野菜が被害を受けた際には、露地栽培していたレストラン向け野菜がピンチを救っています。
テレビなどのメディアでも取り上げられていた東京都江戸川区のコマツナ農家の場合、販売先の9割が給食用であり、緊急事態宣言が噂された3月の時点で学校用の出荷が0に。
しかし外出自粛が呼びかけられた4月になる前には、区役所前での即売会やコマツナ狩りイベントなどを行うことで売り先を確保し、4月以降も通販やトラックでの配送を行うことで注文数を増やしています。
もちろん、この例をただ真似するのはおすすめしません。従来とは異なる販路を開拓したことで、思わぬ労力が必要となる場合もあるからです。例えば通販や直接配送が人気を博し、注文が殺到したとしても、顧客管理や伝票の出力作業、配送作業に追われ、うまく回せなくなる可能性があります。
複数の販路をもつ際の注意点
販路を複数に広げる前に、自分がどんな農業を営みたいのかを理解しておきましょう。先でも紹介しましたが、農業経営に対する自分の展望と反する販路をもってもうまくいきません。
販路によってメリット・デメリットは異なります。
例えば市場では規格品であれば全量買い取ってもらうことができますが、金額を自分で決めることはできません。小売店などでの出荷は、百貨店など、その販売先によってはブランド力が得られるかもしれません。その一方で、小売店での販売に見合う出荷作業(シール貼りや洗浄作業、選別作業など)が伴うことがあります。
マルシェなどのイベントの場合、対面で販売するため、野菜の見せ方や説明の仕方など、ブランディングの技術を高める良い機会になるといえますが、屋外イベントの場合には天候に左右されたり、時期によっては来店客数が減ったりするなどのリスクもあります。
「労力の割に意外と儲からない」と感じることもあるかもしれません。
リスクを分散させる考えを軸に、自分に合った販路を見出していくことをおすすめします。
参考文献
- 販路拡大の基本|アグリウェブ
- 豊島至、『現代農業7月号』、2020年7月1日、一般社団法人農山漁村文化協会