昨今、強大な台風や集中豪雨といった大雨などの影響で、農地やパイプハウス、温室などが甚大な被害を受けるといった事例が度々報告されています。災害が起きない状況をもたらすことはできませんが、災害に強い生産基盤を作ることはできます。
そこで本記事では、農業用ハウスに着目し、その補強対策について紹介していきます。
農業用ハウスの補強対策
台風が来る前に農業用ハウスの補強を業者に依頼することももちろんできますが、大々的な補強をするとなると高額になることもあり、コストがかかります。
そこで、台風による農業用ハウスへの被害の傾向を知り、日頃から補強しておくことで、コストも被害も抑えることができます。
被害の傾向
台風による被害には一定の傾向が見られるとされており、主に以下の4つがあげられます。
- 横風により、風上側から屋根にかけてハウスが押しつぶされる
- 下から吹き上がる風でパイプが変形したり、出入り口や天井などの被覆資材が飛ばされたりする
- ハウスに対して平行に吹く風でハウスが奥行き方向に倒壊する
- ほ場周辺の地形や建物の影響で風が真上から吹き、上部から押しつぶされる
傾向別の対策
被害の傾向や過去の事例、農業用ハウスの立地条件や、台風や強風の発生・予測時の風向きなどに応じて、局所的・効率的に補強することが大切です。
先で紹介した被害の傾向1(横風)の場合、タイバーやX型補強の設置、強風による横からの圧力が1カ所にかかるのを防ぐための補強が効果的です。
被害の傾向2(下から吹き上げる風)の場合、風の吹き込みによって被覆資材が浮き上がるのを防ぐため、風当たりの強い部分に防風ネットを張ったり、スプリングやパッカーなどを利用して資材を固定するのが効果的です。農業用ハウスの基盤近くの地盤が緩んでいると、下から吹き上がる強風で基礎が抜けやすくなるため、地盤の状態によっては基礎部分の強化も合わせて行いましょう。
被害の傾向3(平行に吹く風)の場合、防風ネットによる補強のほか、奥行き方向への倒壊を防止する役目を担う「筋交い直管」による補強を行います。
被害の傾向4(真上から吹く風)では、ハウス内部にアーチパイプを設置すると、ハウスが強化され、真上から押しつぶされにくくなります。
被害の傾向と補強方法は図面で見るとより分かりやすいです。
令和元(2019)年10月に公開された千葉県農業用ハウス災害被害防止マニュアルが分かりやすいのでぜひチェックしてみてください。
頑丈な農業用ハウスを自作する
農業情報誌『現代農業』では度々自作のパイプハウスや自主的な補強の特集が組まれています。
たとえば、自作パイプハウスの事例では建築現場の足場用資材としてよく用いられる「足場パイプ」でパイプハウスを作っています。流通量が多く手に入りやすいため、値段が安く、頑丈さが特徴です。記事中で「足場パイプハウス」は費用面では「一般的なパイプハウスと同等か少し安いくらい」とありますが、耐候性ハウスと比較すると4割近く安く済むのだとか。農業研究センターなどが公開する設計マニュアルを利用すればイチから設計する必要はありません。
農業用ハウスを自力でイチから設計するのは大変かもしれませんが、すでに施工済みのハウスをより頑丈にする作業であれば比較的取り組みやすいのではないでしょうか。下記資料などを参考に、農業用ハウスの構造強化に取り組みたいところです。
生産者が自分でできる 補強資材等によるパイプハウスの構造強化対策
とはいえ、作業の全てを自力で行うことには限界もありますので、無理のない範囲で補強対策を実施いただければと思います。
参考文献
『現代農業 2022年8月号』p.214〜217(農文協、2022年)