耕作放棄地や荒廃農地※といった、耕作する意思のない状態の土地は増加傾向にあります。一方で、規模拡大を希望する農業従事者や新規就農者の頭を悩ませているのが土地の確保です。
規模拡大を希望する農業従事者の場合、借受可能な農地が見つからない限り、規模拡大は進められません。そこで注目されるのが耕作放棄地の活用です。
また竹島久美子『耕作放棄地解消と新規就農者受け入れに関する実証的研究』(日本農業研究所研究報告『農業研究』第27号p.469〜494、2014年)によると、新規就農者は担い手バンクにおいて農地貸し出しの優先順位が低く、優先順位の高い既存の農家に比べ、すぐに利用するには条件が悪い農地に当たることがある、と書かれています。
本記事では、規模拡大を考えている農業従事者や新規就農者が耕作放棄地を活用する際の、農地の再生手順について紹介していきます。
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耕作放棄地と荒廃農地はそれぞれ用語の定義が異なります。
耕作放棄地は「農林業センサス」で定義された用語で、「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地」を指します。
荒廃農地は農林水産省「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」において、「現に耕
作されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地」を指します。
耕作放棄地は主観的に(農家等の耕作の意思で)判断されたもので、荒廃農地は客観的に(調査員が状態を見て)判断されたものといえます。
農林水産省が公開する資料「『荒廃農地』と『耕作放棄地』って同じもの? …違うようです」には、耕作放棄地と荒廃農地がどのような部分で共通し、どのような部分で別物なのかがわかりやすい図が掲載されています。
農地の再生に向けて
農林水産省の資料「耕作放棄地の再生利用のために - 参考資料 -」には以下の1文が記載されています。
耕作放棄地対策は、当該農地だけの対策ということではなく、これをきっかけとして地域の将来が話し合われ、その実情に応じた計画づくりがなされることが期待されます。
このため、まず最初に体制づくりを行い、地域ぐるみの話し合いと計画づくりができる受け皿(地域耕作放棄地対策協議会)を設けることが必要です。
本記事では、“当該農地だけ”で実際に農地を再生・復元する作業を行う際に活用できる手順として紹介していきます。ですが実践する際には、地域ぐるみでの耕作放棄地対策を意識して、農地周辺の人たちに協力を仰ぎ、対策に臨むことが大切です。
まずは調査
すぐに作付するのが難しいほ場の場合、雑草を取り除いたり、農地の状態を確認したりする必要が生じます。そのため、まずは農地の調査を行います。
雑草など、農作物を作付けするのに不都合な植物を取り除く前に、それらの種類や大きさについて調べます。生えている植物の種類や大きさ、地上部だけでなく地中にある根茎なども調べる必要があります。その理由は、それらを除去するのに適した作業機械を選ぶためです。
雑草などを除去したり、土を平らに均したりする場合、機械を使う場合があるかと思います。機械を安全に動かすためには、農地の傾斜度や形状等の確認も必要です。農地そのものだけでなく、法面も確認します。自然災害や鳥獣害の影響で崩壊している場合があるからです。土壌中に岩石等不要な物が含まれていないか、不法投棄された廃棄物等がないかどうかも合わせて確認します。
再生作業や再生後の営農で機械利用を検討する場合、接続道路や侵入道路も確認します。
続いて用水路や排水路の確認、土壌が再生後の導入作物に適した表土かどうかにも注意を払います。
再生作業はどう進めるのか
作業を行う時期を決める際は、農地の状態に合わせて、作業しやすい時期を選びます。地域ぐるみで対策を行う場合、地域の農家に協力を仰ぐことになるかと思います。その際は、農閑期やその地域の行事などの活動が少ない時期を考慮して依頼することが大切です。
先述した現地調査を行った後、土木的な作業に必要な機械を調達し、作業の内容や手順を定めて進めていきます。
耕作放棄地は、雑草が生い茂り見通しが悪くなることで、産業廃棄物などが不法投棄されている場合もあります。そのような土壌には、コンクリートやビニール類などの廃棄物が残っていることがあります。また産業廃棄物やゴミでなくとも、枝葉や木、根や岩石などは畑にすきこむことができません。
土壌に不要な物の処分方法についても検討が必要です。枝葉や木、根などは、加工することで堆肥や腐葉土の原料として利用できる場合があります。その他、ほ場内で解決できない不要物は、法令等に基づき、適切に処分してください。
土壌改良が必要な場合には、再生後に導入する作物に合った土づくりから始めます。本サイトでは、耕作放棄地におすすめの緑肥栽培を紹介しています。
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回復後の営農定着が大事
耕作放棄地や荒廃農地を営農できる状態に再生・復元したらそこで終わり、ではありません。耕作放棄地などを減らすには、営農の定着が大事です。
耕作放棄地や荒廃農地となった背景にはさまざまな理由がありますが、長い間耕作されてこなかった農地の場合、土壌の状態が悪かったり、周辺環境の影響で鳥獣害を受けやすかったりと、特定の農作物を育てにくい場合もあります。
以下の作物は、耕作放棄地に導入する作物としておすすめ、または注目されている植物です。手間がかかりにくいものもあるので、元・耕作放棄地での営農定着に役立つことが期待されます。
- ソバ 手間がかかりにくい。
- 山菜類 もともと山に自生し、栽培に手間がかからない。鳥獣害を受けにくい。
- 飼料作物 自給飼料の確保、放牧と合わせた雑草繁茂の防止等の効果が期待される。
- マコモダケ 水田等、湿地においても栽培が可能。
- アマランサス ヒユ科の植物(雑穀)。水田転換作物として好適。
- エゴマ 健康食品としても注目されている。鳥獣被害を受けにくい。
- ジャンボニンニク臭いが少なく食べやすい。イノシシが好まない。
- レモングラス レモンのような香りのハーブ。イノシシ被害が少ない。棚田でも栽培される。
千葉県のウェブサイトで紹介されている木更津鎌足地区の事例では、イノシシ被害のあった耕作放棄地でニンニクとショウガを栽培しています。取り組み農地は元々は水田で、猪による獣害などが原因で耕作放棄された土地でした。
背丈を超える草木が茂った農地は山林に挟まれていることもあり、山から木々が垂れ下がることで作業道が塞がれていた、とあります。そのため、再生作業はほ場にたどりつくための作業道の草刈りから始まりました。無事、作業道を通行できるようになってから、ほ場内に機械が入り、草刈り、土壌中に残る根や地下茎の裁断、水路を掘るなどの作業が行われました。
導入作物は、農地が放棄される原因となったイノシシに食べられにくいニンニクやショウガなどを作付することで、被害を抑えています。
参照サイト
(上記、2024年1月9日閲覧)
(上記、2024年1月18日閲覧)
参考文献:竹島久美子『耕作放棄地解消と新規就農者受け入れに関する実証的研究』(日本農業研究所研究報告『農業研究』第27号p.469〜494、2014年)