近年、環境負荷を低減する「循環型農業」に関心が高まっています。
化学肥料や農薬の登場は生産効率の向上に寄与しましたが、不適切な使用により余剰な窒素が増え、農業生産が環境負荷の原因となる場合が生じるようになりました。循環型農業は環境負荷の低減だけでなく、持続的に農業生産が続けられるようにする目的からも注目されています。
自然に近い形で農業生産を行う循環型農業。その主な方法として「畜産動物の糞尿を堆肥化し、畑に還元する。畑で育った作物を畜産動物の飼料として供給する」があります。とはいえ、牛や豚といった大型〜中型の畜産動物を育てながら農業を行うのは、経営規模を拡大しないと取り組みにくいのがネックです。
そんな中、「自給農業」という言葉を打ち出した中島正氏の著作『農家が教える自給農業のはじめ方―自然卵・イネ・ムギ・野菜・果樹・農産加工』を見つけました。「自然卵養鶏の生みの親」と呼ばれる中島正氏は、養鶏と農業で循環型農業を実践してきた人物です。
そこで本記事では、比較的取り組みやすい畜産動物「ニワトリ」がおすすめできる理由と、実際に飼い始める際に注意すべき点について紹介していきます。
ニワトリを飼うススメ
初期投資が少なくて済む
牛や豚に比べ、初期投資が少なくて済みます。牛や豚を育てる場合には、ある程度しっかりした飼育施設や大量のエサを用意する必要がありますが、ニワトリの場合には比較的簡素な飼育施設で済みますし、エサも牛や豚よりはるかに少ない量で足ります。糞の量も同様です。飼育数によりますが、少ない数であれば、エサも糞の処理も一人で行うことができます。
また卵や肉などを販売する場合も、牛や豚に比べてそこまで手間がかかりません。卵は常温で出荷することができますし、商品化する際も卵を拾ってパックに詰めるだけと簡単な作業で済みます。肉にするのも、牛や豚に比べれば取り組みやすいメリットがあります。
減農薬に役立つ
まずニワトリは除草や害虫駆除に役立ちます。雑草やヨトウムシなどの害虫を食べてくれるので、農地やハウス内に放し飼いにしている人も少なくありません(ただし後述しますが、畑に慣れてきたニワトリが生産物に害を与える場合もあるため、注意も必要です)。
それから鶏糞は畜産物の糞の中でもダントツで窒素が多く、肥料として活用することができます。鶏糞を元肥として使う場合には、野菜などを植える7〜10日前に畑に入れましょう。
鶏糞を肥料として活用している事例には、肥料代が3分の1以下になったものも。市販の有機肥料(1袋2000円ほど)と骨リン資材(1袋3000円ほど)を配合し、元肥を入れていたのを、モミガラの上から鶏糞堆肥、鶏糞灰をまく方法に変えたところ、農作物の品質や日持ちには問題がないまま、肥料代が3分の1程度になったようです。
卵や肉が活用できる
先でも紹介しましたが、ニワトリが産む卵やニワトリの肉が生産物として活用できます。
実際に卵を販売している事例によると、販売先は個人直売や道の駅、飲食店など、価格は1個35〜45円または10個1パックで400円などで販売しているようです。
肉の場合、親鶏の肉は味がいいが少々硬いため、精肉加工業者に依頼し、ミンチ肉にして販売する事例が多く見られました。
ニワトリを飼うときの注意点
初期投資が少なく、除草や害虫駆除に役立ち、卵や肉も商品として販売することができるニワトリ。大変魅力的な畜産動物ですが、農作物(植物)を育てるのとは少々わけが違うところもあります。
最後に、ニワトリを飼うときの注意点を紹介していきます。
エサ代に注意
「減農薬に役立つ」の部分で”雑草や害虫を食べてくれる”と紹介しました。しかしニワトリの飼育数や卵や肉の品質を意識する場合には、エサを用意する必要があります。市販の配合飼料や飼料米、丈夫な卵のためにカキ殻などの石灰分を用意する農家も少なくありません。
ニワトリの産卵率が低下したり、卵の品質が落ちてきたとき、廃鶏させずにそのまま飼い続けると採算が合わなくなることも。飼育数や与える飼料、卵や肉の活用を考える際、必ず金銭面も絡めて考えるようにしましょう。
獣害対策が必要
ニワトリを飼っている農家でよく聞くのが、獣害です。野犬やイタチ、キツネなどに殺されてしまう事例があります。
対策法としておすすめなのは、鶏小屋を用意し、朝晩は鶏小屋にニワトリを入れる方法です。電気柵だけだと隙間から入り込まれる場合があります。徹底する場合には、朝晩は鶏小屋にニワトリを囲い、その周りを電気柵などで囲う、飼い犬や飼い猫がいれば、それらに野生動物を追い払ってもらうのがベストです。
その他考えられること
放し飼いされ、畑に慣れてきたニワトリの中には、畝を崩してしまったり、畑のあらゆるところを掘ってしまったり、農作物の上に巣をつくってしまったり、予期せぬ動きをするものもいます。放し飼いにする際、完全に放っておくのではなく、時折観察する必要があると言えます。
また鳴き声などが気になる場合には、鳴き声が小さい「雌」だけを飼うのもおすすめですよ。
参考文献
- (4)環境保全型農業の推進 農林水産省
- 「循環型農業」の本質とは? スマート農業との両立は可能なのか SMART AGRI
- 中島正, 『農家が教える自給農業のはじめ方―自然卵・イネ・ムギ・野菜・果樹・農産加工 』, 2007年10月1日, 農山漁村文化協会
- 『現代農業1月号』, 2017年1月1日, 一般社団法人 農山漁村文化協会