世界的に環境への意識が高まりつつある昨今、不適正な処理で海洋へと流出したプラスチックごみによる地球規模の環境汚染が懸念されています。
そんな中、2017年末に中国が使用済プラスチックの輸入を禁止しました。実は日本は、国内で発生する年間約900万トンのプラスチックごみのうち、約100万トンを輸出して処理していたのですが、中国が最大の受け入れ国だったため、国内の処理施設が逼迫するという状況に置かれています。
またタイやマレーシアも2018年から輸入制限を強化し、2021年からは国際的にプラスチックごみの輸出入が制限されるとされています。
このプラスチックごみ問題は、農業分野には無関係…というわけではありません。むしろ、農業分野において、プラスチックは農業用ハウスやトンネルの被覆資材、マルチ、苗のポットなどなど、必要不可欠な生産資材だとわかります。
そこで本記事では、農業から出るプラスチックごみに着目し、プラスチックごみを減らすためにとるべき行動についてご紹介します。
農業から出るプラスチックごみ
農業分野で使用されるプラスチックの種類は
- 塩化ビニルフィルム
- ポリオレフィンフィルム(ポリエチレン、ポリオレフィン)
- その他プラスチックフィルム(硬質プラスチックフィルム)
- その他プラスチック(ポット、トレイ)
に分けることができます。
農業用フィルムの多くは「塩化ビニル」か「ポリオレフィン」が占めます。これらは鉄骨ハウスやパイプハウス、トンネル、マルチ等に使われています。
農業用プラスチック処理の現状
農業分野から出た廃プラスチック(以下、廃プラ)は、産業廃棄物として処理する必要があります。
その処理方法は、
- 再生処理
- 埋立処理
- 焼却処理
- その他
に分けられます。
焼却処理が一番多かった平成5年から、徐々に再生処理の割合が上昇し、平成26年には再生処理の割合が76%になりました。農業用フィルムの素材である塩化ビニルとポリオレフィンの再生処理割合は約8割と言われています。
ですが、再生処理の内訳を見ると、国際的には「リサイクル」としてみなされない処理が大半を占めています。
塩化ビニルの再生処理は「マテリアルリサイクル」と呼ばれる、いわゆる「再生利用」が施され、床材等に再生されます。一方でポリオレフィンは「サーマルリサイクル」が中心です。サーマルリサイクルとは、廃プラを主原料とした固形燃料などを代替燃料として燃やし、その排熱を発電などに利用することです。
サーマルリサイクルに対する各国の意見
サーマルリサイクルは“リサイクル”と書かれていますが、欧米ではこの利用方法は「熱回収」と呼ばれ、リサイクルとはみなされていません。2016年に「プラスチック循環利用協会」は「日本のプラスチックごみ(農業用含む)のリサイクル率は84%」と発表しましたが、この3分の2がサーマルリサイクルです。
プラスチック汚染の問題と「脱プラ」生活について書かれた『プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』には
プラスチックが蔓延し、そのすべてを効率よくリサイクルすることが事実上不可能であるという現状の中、焼却による熱回収を正当化することでプラスチック問題の“収束”を図ろうとする動きは世界に広がっている。
引用元:シャンタル・プラモンドン&ジェイ・シンハ著 服部雄一郎訳, 『プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』109ページ, 2019年5月25日, NHK出版
とありますが、サーマルリサイクルはあくまでも「リサイクルが困難な場合の次善策」。そのため、「熱回収」分を除外すれば、日本のプラスチックごみのリサイクル率は27%に急降下してしまうのが現状です(本作には、廃棄物の区分や算出方法は国ごとに違い、統計も各国の推計のため正確な比較は難しいとありましたが)。
また、ごみの焼却処分は、埋め立てと比べ、高度な技術を必要とし、ダイオキシンなどの有害物質の排出も避けられず、非常にお金がかかります。日本は世界少数のごみ焼却国ですが、高度な焼却炉の建設維持にお金がかかり、資源化を進めるための予算がほとんどないのが現状とも言われています(参考文献5)。
プラスチックごみを減らすにはどうすべきか
いきなりごみをゼロにするのは現実的ではありません。しかしプラスチックごみについて考え、行動することで、ムダにしない意識や減らす意識は生まれるはずです。
農業用廃プラは適正に処理する
農業で出たプラスチックごみを適正に処理しましょう。先でも述べたように、農業由来の廃プラは産業廃棄物であり、法律に基づき適正に処理する「義務」があります。不法投棄や不法焼却は法律で禁止されています。
廃プラはリサイクルが基本です。サーマルリサイクルに回されてしまうものもありますが、いずれにせよ、リサイクルされやすくするためには正しく分別する必要があります。また⾦属や作物残渣、泥などは取り除きましょう。
一般社団法人日本施設園芸協会のHPに、「農業用使用済プラスチック適正処理の手引き」があります。処理の流れについて確認しておきましょう。
農業用廃プラの排出を抑制する
ごみを減らすには、ムダな使用を減らすのも有効です。耐久性が高く、長い期間継続して使える被覆資材を選ぶと、ごみの排出を抑制するだけでなく、張り替え作業の省力化、コスト削減にも役立ちます。また再利用できるものを使うのもおすすめです。
資材を選ぶ際、マテリアルリサイクルされやすい素材を選ぶのもおすすめです。
生分解性マルチの活用
近年、「生分解性マルチ」の活用が注目されています。作物が生育している間は、ポリエチレンマルチと同じ機能を果たしますが、収穫後に土の中にすきこむと土壌中の微生物に分解されてなくなるというものです。
生分解性マルチは、通常のマルチに比べると高価です。また黒の生分解性マルチを透明ポリマルチと比べると、地温が上がりにくいために初期生育が遅れるというデメリットも挙げられます。
一方で、収穫後にマルチを剥がす作業、乾かしてから処分する作業はなくなり、処分費もかからないというメリットもあります。ごみの減量、環境への配慮という目的から、生分解性マルチの購入費に補助金を出す地域もあります(東京都あきる野市の事例・参考文献4)。
生分解性マルチを畑にすき込む際には注意点があります。
完全分解性の生分解性プラスチックを畑にすき込む行為は、産業廃棄物の処理(中間処理)に該当し、廃棄物処理法に基づく処理基準を守る必要があります。使用後の生分解性マルチをすき込む際は、周辺へ飛散、流出が起きないよう、しっかりすき込みましょう。
すき込みが甘かったり、分解条件が悪く、十分に分解されなかったマルチ等が目視できる状態で地表に残留していたりすると、「不適正な処理」として自治体から指導を受ける可能性があります。
参考文献
- プラごみ全量を国内処理へ 環境省、輸出規制に備え 日本経済新聞
- 廃プラ 中国禁輸行き場失う 処理値上がり農家負担ずしり 日本農業新聞
- 農業分野から排出されるプラスチックをめぐる情勢 平成31年2月 農林水産省
- 瀬谷勝頼他, 『むら・まちづくり総合誌 季刊地域 SPRING 2019 No.37』, 2019年5月1日, 一般社団法人農山漁村文化協会
- ベア・ジョンソン著 服部雄一郎訳, 『ゼロ・ウェイスト・ホーム ごみを出さないシンプルな暮らし』, 2016年9月17日, アノニマ・スタジオ
- シャンタル・プラモンドン&ジェイ・シンハ著 服部雄一郎訳, 『プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』, 2019年5月25日, NHK出版
- プラスチックリサイクルの基礎知識2019 一般社団法人プラスチック循環利用協会
- プラスチックと賢く付き合うための農業⽣産現場での取組
- 生分解性マルチフィルム普及マニュアル