農業⽣産におけるプラスチック。プラスチック問題の解決に向けて、農業分野が取り組むこととは。

農業⽣産におけるプラスチック。プラスチック問題の解決に向けて、農業分野が取り組むこととは。

プラスチックごみによる海洋汚染は国際的な課題とされています。このプラスチック問題への農業分野の関わりは決して遠くありません。農業用ハウスやトンネルに使用される被覆資材、マルチ、被覆肥料※など、農業資材にはプラスチックを使用したものが数多く存在するからです。

※表面が、プラスチック等の殻で覆われている肥料(引用元:被覆肥料の被覆膜の流出防止について−岡山県ホームページ(備前県民局農林水産事業部)

令和3(2021)年1月に公開された農林水産省の資料「農業分野から排出されるプラスチックをめぐる情勢」によると、農業分野から排出される廃プラスチックの量は、農業用ハウスの面積が減少していることや被覆資材の耐久性が向上している等を利用に、全体的には減少傾向にあるといわれています。

とはいえ、新たな汚染を生み出さないためには引き続き

  • 廃プラスチックの排出抑制
  • 廃プラスチックの適正な処理

を徹底することが重要です。

 

 

農業分野のプラスチック削減への取り組み

農業⽣産におけるプラスチック。プラスチック問題の解決に向けて、農業分野が取り組むこととは。|画像1

 

プラスチック問題の解決に向けての取り組みには、

  • 使用済みの農業用フィルムの適正処理
  • 被覆肥料の被膜殻の流失防止
  • 生分解性マルチの利用促進

などが挙げられます。

本記事では、上記2つについてご紹介していきます。

 

 

農業由来の廃プラスチックの適正な処理

農業⽣産におけるプラスチック。プラスチック問題の解決に向けて、農業分野が取り組むこととは。|画像2

 

農業由来の廃プラスチックは産業廃棄物として処理されます。平成5(1993)年には、その処理方法として「焼却」が一番多く、次いで「再生処理」「埋立処理」が行われていましたが、平成26(2014)年には再生処理の割合が76%まで上昇しています。

ハウスやトンネル用資材としてよく用いられている「塩化ビニルフィルム」、マルチや畜産のサイレージラップ、また近年ではハウスやトンネル用資材としても用いられる「ポリオレフィン系フィルム」は、再生処理の割合がともに約8割となっています。

塩化ビニルフィルムの場合は床材等へのマテリアルリサイクルが中心で、ポリオレフィン系フィルムはサーマルリサイクルが中心です。

サーマルリサイクルは“廃棄物を焼却炉で燃やす際、発生する熱を発電や温水などに再利用すること。(出展元:小学館 デジタル大辞泉)”です。廃棄物を燃料として燃やす際、二酸化炭素が排出されることから、巷ではリサイクルの方法として疑問視する声もあがっています。

ただし「園芸用使用済プラスチックの適正処理に関する基本方針」には“リサイクルは、プラスチックの特性を活かしたマテリアルリサイクルが最も適当であるが、それが困難な場合には、サーマルリサイクルを進めるものとし”、とあります。

またポリオレフィン系フィルムの一部は、パレットや建築土木資材、ベンチやくい、U字溝などの成型品などに使用されるなど、マテリアルリサイクルされています。

 

 

農業用プラスチックの処理で農業従事者が心がけたいこと

農業⽣産におけるプラスチック。プラスチック問題の解決に向けて、農業分野が取り組むこととは。|画像3

 

先でも記しましたが、農業由来廃プラスチックは産業廃棄物です。そのため、関係法令に基づいて農業者が責任をもって適正に処理を行う義務があります。農業由来廃プラスチックの不法投棄や不法焼却(野焼き)は関係法令で禁止されています。

近年、農業者に求められているのが被覆肥料の流出防止の取り組みです。

環境保全に関する調査分析、研究等を行う一般社団法人ピリカが公表した、全国120の水域で行われたマイクロプラスチックの流出実態調査(20年度版)によると、流出しているマイクロプラスチックの内訳のうち、質量比で肥料の被覆殻は人工芝(23%)に次ぐ15%を占めたとあります。

マイクロプラスチックは5mm未満のプラスチック粒子を指し、生物によって分解されないため、河川や海洋に流入すると半永久的に蓄積されることや、表面に有害物質が吸着しやすいこと、海の生物が取り込んでしまうことなどから、生態系への影響等が不安視されています。

被覆肥料の流出防止のため、推進されているのが流出させないための水管理と他の機能性肥料の活用です。

流出させないための水管理

被覆殻や肥料成分の流出防止のため、推進されているのが「浅水代かき」です。その名の通り、入水量を減らして代かき(田に水を入れて土を砕いてかきならす作業)を行います。

代かきや田植え前は強制落水ではなく自然落水で水位を調節することも流出防止につながります。

また作業前に畦畔からの漏水がないよう点検・補修することも重要です。

他の機能性肥料の活用

上記管理が難しい場合等には、肥料成分を水に溶けにくくすることで分解速度を調整した肥料など、被覆肥料以外の機能性肥料の活用もおすすめです。

令和3(2021)年5月に、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立を実現する新たな政策方針として策定された「みどりの食料システム戦略」には、具体的な取り組みにプラスチック製品の使用量削減の他、“耐久性等に優れた生分解性生産資材(施設園芸、被覆肥料、サイレージ用のフィルム、漁具等)の開発・普及”を掲げています。

プラスチックではなく、生分解性の膜で覆われた被覆肥料や、プラスチックを用いずに被覆肥料のような効果をもたらす肥料の登場、普及に期待が高まります。

 

参考文献

  1. プラスチック資源循環(農業生産):農林水産省
  2. 農業分野から排出されるプラスチック をめぐる情勢 – 農林水産省
  3. 園芸用使用済プラスチックの適正処理に関する基本方針
  4. プラ被覆肥料 水田からの流出防止を / 日本農業新聞
  5. 「一発肥料」プラ流出対策を 全農がちらしや動画 水稲農家に呼び掛け / 日本農業新聞
  6. 株式会社ピリカ/一般社団法人ピリカ
  7. マイクロプラスチック浮遊状況データベース|一般社団法人ピリカ
  8. 被覆肥料の被覆膜の流出防止について – 岡山県ホームページ(備前県民局農林水産事業部)
  9. 環境に優しい農業の推進/中部総合事務所農林局/とりネット/鳥取県公式サイト
  10. 「代かき」 は 「浅水」 で!
  11. (本体) みどりの食料システム戦略(案) – 農林水産省

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