豚コレラのまん延防止策について

豚コレラのまん延防止策について

岐阜県及び愛知県で発生している豚コレラ。豚やいのししが罹る病気であり、強い伝染力と致死率の高さが特徴です。人に感染することはなく、仮に豚コレラにかかった豚の肉や内臓を食べたとしても、人体への影響はありません。そもそも感染豚の肉が市場に出回ることはありません。

そんな豚コレラに対して、感染拡大を防止するための施策がとられています。しかしその策の中には「予防的殺処分」も含まれているのが現状です。

 

 

豚コレラの現状

豚コレラのまん延防止策について|画像1

 

農林水産省HPの新着情報によると、平成31年4月22日に愛知県における豚コレラの疑似患畜※が確認されています。これは国内22例目に当たります。

※家畜伝染病予防法で定義されている、「患畜」と「疑似患畜」の違いは

  • 患畜:家畜伝染病にかかっている家畜のこと(腐蛆病は除く)
  • 疑似患畜:患畜である疑いがある家畜、患畜となるおそれがある家畜(病原体に触れた、または触れた疑いがあり、患畜となるおそれがあるものを指す)

岐阜県及び愛知県以外での患畜、疑似患畜の確認はされていませんが、国は全ての県の養豚農家に対して発生予防対策を促しています。岐阜県及び愛知県以外の7府県37農場において、国が「飼養衛生管理基準」の遵守状況についてチェックをはじめます。また全県を対象に豚コレラ発生予防対策のためのチェックシートを活用した個別指導も始まります。

 

 

豚コレラのまん延防止策

豚コレラのまん延防止策について|画像2

 

まず豚コレラが発生してしまった場合の流れについて紹介します。発生した場合には、

  1. 管轄の家畜保健衛生所に連絡
  2. 病性鑑定を受ける
  3. 病性鑑定後の指示により、家畜伝染病予防法の規定に沿った防除を実行

防除方法には、殺処分、隔離、豚舎の徹底した消毒などが挙げられます。いずれも目的は、「豚コレラの被害を他に及ぼさないため」です。

 

衛生管理の徹底

豚コレラをまん延させないためには、まず養豚場への衛生管理の徹底が必要です。病原体を媒介する恐れがあるのは患畜やウイルスを保持した野生動物だけではありません。人や車が病原体を連れてきてしまうことも考えられます。そのため、関係者であっても養豚場への出入り制限を設けたり、立ち入る際には消毒を徹底するなどの工夫が必要です。とにかく、豚コレラウイルスを養豚場に侵入させないことが重要です。

 

早期出荷

豚コレラウイルス拡大のリスクを断つ目的があります。感染の心配が残る農場から豚を全て出荷し、拡大を防ぐ狙いです。ただし、食肉として適した時期に出荷することができず、価格が下がる可能性はあります。そのため農林水産省は「差額の補てん」などの支援策を検討中です。豚コレラは強い感染力が特徴ですから、拡大のリスクを断つという目的が最優先となるのもやむを得ません。

 

予防的殺処分

豚コレラウイルス拡大のリスクを断つ目的で考えられているまん延防止策です。豚の生育が進んでおらず、早期出荷が難しい場合を想定しています。感染の不安がある農場から豚を全てなくすことで、感染拡大を防ぎます。ただし、この方法に踏み切る場合には家畜伝染病予防法の改正が必要です。

過去に宮崎県で口蹄(こうてい)疫が発生した際には、議員立法(議員によって法律案の提出、審議が求められ、成立した法律)で、予防的殺処分と費用の全額補償を定める法改正案が提出され、実現した例があります。今後豚コレラが拡大すれば、口蹄疫と同じように予防的殺処分が実現する可能性もあります。

 

ワクチン使用

多くの養豚場が求めていると言われるまん延防止策です。豚へのワクチン接種について農林水産大臣は、感染拡大が止まらない場合の最後の手段として検討する考えを示しています。まん延防止策の優先順位としては、

  1. 衛生管理の徹底
  2. 早期出荷
  3. 予防的殺処分
  4. ワクチン使用

となっています。が、養豚場からは「被害が大きくなってから全頭殺処分は損害が大きい。ワクチン接種による『防疫』が必須なのではないか?」という声があがっています。

現在、豚コレラウイルス拡大の原因として挙げられている野生いのししへの経口ワクチン使用が実施されています。2019年4月27日にワクチン使用の進捗状況が公表されました。公表された情報によると、

捕獲したイノシシは188頭で83頭がウイルスの抗体を持っていたが、そのうちワクチン餌を食べて抗体を持った可能性がある個体は9頭と、1割にとどまった

とのことです。今後もワクチン由来の抗体を持った野生いのししを増やすため、経口ワクチン使用の検証は続きます。効果が発揮されれば、まん延防止策としてのワクチン使用の可能性も高まるのではないでしょうか。

 

 

予防的殺処分に至らないために

豚コレラのまん延防止策について|画像3

 

家畜伝染病予防法の改正が実現しない限り、予防的殺処分には至りませんが、豚コレラ感染も、まん延防止策である早期出荷、予防的殺処分も、養豚場に損害を与えることには違いありません。豚コレラの被害に合わないためにも、常に発生を予防する意識を高めましょう。

特に、海外へ行く予定がある場合には十分注意してください。中国や東南アジアの国々は、豚コレラに限らず、さまざまな悪性伝染病の発生国と言われています。日本はこれらの国からの肉の輸入を原則禁止としています。が、畜産業関係者の中には、これらの国に訪問し、農場へ立ち入る機会があるかもしれません。防止のためには、農場への立ち入りを極力避けることが勧められていますが、やむを得ず立ち入ったり、家畜に接触したりする場合もあるでしょう。その場合、病原体が人や物に付着している可能性があります。接触機会があった場合には、帰国時に必ず動物検疫所のカウンターに立ち寄るようにしてください。

 

参考文献

  1. 豚コレラについて:農林水産省
  2. 豚コレラ拡大防止に対する対策の追加について:農林水産省
  3. 豚コレラ拡大防止に対する対策の追加について 平成31年2月12日 農林水産省消費・安全局、農村振興局
  4. 豚コレラ 予防的殺処分も視野 新対策で農相 日本農業新聞
  5. 豚コレラ感染拡大 業界衝撃 対策早急に 「胸つぶれる」殺処分に悲痛 防止策徹底も「終わりない」 「風評が怖い」正確な情報を 日本農業新聞
  6. 豚コレラ ワクチンで抗体1割 捕獲イノシシを検査 農水省 日本農業新聞
  7. スタート&ダッシュ 豚コレラ撲滅

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