近年、ゲリラ豪雨や大型台風の到来により、農作物が“湿害”の被害に見舞われる機会が増えたように思えます。湿害と聞くと、土壌中の水分による害のように思えますが、実際には浸水によって起こる土壌中の酸素不足が障害の要因です。
根は土の中で養分を吸収するだけでなく呼吸もしています。しかし土の中は地上と異なり、常に空気に接しているわけではありません。そのため、温度や湿度、土壌微生物の活動、そしてゲリラ豪雨等で圃場の水はけが悪くなるなどの要因で、土の中は酸欠状態になります。そんな土の中では、根が伸びなくなったり、腐ってしまったりすることが考えられます。
そんな状態を打破する土壌改良剤があります。それが「酸素供給剤」です。
酸素供給剤とは
土壌改良剤であり、その名の通り、酸欠状態の土に酸素を与えます。酸素を供給することで期待される効果としては
- 酸欠状態の根の呼吸を助ける
- 酸素を好む微生物を活性化させる
→土壌微生物の働きが活性化されることで土壌環境が改良され、良い土の条件の一つである団粒構造の構築も期待できる
などが挙げられます。
酸素が減少すると何が起きる?
土壌中の酸素が減少すると、根の働きに大きな悪影響が及びます。例えば根域酸素濃度とトマトの生育との関係を調べたものでは、以下のような結果になりました。
酸素濃度(%) |
実数 |
比率(%) |
|
根伸長率 |
21 |
146 | 100 |
5 |
40 |
27 |
|
2 | 3 |
2 |
|
酸素濃度(%) |
実数 |
比率(%) |
|
地上部生体重 |
21 |
338 |
100 |
5 |
285 |
84 |
|
2 |
109 |
32 |
引用元:特集 酸素に注目する湿害対策 “湿害”は畑で起これば田圃でも
酸素濃度21%というのは大気中とほぼ同じ濃度を示しています。根の伸長も果実の重さも。酸素濃度が減少すると酸素濃度21%の時の半分以下の数値になってしまうことがわかります。また窒素、リン酸、カリウムの吸収量においても同じことが言えます。
酸素の供給は、根の機能を維持するだけでなく、作物の生育にも重要なものなのです。
どのような場面で使うべきか
圃場の水はけが悪くなったときや、連作で土が硬くなってしまったときなどに、酸素供給剤をすき込みます。すき込めば永久に酸素が供給される…というわけではありませんが、ある程度の期間は土中に酸素が供給されるので、その間、根の呼吸を助けたり、土壌環境が改良されることで得られる養分を求めて根が伸びたりします。
圃場の状態によっては元肥として施用したり、予期せぬ大雨、ゲリラ豪雨や大型台風などが発生した際には、株と株の間に直径5cmくらいの穴を掘り、そこに肥料として入れる(穴肥え)のもおすすめです。
酸素供給剤以外の対策も合わせて!
ただ土壌に酸素を与えるだけでなく、酸素が欠乏しないような土づくりを心がけることも大切です。まずは圃場の排水性を改善するため、土を深く耕しましょう。
ただし、下層の土は石灰分や有機物などが不足しているなど、土壌の化学的な性質に難があることが多いです。豆類などは土壌の化学的性質に影響を受けやすく、生育が阻害されることがあるので、耕す際には栽培する植物の特性にも注意を払いましょう。
持続的に圃場の排水性を保ちたい場合には「籾殻」の活用もおすすめ。籾殻は土に入れても分解しにくく、栄養素がほとんど含まれていないため肥料的な効果も期待できません。でも籾殻の水分を保持する力が、粘土質の土の排水性を良好にします(砂質の土では保水性を良くする効果も)。籾殻がない場合には、建築廃材などの木材チップなども活用できます。
参考文献
- 黒田麻紀、柏木文吾編『農耕と園芸2019年1月号』(2018年、誠文堂新光社)
- 異常気象による生育不良のリスクを軽減! 湿害やなり疲れ対策に今知っておきたい “酸素供給剤” とは。
- 特集 酸素に注目する湿害対策 “湿害”は畑で起これば田圃でも
- 農文協の主張:2010年10月 「土質の悩み」を解消する有機物の使い方とは