窒素肥料に関する海外の取り組み。EUの法規制。そして日本は?

窒素肥料に関する海外の取り組み。EUの法規制。そして日本は?

過剰な窒素肥料は地下水を汚染することが知られています。過剰な窒素肥料が及ぼす問題は日本でも課題視され、化学肥料の使用量削減に向けた経済的誘導政策が取られています。一方、EU(欧州連合)では、過剰な窒素肥料に対して法的な規制があります。

本記事では、窒素肥料に関する海外の取り組みについてご紹介していきます。

 

 

EUの法規制

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EUは窒素施肥に法的な規制を設けています。その背景には、農地率の多さと農業が表流水(地上を流れる河川の水、対して地下を流れる水は地下水と呼ぶ)の主な汚染源となっていることがあげられます。

EUの農地率は平均約45%に達しています。一方、日本は山地が多いことから国の農地面積は約13%です。農業が表流水の主な汚染源となっている背景には、EUの主要な農業である集約農業があげられます。

集約農業は「労働力や資本を単位面積あたりの土地に多量に投下していとなまれる農業」です。野菜・花などを栽培する園芸農業などが該当します。この集約農業では化学肥料が多く用いられてきました(出典:しゅうやくのうぎょう【集約農業】 | し | 辞典 | 学研キッズネット)。

そこでEUは「農業起源の硝酸による汚染からの水系の保護に関する閣僚理事会指令」、通称「硝酸塩指令」を交付しました。「硝酸塩指令」は農業者に対し、農地に余剰な硝酸塩をできるだけ施用しないこと、農地外に排出される硝酸塩を極力減らすことを求めるものです。

「硝酸塩指令」では硝酸に汚染されたり富栄養化したり、それらの危険性がある地下水と表流水が流れ込む範囲を「硝酸脆弱地帯」に指定し、その地帯内の農業者は、国によって定められた窒素の施用に関する規制を強制的に守ることが義務づけられます。

なお、「硝酸塩指令」に違反した場合には加盟国に是正が促されます。それでも加盟国が「硝酸塩指令」を遵守しない場合には、欧州裁判所に告訴、違反となれば罰金等の厳しい判決が課せられます。

EU各国は、「硝酸塩指令」の実施報告書を4年ごとに提出することを義務づけられています。初期は、意図的に報告を遅らせる加盟国や規定された期限や条件を守らない加盟国がありましたが、現在は加盟国が「硝酸塩指令」を遵守し、その結果、2013年に発行された「第5回報告書」(2008〜2011年分)では、EU全体の無機窒素肥料消費量がピーク時に比べておよそ30%減少したことが記されています。

しかし「第6回報告書」(2012〜15年分)では、EU全体の無機窒素肥料消費量が2008〜2011年分と2012〜15年分の間で4%増加してしまいました。使用量を減少した加盟国もありますが、その一方で使用量が大幅に増加した加盟国もあったことが要因です(スロバキアは無機窒素肥料の使用量が30%減少したが、ブルガリアは56%増加した)。

 

 

日本はどうなる?

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国際肥料協会(International Fertilizer Association)が2023年6月に公開した資料によると、お隣の国、中国では2015年に、2020年までに肥料と農薬使用量の増加をゼロにすることを目標とした「肥料使用量ゼロ増加行動計画」を発表。

その後、2015年から中国の肥料使用量がすべて前年比で減少したこと、2015年度から2020年度までに15%(窒素では19%)減少しました。

2021年9月には肥料使用量のさらなる削減と施肥効率の向上が目標に掲げられ、2020年から2022年にかけて、肥料(窒素を含む)の使用量はさらに7%減少しています。

さて、日本はどうなるのでしょうか。

日本総研のウェブサイトにて2022年07月26日に公開されたオピニオン記事には、肥料価格高騰が窒素の過剰施肥をなくすきっかけとなるのではと考える意見が記されています。

中国による肥料の輸出規制や、ロシアによるウクライナ侵攻の影響、コロナ禍で物流が混乱したことに伴って生じた海上運賃の上昇の影響が続いていたり、急激に円安が進行したりと、さまざまな要因から、農業生産に欠かせない肥料の価格が高騰を続けています。

なお、農林水産省が推進する「みどりの食料システム戦略」では、2050年に化学肥料の使用量を30%低減するという目標が掲げられています。

2050年は今年(2024年)26年後。世界や時代の変化に伴い、EUのような法規制が提案される未来もあるかもしれません。

 

参考文献:福島宏和『過剰な窒素肥料が及ぼす環境負荷の低減に向けて』( 科学技術動向第69号11-21ページ、2006年 )

温室効果ガスN₂Oの抑制分野の 技術戦略策定に向けて
第23号特別分析トピック:我が国と世界の肥料をめぐる動向(更新)
No.386 硝酸塩指令に基づく施肥禁止期間設定のEU加盟国による違い | 西尾道徳の環境保全型農業レポート
A broad-scale spatial analysis of the environmental benefits of fertiliser closed periods implemented under the Nitrates Directive in Europe – ScienceDirect
EUの硝酸指令と家畜ふん尿負荷軽減
第2回 Fireside Chat Nitrogen(窒素談話会)(3月 ドイツ) 参加報告
肥料価格高騰を「持続可能な農業」実現へのきっかけに|日本総研
(上記2024年2月1日閲覧)

No.339 EUの2012-15年(第6回)硝酸塩指令実施報告書 | 西尾道徳の環境保全型農業レポート
肥料価格高騰を「持続可能な農業」実現へのきっかけに|日本総研
IFA の肥料中期展望 2023~2027 年
Public Summary Medium-Term Fertilizer Outlook 2023 – 2027
(上記2024年2月15日閲覧)

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