昔に比べて、野菜の栄養分が低下しているといわれています。一体何が原因なのでしょうか。
栄養分低下の原因
原因には土壌の状態が関わってきます。収穫量を増やすことを目的とした農法や、その結果できた高収量作物による土壌へのダメージが、栄養分低下につながると考えられています。
作物に含まれる栄養分は、作物と土壌中の微生物との関係や土壌から吸収される栄養分に起因します。しかし収穫量を増やすと、土壌からの栄養分が多くの作物に分配されることになります。1つ1つの作物に行き渡る栄養分が少なくなると、作物に含まれる栄養分が希釈されることになります。高収量作物もまた土壌を消耗させる原因となります。
また環境問題も関わってきます。大気中の二酸化炭素濃度の上昇もまた、作物に含まれる栄養分を減少させる原因として挙げられています。
植物は光合成で大気中の二酸化炭素を取り込みます。取り込んだ二酸化炭素を分解し、その炭素を利用して成長します。“二酸化炭素を取り込”むとあると、光合成が促進されて収量の増加が期待できそうですが、米や小麦といった作物は、高い濃度の二酸化炭素にさらされると、多くの炭素系化合物を生成して炭水化物の含有量が高くなりますが、窒素の吸収が促進されることはありません。
窒素は植物のタンパク質含有率と関連しています。独立行政法人農業環境技術研究所が2011年6月22日に公表した研究結果によると、高濃度の二酸化炭素条件下でコメの整粒率が低下しました。整粒率はコメの品質の重要な指標であり、整った形の粒の割合を%で示すものです。この条件下では白未熟粒が多発しました。高濃度の二酸化炭素条件下ではコメの窒素含有率、タンパク質含有率が対照区に比べて低いことが記されています。
またChunwn Zhu 『Carbon dioxide (CO2) levels this century will alter the protein, micronutrients, and vitamin content of rice grains with potential health consequences for the poorest rice-dependent countries』(Science Advances、2018年)では、18種類のコメを高濃度の二酸化炭素にさらすと、タンパク質、鉄、亜鉛、一部のビタミンBの濃度が低下することが明らかになっています。
影響を受けるのはコメだけではありません。Donald R Davis『Changes in USDA food composition data for 43 garden crops, 1950 to 1999』(Journal of the American College of Nutrition、2004年)では、1950年と1999年に公表されたアメリカ農務省の栄養分データを用いてアスパラガスやインゲン、イチゴ、スイカなどの作物の栄養素の変化を記録しています。その結果、タンパク質やカルシウム、リン、鉄分などの減少が見られました。栄養分の減少率は栄養素や作物によってさまざまな結果となりましたが、顕著に見られたものにはブロッコリーやケールなどのカルシウムの減少、キュウリやカブの葉における鉄分の減少、アスパラガス、カラシナなどのビタミンCの減少が挙げられています。
野菜の栄養分が減ると起こること
私たちは日々の食事から必要な栄養素を摂取しています。野菜や果物、穀物から栄養分が減ってしまうことは、私たちの体内に必要な栄養分の減少にもつながります。人によっては特定の栄養分が欠如するリスクが高まる可能性(鉄欠乏性貧血など)があると考えられています。
解決策はあるのか
低下した野菜の栄養分をすぐに向上させるのは難しいにしても、栄養分の低下に大きく関連する土壌の改善が、作物の栄養分含有量を見るうえでは重要だとされています。
土壌の改善に期待されるのが、環境再生型農業と呼ばれるものです。
環境再生型農業の明確な定義はありませんが、土壌と生態系の健全性を回復することを目的にできるだけ土壌に手を加えない形で農業を行うことといえます。活用されている農業技術には、有機肥料や堆肥の活用、被覆作物の活用、不耕起栽培、輪作や間作などが挙げられます。
David R. Montgomery『Soil health and nutrient density: preliminary comparison of regenerative and conventional farming』(PeerJ: Life & Environment、2022年)によると、環境再生型農業において生産された作物は特定のビタミン、ミネラルが高かったことを報告しています。
土壌と野菜の栄養分に対する影響に関する報告は日本の文献にもあります。吉田企世子『作物生育条件と野菜の栄養成分・調 理性の関係』(栄養学雑誌、1998年)では、近年注目されている環境保全型農業の話題ではないものの、有機質肥料と無機質肥料用いた栽培を比較したとき、野菜の栄養成分にどのような影響が及ぶのかが記されています。
ここでは有機質肥料としてなたね油かす、骨粉及び鶏糞灰を用いて栽培したトマトと、無機質肥料としてトマト栽培に用いられる一般的な化成肥料を用いて栽培したトマトの栄養分を比較しています。その結果、有機区のほうがビタミンC含有量が多いという結果が得られています。
興味深いのは、同様の研究をホウレンソウで行ったところ、施肥条件の差が見られなかったことです。考察には“ほうれんそうのように播種から収穫までの期間が短い野菜は、有機質肥料の効果が現れにくいのではないかと一般的には推察されている”と記されています。またブロッコリーでは、品種によって施肥による影響の受け方が異なることも報告されています。
野菜の種類や品質によって影響の受け方が異なることから、土壌を改善しても、すぐには栄養分の向上につながらないと考えられます。それでも、さらなる減少を防ぐため、今後も土壌の改善が重視されることが期待できます。
参考文献
- Fruits and vegetables are less nutritious than they used to be
- CO2濃度上昇でコメや小麦など穀物の栄養成分が減少、米ハーバード公衆衛生大学院などの研究(AFP) | 一般社団法人環境金融研究機構
- 50年後に想定される高いCO 2 濃度条件下では、コメの高温障害はさらに進行 ―2010年の猛暑下における FACE 実験結果から予測
- 高CO2濃度によるコメの増収効果は高温条件で低下 ―気候の違う2地点のFACE(開放系大気二酸化炭素増加)実験により確認
- Carbon dioxide (CO2) levels this century will alter the protein, micronutrients, and vitamin content of rice grains with potential health consequences for the poorest rice-dependent countries | Science Advances
- Changes in USDA food composition data for 43 garden crops, 1950 to 1999
- Assessing the evolution of wheat grain traits during the last 166 years using archived samples | Scientific Reports
- 世界で注目されている「リジェネラティブ農業」とは何か。
- Regenerative Agriculture 101 | NRDC
- Soil health and nutrient density: preliminary comparison of regenerative and conventional farming – PMC
- 作物生育条件と野菜の栄養成分・調 理性との関係