田んぼの多面的機能の1つ、雨水貯留機能の強化を図ることで、洪水などの水災害による周辺地域への浸水被害を抑える取り組みである「田んぼダム」。後編では、取り組む際の注意点や田んぼダムの取り組みに関する支援制度をご紹介します。
実施する際の注意点
田んぼダムに取り組む際、まずは畦畔の高さや状態に注意が必要です。30cm程度の高さがあること、強固であることが求められます。高さが低いと、貯留できる水量が少なくなってしまいます。畦畔が強固でないと、漏水や畦畔が損傷する可能性が高まります。栽培管理作業時などの踏圧などを考慮しても、畦畔を強固に保つことは重要です。
田んぼダムでは一時的に雨水を多く貯留します。その一方で、その雨水を短時間で排水できる落水口も必要です。貯留した水を短時間で排水できないと、大型農業機械が走行するのに必要な地耐力を確保できなくなるからです。各区画の田んぼダムの排水が、落水開始から1〜2日以内に終わるような落水口の設置数、配置、田面と落水口の高低差の設定が重要です。
流水量を調整する器具の選び方
田んぼダムが想定される雨量に対して、貯留機能を発揮し、かつ貯留した水を短時間で排水するためには、流出量を調整する器具が重要な役割を果たします。
排水口に既存の排水マスがある場合には、通常の堰板を排水量を調整できる型の堰板に置き換えるか、通常の堰板の上部に追加するなどの方法があります。
排水量を調整できる堰板の排水口は、通常の排水マスのものよりも小さく作られており、それによって板の高さまで水を貯め、同時に流れ出る量を減らすことができます。この排水調整板の形状や実際の田んぼダムの様子は、農林水産省のYouTubeチャンネルで確認することができます。
V字型が特徴的な三角堰式の排水調整板の場合は、丸穴式よりも草などが詰まりにくいです。
排水マスがなければ、排水調整機能のある排水マスを設置するなどの方法があります。
なお、上記の流水量を調整する器具は基本的に設置したままにしておきます。
湛水しない時期などに水位を管理する場合には、水位管理のために外します。ただし、湛水しない時期であっても、大雨が予想される場合には、雨が降る前にできる限り設置してください。
懸念される営農への影響について
栽培状況によっては、水位管理のために排水調整板をつけたり外したりする場合があり、堰板や調整板の手間や排水口付近に溜まったゴミの除去などに労力がかかり、営農に影響が及ぶのでは、という懸念があります。
ですが、令和4(2022)年4月に農林水産省農村振興局整備部が公開した資料『「田んぼダム」の手引き』に記載されている、令和3(2021)年度「スマート田んぼダム実証事業」(以下、実証事業)で田んぼダムを実施した農業者を対象としたアンケート調査において、回答数18のうち、管理労力が増えたという回答は1者に止まった、とあります。
同調査では、田んぼダムを実施しなかった水田に対する実施した水田での作業時間の割合は平均で104%と、労力が大幅に増加しないという結果が得られています。またアンケート調査より、回答数28のうち、作物の生育や収量、品質に影響があったという回答はありませんでした。
支援制度
「田んぼダム」への主な支援制度に、多面的機能支払交付金と農地耕作条件改善事業があります。以下に、それぞれの支援内容と要件をまとめます。
支援内容 | 要件 | |
多面的機能支払交付金 | 畦畔の草刈り、畦塗り、嵩上げ
水路の草刈り、土砂上げ、補修、田んぼダムに係る器具設置作業 排水口の点検・見回りに係る経費、普及・啓発活動など |
(1)多面的機能支払交付金の実施区域内であること
(2)同交付金のうち、資源向上支払において「田んぼダム」関連項目を計画で定める等 |
農地耕作条件改善事業 | 「田んぼダム」の実施に必要な器具の設置工事や排水口の整備
畦畔の更新 田んぼダムに取り組むために設置された排水口 |
(1)工事費が200万円以上であること
(2)受益者の数が、農業者2人以上であること (3)農地中間管理事業の重点実施区域、又は人・農地プランが実質化された地域内 (4)流域治水プロジェクトが策定されている水系 など |
出典:「田んぼダム」の手引き p.16〜17
参考文献:『季刊地域 No.53 2023年春号』(農山漁村文化協会、2023年)
参照サイト
(上記、2024年1月9日閲覧)