日本経済新聞が2023年7月31日に公開した記事によると、2023年産の主食用米の需要量(23年7月〜24年6月)は681万トンで、22年産と比べ10万トン(1.4%)少なく、2年連続で過去最低を更新しました。主食用米の需要は年々減少しています。
そんな米の需要において、「新規需要米」という単語が登場しています。
新規需要米とは
東北農政局の用語解説には、新規需要米につながる用語が解説されています。
まず、冒頭で紹介した「主食用米」はその名の通り、主食としての役割を果たす米を指します。一方「加工用米」はお酒や加工米飯、味噌や米菓などの製造に供給することを目的として生産される米穀を指します。「備蓄米」は1993年の記録的な冷夏により米の供給が不足した経験をふまえ、また豊作時の供給過剰を防ぐことも目的とした米穀です。
そして新規需要米とは、国内主食用米、加工用米、備蓄米以外の、次に掲げる用途のために生産された米穀(稲を含む)で、主食用米の需給に影響を及ぼさないものを指します。
(1) 飼料用
(2) 米粉用(米以外の穀物代替となるパン・麺等の用途)
(3) 稲発酵粗飼料用稲
(4) 青刈り稲・わら専用稲(飼料作物として用いられるものに限る。)
(5) 新市場開拓用((1)(2)を除く、内外の米の新市場の開拓を図ると判断される用途に供される米穀)引用元:用語解説:東北農政局
一般社団法人全国農業改良普及支援協会と株式会社クボタが提供するウェブサイト「みんなの農業広場」の「農作業便利帖」には上記に加え、
- バイオエタノール用
- 輸出用
- 酒造用※
- 主食用以外の用途のための種子
- その他
も含まれています。
飼料用米は輸入トウモロコシの代替として、米粉用は輸入小麦の代替として期待されています。
※:新規需要米に含まれる「酒造用米」は、「需要に応じた米の生産・販売の推進に関する要領」(以下「要領」)に基づき生産数量目標の枠外で生産された玄米」です。ただし、平成20年産~令和4年産までの新規需要米等の用途別作付・生産状況の推移において、平成30年産以降は取りまとめられていません(平成26年産〜平成29年産のみ)。
新規需要米に取り組むメリット
茨城県農業再生協議会はウェブサイトにて、価格が下落する可能性がある主食用米から加工用米や新規需要米への転換を呼びかけています。
主食用米からの転換が促進される新規需要米には手厚い助成があります。
「水田利活用自給力向上事業」は「水田を有効活用して、麦・大豆・米粉用米・飼料用米等の生産を行う販売農家に対して、主食用米並の所得を確保しうる水準を直接支払いにより交付する」ものです。新規需要米の場合、10a当たり80,000円の助成金が交付されます。
助成を受けられることから経営の安定化を図れることもメリットとしてあげられますが、水田を有効活用できること、新規需要米等が主食用米と熟期が異なることから、収穫作業を分散させることができること、新規需要米に含まれる飼料用米や輸出用米等に需要が見込まれることなどもメリットとしてあげられます。
特に、輸出用に対しては、日本国内の人口減少と米の消費量減少が背景にあります。国内需要が縮小傾向にあることで、米や米加工品の海外への輸出に目を向ける必要があります。なお、平成31年3月に農林水産省が公開した資料では、平成28(2016)年から平成30(2018)年において米や米加工品の輸出金額は堅調に増加しています。令和5年(2023年)10月に更新された「コメ・コメ加工品の輸出実績」では2018年から2023年までの輸出数量と金額が記載されており、引き続き増加傾向にあることがわかります。
米をめぐる状況について PDF資料37ページ目
○ コメ・コメ加⼯品の輸出実績
新規需要米に取り組む際の注意点
需要増加が見込め、手厚い助成も受けられることで経営の安定化も見込める新規需要米ですが、注意点もあります。
農林水産省が公開する「お米の流通に関する制度」のQ&Aにもありますが、加工用米や新規需要米などの「用途限定米殻」は食糧法に基づき、次のルールが定められています。
用途限定米穀の用途外使用の禁止
用途限定米穀の保管中の措置
用途限定米穀の販売時の措置
関係機関への連絡引用元:生産者のみなさまへ:農林水産省
加工用米や新規需要米を主食用米として出荷・販売するのは禁止されています。
茨城県農業再生協議会のウェブサイトには、禁止されている「主食用への横流し等」のわかりやすい事例が掲載されています。ぜひ一度目を通してみてください。
参考文献