今さら聞けない「田んぼダム」【前編】田んぼダムの仕組みと効果。

今さら聞けない「田んぼダム」【前編】田んぼダムの仕組みと効果。

「田んぼダム」とは、田んぼの排水口に仕切り板などを設置して、田んぼに降った雨水などをゆっくり排水させ、田んぼに備わる雨水貯留機能を強化したり、水があふれることで起こる周辺の地域への浸水被害を抑えるという取り組みです。

近年、この田んぼダムが注目を集めています。前編では、田んぼダムのしくみや効果についてご紹介していきます。

 

 

田んぼダムが注目を集める背景

今さら聞けない「田んぼダム」【前編】田んぼダムの仕組みと効果。|画像1

 

もともと水田には、食料を生産するといった機能以外にも多面的な機能があります。そのうちの1つが雨水を一時的に貯留することで、周辺地域の洪水被害を防止・軽減する機能です。

近年、地球温暖化に伴う気候変動の影響等による集中豪雨などで、洪水などの自然災害が頻発しています。田んぼダムは、このような自然災害のリスクを抑え、営農しながら取り組めることから注目されています。

田んぼダムは、「ダム」という名称から大掛かりな設備や道具を必要とするものと考えてしまいがちですが、冒頭でも述べたように、実際には田んぼの排水口に仕切り板などを設置する「取り組み」です。

また、作物の生産に影響を与えない範囲で行われることが前提です。大豆や小麦といった湿害に弱い作物を作付している水田では行いません。農作業に影響を及ぼさない、最小限の労力で行われることを重視します。

 

 

田んぼダムの仕組み

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田んぼに降る雨が排水量を上回った時、水田の水位は徐々に上がり、ある時、堰板を超えて排水されます。

田んぼダムでは、水田の排水口に排水量を調整する板を重ねたり差し換えたりすることで、排水量が絞られます。それにより、排水先である水路や河川に一気に水が流れ込むのを防ぎます。

 

 

田んぼダムの効果

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田んぼダムはさまざまな規模の降雨に効果を発揮します。たとえば令和4(2022)年4月に農林水産省農村振興局整備部が公開した資料『「田んぼダム」の手引き』には、令和3(2021)年度「スマート田んぼダム実証事業」(以下、実証事業)で行ったシミュレーション結果が記載されています。

上記資料によると、流出量調整器具の種類によって抑制量には違いがあるものの、水田からの流出量を約74〜86%抑制したという結果が出ています。以下にその具体的な数値を示します。

<流出量調整器具の種類>

機能一体型 水田の水管理を行う通常の堰板が流出量を調整する機能も持つもの
機能分離型 水田の水管理を行う通常の堰板と別に流出量を調整する板などの流出量調整器
具を設置するもの

出典:「田んぼダム」の手引き p.18

<シミュレーション結果>

降雨の規模

抑制効果(機能一体型)

抑制効果(機能分離型)

10 年に1回程度の規模

・最大時間雨量 57.1mm

・総雨量 168.3mm

約78%

約74%

50 年に1回程度

・最大時間雨量 71.6mm

・総雨量 242.4mm

約36%

約85%

100 年に1回程度

・最大時間雨量 77.5mm

・総雨 量 277.1mm

約21%

約86%

出典:「田んぼダム」の手引き p.22

上記結果より、通常の堰板とは別に流出量を調整する板などを設置した方が、流出量を抑制する効果が高まることがわかります。

先述した通り、排水先である水路や河川に水が一気に流れ込むのを防ぐことから、排水路や排水先の河川の水位上昇を抑える効果もあります。同資料によると、田んぼダムを実施しなかった水田と実施した水田では排水路の水位上昇に差が生じています。実施しなかった場合は水位上昇が約0.15mに対し、実施した場合は約0.08mに抑えられています(出典:「田んぼダム」の手引き p.23)。

続けて、上記内容の抑制は、排水路や河川からの浸水量、浸水面積を低減することにもつながります。

 

参考文献:『季刊地域 No.53 2023年春号』(農山漁村文化協会、2023年)

参照サイト

  1. 「田んぼダム」の手引き
  2. 田んぼダム技術マニュアル
  3. 洪水防ぐ「田んぼダム」 どう広げる? 農家にメリットを 千葉 | NHK

(上記、2024年1月9日閲覧)

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