日本国内で農作物の盗難被害が深刻化しています。毎年2,000件以上の盗難事件が発生しており、2023年には2,154件報告されています。被害を受ける作物にはモモ、ブドウ、キャベツ、ハクサイ、リンゴ、サクランボなどがあり、特に単価の高い果物がターゲットになりやすい傾向があります。被害の多くは畑や果樹園から発生していますが、ビニールハウスや倉庫からの盗難も報告されています。
盗難被害の実例として、山梨県では桃が数千個単位で盗まれる事件が相次ぎ、2022年6月だけで被害額が570万円を超えました。
【関連サイト】桃がなくなる被害…山梨で何が 泥棒を追え!|NHK事件記者取材note
農林水産省の調査によると、農作物盗難の被害金額は50万円未満が大半を占めます。しかし盗難事案の多くは未解決であり、防犯対策の強化が求められます。
盗難が増えている背景
冒頭で、単価の高い果物がターゲットになりやすいと紹介しました。近年、果物の盗難が増加している背景には、いくつかの要因が絡んでいます。
まず、農作物のブランド化が進んでいることが挙げられます。近年、品質の高さが評価され、価格が上昇している果物が数多くあります。たとえば、JAふえふき(山梨県)では桃1キロあたりの価格が過去10年で大幅に上昇し、収益性が高まったことが盗難の動機になっているとされています。
次に農作物の販売ルートの多様化があげられます。果物は収穫後数日以内に市場に出回ります。盗む側が足が早い果物を早急に現金化するために選ぶ販売先にはインターネット販売や路上販売があげられます。インターネットは誰でも簡単に商品を売買できるために、盗難被害に遭った果物が「山梨県産」として流通している例もあります。また路上販売は証拠が残らないため、盗んだ商品を売るリスクが低く、盗む側にとって重要な販売ルートになっています。
最低限知っておきたい自衛策
まず、年々増加傾向にある農作物の盗難被害を防止するためには、農家それぞれが自衛策を講じるだけでなく、生産者、地域、そして行政が協力し合うことが重要です。また、実際、生産者、地域、行政の協力により、盗難被害対策がより効果的に実施されていることが確認されています。
生産者自身がやっておきたい盗難防止策
盗難防止策の基本
まず、収穫物は畑に放置せず、迅速に持ち帰ることが盗難防止策の基本です。また、保管場所となるハウスや倉庫の窓や出入り口の施錠を徹底してください。収穫物だけでなく、収穫に用いる道具や収穫用コンテナ、脚立なども、盗まれないようこまめに撤収することが求められます。
不審者の侵入防止策
農地や園地への侵入を防ぐために、ネットや柵を設置するなどして物理的な防壁を作ります。
侵入しにくい環境を整備することも大切です。園地内に「盗難注意」や「立入禁止」などの警告看板を設置したり、防犯カメラやセンサーライトを設置するなどして、不審者の侵入に対する警戒を強化してください。
防犯カメラ周辺に「カメラ作動中」といったステッカーや看板を設置し、周囲に注意を喚起することも盗難防止につながります。実際、イチゴの収穫期にハウス内で発生した盗難を防ぐために、防犯カメラと警告ステッカーを設置した結果、その後の盗難被害が発生しなくなったという事例が報告されています。
【参照元】農作物の盗難の実態と対応策
作業者の識別を容易にする
不審者の侵入を防ぐ対策として、目に見える識別を行う(作業者は腕章を付ける、農作業車両はステッカーを付ける)ことも推奨されています。
地域で行う共同対策
生産者同士で情報共有を行うことも大切な盗難防止策です。地域全体での取り組みが盗難防止に効果を発揮します。
主な事例には、チラシやSNSを活用することで盗難防止の意識を高めたり、地域の警察やJAと協力して防犯パトロールを実施したりすることがあげられます。防災無線やSNSなどを活用して、不審者や不審車両の情報をリアルタイムで共有し、生産者同士で農作物の管理を呼びかけることも有効です。なお、パトロール時、不審者や不審車両を見かけた際は速やかに通報してください。
最新技術の導入
近年、最新技術を活用した防犯対策が注目を集めています。一例にはドローンを使った警戒、監視があげられます。サーモカメラを搭載することで温度の違いを感知し、侵入者の動きを上空から監視するといったドローンや、スマートフォンを通じていつでもライブ映像を確認できる農業従事者向けの防犯カメラなどが登場しています。
なお、映像などが残るものに関しては、農作物の盗難を防ぐだけでなく、被害発生時に証拠として活用できるという利点もあります。
まとめ
自衛策についてご紹介しましたが、防犯対策の導入には費用がかかり、農家にとって負担となる場合があるというデメリットもあります。特に、広大な面積を管理する農家にとっては防犯カメラやセンサーの設置に多大なコストがかかることも。そのため、自治体によっては防犯カメラ設置の補助金を提供するなど、農家を支援する取り組みを進めているところもあります。盗難防止策の費用がかさむことが考えられる場合には、一度補助金などの制度がないか、自治体に問い合わせてみることをおすすめします。
農作物を守り、盗難被害を最小限に抑えていくために、さまざまな対策を積極的に組み合わせて実施してみてください。また、繰り返しになりますが、地域や行政をも巻き込んだ協力体制の強化も重要です。地域が行っている取り組みなどもぜひ確認してみてください。
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