国内の水稲の作付面積は、米の生産が最も盛んだった1960年代半ばのピーク時に比べると半減しています。1960年産の作付面積は331万haでしたが、農林水産省が2024年11月19日に公開した資料によると、令和6(2024)年産水稲の作付面積(子実用)は135万9,000haです(うち主食用作付面積は125万9,000haで、前年産に比べ、子実用は1万5,000ha、主食用は1万7,000ha増加している)。
米の生産は依然として日本の農業における重要な位置を占めているものですが、消費量が減少し続けている現状を考慮すると、収益性を高める経営の模索が必要不可欠です。
現在、日本国内で米の生産のみで生計を立てるには10ha規模の水田が必要とされていますが、この規模を持つ農家は北海道や新潟県のような広大な農地を有する地域に限られがちです。その他地域では野菜を栽培する等兼業によって収益を補うのが一般的です。
しかし現代では、規模の大小に関わらず、効率的な栽培技術と機械化の進展を活かした省力化や付加価値の向上を通じて、経営の効率化を図る取り組みが注目されています。
省力・低コスト技術事例まとめ
直播栽培
大規模化が可能な地域では、種籾を直接田んぼにまき、そのまま栽培する直播栽培が省力化につながります。育苗や田植え作業を省略できるため、作業時間の短縮とコスト削減が可能となります。この技術は、大規模な水田地帯で活用されています。
プール育苗
プール育苗とは、「育苗ハウス内にビニール等で簡易なプールをつくり、そこに育苗箱を並べて湛水状態で育苗する技術」を指します(引用元:水稲プール育苗のポイント/千葉県)。慣行育苗法と比較すると灌水作業を約7割、換気作業を約4割削減できます。加えて、苗立枯病(リゾープス属菌、ピシウム属菌、フザリウム属菌)の発生を抑制する効果もあります。
もちろん難点もあります。たとえばプール育苗の苗は、夜間も水で根元が保温されるために、通常の育苗に比べて苗丈が伸びやすく、慣行育苗の苗よりも乾燥に弱いことが知られています。
とはいえ、苗質や本田での生育は慣行育苗法と同等であり、多くの農家にとって導入のハードルが低い技術といえます。
流し込み施肥
肥料を灌漑水に溶かして田んぼ全体に流し込む追肥方法です。流し込み施肥は、人力による施肥や散布機を用いる方法に比べると労働負担を大幅に軽減します。暑い時期の重労働を軽減することにつながるため、高齢化が進む農村地域で注目される技術です。
また流し込み施肥は、灌漑水によって肥料が水田中に撹拌されることで肥料ムラを軽減します。
灌漑水が豊富な地域では、水に溶けやすい肥料を用い、水口からの灌漑水に流し込むことで短時間で溶かすことができます。一方、灌漑水が豊富でない地域においては、肥料の溶解が遅くなるよう、肥料を2〜3重にしたコンバイン籾袋に入れたうえで水口に設置し、1〜3時間かけて流し込むことで肥料濃度を一定にし、肥料ムラを軽減します。
肥料ムラの影響を最小限にすることが省力化につながりますが、先述したような灌漑水量や灌漑時間、コンバイン籾袋の枚数などの調整がやや難しいかもしれません。導入する際は、少なめの施肥量から始めることが推奨されています。
全量基肥施肥
緩効性肥料を用い、その全量を基肥として施肥するものです。緩効性肥料の特性を活かして窒素吸収の効率を高め、肥料の使用量を10〜20%削減することができます。また穂肥作業の省略にもつながることから、生産コストの低減と労働時間の削減が期待される技術といえます。
各JAではこの技術に基づいて製造された全量基肥施肥用肥料が販売されており、肥料の配合等の手間もありません。
ただし、施肥時期を早めすぎると窒素の溶出も早まり、肥料効果の低下や倒伏などが起こりやすいため、施肥時期には注意が必要です。
側条施肥
田植え時に肥料を苗の植え付け箇所に直接施肥する側条施肥も、省力化につながります。田植え直後から肥料が吸収されることで、初期生育の促進が期待できます。加えて、肥料の吸収利用効率の向上により、肥料の使用量を20%程度減らすことができます。
難点には、初期生育の促進が期待できる分、肥料切れがやや早いという点があげられます。
疎植栽培
疎植栽培は、従来よりも株間を広くして栽培する手法です。品種や地域によって異なりますが、「あきたこまち」などで15株/㎡程度、「ゆめしなの」で18株/㎡が目安とされています。
収量や収益は慣行栽培と同等で、育苗スペースの余剰活用や移植作業の効率化が可能なため、規模拡大に貢献する技術です。
ただし、茎数が不足すると減収のリスクがあります。また高標高地域では適切な水管理や健苗移植が重要になるうえ、減収につながることから減肥は避けてください。いもち病の発生リスクにも注意が必要です。
不耕起栽培
不耕起栽培はその名の通り、圃場を耕起せずにそのまま種子を播いて行う栽培法で、省力化につながります。耕起しないことで地耐力が高く保たれることから、降雨後でも早い時期に播種作業を行うことができます。
ただし、耕起しない分、雑草防除が難しく、播種直後に大雨が降った場合には出芽不良になりやすいといったデメリットがあります。
種もみへのコーティング
種もみに鉄粉や酸素発生剤などをコーティングすることで省力化や安定生産を図る技術です。
たとえば鉄粉をまぶす場合には、その重みで種もみが水田に沈みやすくなることで根が張りやすくなるうえ、鳥による食害が減少するとされています。酸素発生剤をまぶして播種した場合には、土壌中で徐々に酸素が放出されることで発芽中の種子に酸素が供給され、先述した直播栽培を行った水稲の発芽率の向上につながります。
難点には、種もみへコーティングするための作業が必要になり、かえって資材費や労力がかかってしまう場合が考えられること、播種方法が適切でないと稲の絡み合いが生じるなどして減収する可能性が高まることなどがあげられます。
その他
多収品種の利用もおすすめです。「ふくおこし」は耐倒伏性に優れ、いもち病に強い品種として知られています。
規模拡大が難しい地域においては、米の付加価値を高める取り組みが盛んに取り入れられています。たとえば減農薬・減化学肥料を消費者にアピールする特別栽培米などが挙げられます。
参照サイト
- 令和6年産水稲の作付面積及び10月25日現在の予想収穫量
- 水稲省力・低コスト技術カタログ
- 稲作の省力化 鉄の粉コーティングした種もみ“じかまき”新庄|NHK 山形県のニュース
- 担い手農家の経営革新に資する稲作技術カタログ:農林水産省
- 保土谷UPL株式会社|製品情報:カルパー粉粒剤 適用表/注意事項
- 保土谷UPL株式会社|製品情報:カルパー粉粒剤 カルパーコーティングのポイント
- 水稲べんモリ直播マニュアル
(2024年12月9日閲覧)