日本で大規模農業は可能なのか。大規模農業の現状と今後の展望

日本で大規模農業は可能なのか。大規模農業の現状と今後の展望

現在の日本の農業の課題として、農業従事者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加が知られています。この課題を解決する手立てとして注目されているのが「農業の大規模化」です。

本記事では、日本が推進する大規模農業の現状と今後の展望について紹介していきます。

 

 

日本が進める農業の「大規模化」

日本で大規模農業は可能なのか。大規模農業の現状と今後の展望|画像1

 

日本の農業就業人口は減少しています。2000年には389万1000人いた農業就業人口は、2018年には175万3000人になりました。米、野菜、果物の産出額や農作物の作付面積、生産量も減少し続けています。

一方で、耕作放棄地は増加しています。2015年のデータによると、その面積は42万3000ヘクタール。これは滋賀県の面積に匹敵する大きさと言われています。

そこで国は、農地を集積、集約化することで、農業の効率化と高い生産性をはかり、国内の農産物の産出額や生産率を上げる「農業の大規模化」を推進しています。

大規模農業を支援する政策のひとつとして有名なのが「農地中間管理機構(農地バンク)」です。各都道府県に設置されている農地中間管理機構は、高齢化や後継者不足によって耕作を続けられなくなった農地を借り受け、企業や組織などの担い手に貸し付ける公的機関のことです。

整備された当初は認知度が高くなく、初年度(2014年)の利用実績が、利用目標面積の約2割の約3万1千ヘクタールという結果に。しかしその後「農地バンク」の存在が認知され始め、貸し付け面積が初年度(2014年)の2.4万ヘクタールから、2018年度には22.2万ヘクタールに。大規模農業の推進や認知は広まっていると言えます。

また農業の大規模化の背景には、新規参入がしやすくなったことで増加した「農業法人」の存在も挙げられます。

法人化すると、信用力がつき資金調達がしやすくなったり、雇っている従業員に対して社会保険を提供することができるなどの利点が得られます。2009年の農地法改正により、一定要件を満たせば、農業生産法人以外の一般法人も農地所有が可能になりました。農地中間管理機構を通じ、農地を借りる企業も増えつつあります。

これまでの農業には「農業だけでは食べていけない」「儲からない」というイメージがありました。また生産物の単価の安さや初期費用、税金などのコスト面が、新規参入を阻んできました。

しかし時代とともに、生産効率や利益を上げていくことを重視した「ビジネス」としての農業が広まりつつあります。

なお、2012年1〜2月に農林水産省が行った「今後の農業経営についての意向」に関するアンケート調査によると、20〜39歳の年齢層からの回答に

  • 農業経営面積(頭数等)を拡大したい 43%
  • 新たな部門に取り組む等、経営の複合化を進めたい 42%

とあります。40歳以上の人に比べ、若年層に経営拡大や経営の複合の意向をもつ人が多いということが分かっています。

 

大規模農業のメリット・デメリット

ただ、日本での大規模農業の推進には厳しい意見も。

大規模農業で挙げられる一般的なメリットには、

  • 生産効率が高まる
  • 生産にかかる費用が下がる
  • 面積あたりの作業労働時間が減少する

などが挙げられます。

しかし日本は、農地面積や農業生産額の4割を「中山間地域」が占めています。大規模農業の事例としてよく挙げられるアメリカには広大な土地がありますが、アメリカとは違う日本の生産条件に対し「中山間地域で農作業の効率化は難しいのでは?」という声もあがっています。

また「大規模化した際の収益性に慎重になるべきだ」という声もあります。

大規模化することで、面積当たりの経費割合が下がると仮定すれば、売上や利益は上がり、経費割合は抑えられるという収益モデルが出来上がります(図中、例1)。

ただ実際には、

  • 大規模農業のために導入する機械への投資
  • 販売のための作業時間が増加する

など、思い通りに効率化をはかれない、経費割合を減らせない可能性も考えられます。

思い通りに効率化がはかれないことで出荷歩留りが低くなると、面積に応じて売上が伸びても、利益は上がらなくなります。出荷歩留りの悪い圃場の場合、赤字に陥ることも考えられます(図中、例2)。

参照元:【岡本信一の科学する農業】大規模化はするべきですか? 農業ビジネス

 

 

大規模農業は今後どうなるのか

日本で大規模農業は可能なのか。大規模農業の現状と今後の展望|画像2

 

いくつかのデメリットが挙げられている大規模農業ですが、農業従事者の高齢化による後継者不足、担い手不足、耕作放棄地の増加を考えると、大規模化が進むことは否めません。

ただ、2019年12月24日の日本農業新聞には「基本計画 多様な農業後押し 小規模を再評価 農水省が課題整理」という記事があがっています。

そこには“これまでの企画部会で出た主な意見”として

農地の集積・集約などを進めつつ、採算性が厳しい地域の支援も検討するべきだ

と書かれていました。

生産効率を高め、生産性を重視する大規模農業は決して悪いものではありませんが、中山間地の多い日本では、大規模農業のイメージが強いアメリカのようには効率よく進まない場面もあります。

またここで重視されている「地域農業を営む多様な担い手」の存在は、その地域の農業や農村を維持するのに重要な役割を担うことも。

近年、異常気象により、生産物や農地自体が壊滅的な被害を受けることも少なくありません。そんなとき、大規模農業だけでなく、多様な地域農業が発展していれば、その地域全体の天候によるリスクを軽減できますよね。

今後は、大規模農業の推進だけでなく、多様な農業を後押ししていく方向へと政策が進んでいきそうです。

 

参考文献

  1. 川内イオ, 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』, 2019年10月20日, 文春新書
  2. 日本の農業を支える大規模農業の将来とは あぐりナビ
  3. 大規模農家じわり増 15年版調査、後継者不足は一段と 日本経済新聞
  4. (1)農業経営の動向 農林水産省
  5. 「農地バンク」 初年度実績は目標の2割 周知不足がたたる 産経ニュース
  6. 農業の大規模化(だいきぼか)のメリットはなんですか。 こどもそうだん 農林水産省
  7. 【岡本信一の科学する農業】大規模化はするべきですか? 農業ビジネス
  8. 基本計画 多様な農業後押し 小規模を再評価 農水省が課題整理 日本農業新聞

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