2020年は、九州以北は例年より梅雨が長かったといわれています。梅雨が明けた後に訪れる真夏日や猛暑日といった、気温が高すぎる環境は農作物にとって厄介ですが、曇りや雨の日が多いことによる日照不足も、農作物に悪影響を及ぼします。
日照不足で起こりうる影響
まずは日照不足で起こりうることについてご紹介します。
日照不足の影響で起こりうることには
- 生育遅延
- 草勢(株の勢い)低下
- 軟弱徒長
- 病害発生、被害拡大
などが挙げられます。
光合成の役割を見直してみると、日照不足が農作物に与えるダメージが理解しやすいはずです。
植物生理の基本である「光合成」。光合成は、細胞の中にある葉緑体が、水と二酸化炭素を原料に、光のエネルギーを受けて炭水化物などの有機物を作り、酸素を放出する作用です。
光合成によって作られた炭水化物は、植物体内のいろいろな有機物質の材料になります。
- 細胞壁…光合成産物の炭水化物であるセルロースやリグニンでできている
- 細胞原形質(主要成分はタンパク質)…炭水化物と根から吸収された窒素でアミノ酸が合成されて、そこからさらに作られたもの
など
植物の生育に必要なのは光合成だけではありません。
これらの物質、植物体内の有機物の合成には、植物の「呼吸作用」で得られたエネルギーが用いられます。根の養分吸収も同様ですがエネルギー源となる炭水化物が絶えず供給される必要があるため、やはり光合成も重要なのです。
またトマトやナス、ニンジンなど、多くの野菜が陽性植物(直射日光〔1日6時間以上〕を好み、日陰では正常に育たない)に当たるのですが、この生育条件からも、日照不足が悪影響を及ぼすことが分かります。
日照不足対策
日照不足を人為的にコントロールするのは非常に困難です。よって対策としては、梅雨の晴れ間や梅雨明け後に備えて、いかに早く草勢を回復させるか、病害を防除するかなどの管理が求められます。
病害虫の早期発見、予防に努める
日照不足以外の要因(曇雨天時による土壌の加湿や梅雨明け後の高温多湿など)もありますが、病害虫の発生が多くなると予想されます。そのため、こまめに圃場を見回り、病害虫の早期発見に努めましょう。
病害が発生しやすい条件がそろっていると感じたら、農薬使用基準に沿って薬剤の予防散布を行い、防除しましょう。
曇雨天日が続くと茎葉が徒長気味になるので、古い葉は早めにとり、風通しと日当たりを良くしたいところですが、曇雨天時に摘葉や芽かきを行うと、病害の感染を助長する場合があります。この作業は農作物の状態と天候を見つつ、慎重に行いましょう。
草勢回復のために追肥を行う
液肥を茎葉に散布し、草勢の回復を図りましょう。この際、一気に多量与えるのではなく、1回あたりの量を少なくして生育状況を見ながら与えてください。
エダマメやネギなど、新根の発育を促すことで草勢回復を図る場合には、浅く耕したり、根元に土を寄せることで土中の空気を入れ替えるようにします。
薬害発生に十分注意する
草勢低下により薬害が発生しやすいため、先で紹介した作業を行う場合には、使用する薬剤の1回あたりの量を少なくしたり、濃度を低くしたり、気温の低い時間帯に散布を行ってください。
その他
株の着果負担を軽くするため、小さなサイズのうちに収穫するのも、一つの手です。
日々チェックしておきたい気象情報サービス
農業は天候に左右されやすいため、気象情報はこまめにチェックしておきたいところ。気象庁のホームページには、農業災害の防止・軽減に役立つ気象情報に関する項目が用意されています。農業気象災害が発生しやすい気象条件は確認しておいて損はありません。
参考文献
- 日本農業検定事務局編、『新版 日本の農と食を学ぶ 上級編 ー日本農業検定1級対応ー』、2020年4月1日、一般社団法人農山漁村文化協会
- 農作物の浸水・冠水害等に関する技術対策について 農業技術環境課
- 低温・日照不足に対する農作物の技術対策について – 埼玉県
- 長雨・日照不足対策