インバウンド需要に向けた販売のポイント。

インバウンド需要に向けた販売のポイント。

インバウンド(外国人が訪れてくる旅行のこと)市場の回復に伴い、訪日外国人向けに日本の農産物や食品をどのように販売するかが注目を集めています。

日本の普段使いの食品は品質が高く、安価で多様性もあり、外国人観光客にとって魅力的な選択肢となっています。特に、訪日時の食体験は、帰国後も日本産の商品を購入する動機となります。したがって、インバウンド需要をターゲットにする際は、単に商品を輸出するだけでなく、訪日体験を反映させた商品開発と販売戦略が重要といえます。

そこで本記事では、インバウンド需要に向けた販売のポイントと題して、注目を集めるキーワードである「越境EC」(国境を越えた電子商取引(EC)のビジネスモデル)やSNS投稿の影響力などについてご紹介していきます。

 

 

意外な場所にあるインバウンド需要

インバウンド需要に向けた販売のポイント。|画像1

 

本サイトでは、「新たな販路としてのインバウンド需要」という記事を公開しています。

インバウンド向け農産物とは。新たな販路としてのインバウンド需要に注目 – 農業メディア│Think and Grow ricci

外国人観光客の間で関心を集める日本の食文化には、「寿司」「天ぷら」などの定番食だけでなく、農産物や「日常食」(スーパーマーケットや直売所など小売店舗で販売されている食品)もあげられます。

NHKのニュースサイト「NHK NEWS WEB」で2025年2月1日に公開された記事では、コロナ禍前の2019年と2024年で外国人旅行者数の増減率について比較・分析を行ない、新たに外国人が来るようになったエリアと旅行先の最新トレンドについて紹介しています。

記事によると、増加率に特徴的な変化が見られた静岡県の焼津市周辺では、外国人観光客の間で地元で60年続く老舗の鮮魚店が評判を呼んでいました。

スーパーマーケットや直売所など、日常食の小売店舗を訪れる外国人観光客も少なくありません。すぐに食べられる生鮮果実などが人気で、地方のスーパーマーケットにも波及しています。

 

 

国境を越えたECが注目集める

インバウンド需要に向けた販売のポイント。|画像2

 

そんな中、近年、新たな販路として国境を越えたEC、通称「越境EC」が注目を集めています。

越境ECの台頭は、インターネット環境の整備やスマートフォンの普及により、国境を越えたオンライン取引が容易になったことが大きな要因です。特に東南アジアでは、通信インフラの整備等を背景に、EC市場が急速に拡大。また、SNSの活用により、マーケティング・コストが大幅に軽減され、新しい流通経路が切り開かれつつあります。

もちろん、越境ECの活用には多くの課題も存在しています。特に農産物に関しては、鮮度をいかに保つか、少量受注をいかに大量輸送に結び付けるか、生産者のリスク(受注分の出荷と返品のリスク)をいかに軽減するか、為替リスクをいかに回避するかなどが挙げられます。 また、各国の規制や文化の違い、物流インフラの整備状況なども、越境ECの展開に影響を及ぼします。

とはいえ、越境ECは日本の農産物・食品の新たな販路として大きな可能性を秘めていることに変わりありません。越境ECのさらなる発展には、食の安全性の確保と維持、GI(地理的表示保護制度)の登録促進などの取り組みのほか、現地市場のニーズを吸い上げ、農産物・食品の質の改良・改善に反映させ、信頼度を高める工夫が求められます。

 

 

販売につなげるためのポイント

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消費者ニーズの理解

消費者が求める価値を理解し、そのニーズに応じた商品開発が必要です。

越境ECは、訪日外国人が訪日時の食体験を再体験するのに役立ちます。となれば、「訪日時の食体験」や「日本の食文化」といったストーリー性を商品に加えるのも一つの手です。商品によっては、消費者が求める「健康志向」や「オーガニック」といった価値観に合致している必要性も生じます。

また、輸送方法や販売価格の設定も重要です。ターゲットとなる消費者は輸送コストや商品価格に敏感です。そのため、品質やオリジナリティを保ちながら適正な価格設定を行う必要があります。
インバウンド需要を考える際には、常に消費者(訪日外国人)目線を意識することが大切です。

SNSの活用

近年は、SNSが大きな影響力を持っています。訪日外国人の多くはSNSなどで情報収集や発信をしています。そのため、インバウンド需要をターゲットにしたマーケティングにおいて、外国人によるSNS投稿を促すことは重要といえます。そこで、SNSを活用した口コミやレビューの促進が、消費者(訪日外国人)の購買意欲を高める手段となります。消費者が投稿したSNSの情報は、次の消費者にとって重要な参考材料となります。

SNS上での消費者による積極的な情報共有を促すためには、外国人観光客にも対応できる体制を整える(日本に住んでいる外国人を採用するなど)、SNSなどで情報発信を行う際は英語や韓国語など多言語に対応するなどの対応が求められます。

 

 

インバウンド需要を視野に入れた販売事例

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最後に、地方自治体や企業によるインバウンド需要を視野に入れた取り組み事例を紹介します。

岡山県では香港をターゲットに、果物(ももやぶどう)の輸出拡大を進めています。

香港は、日本にとって主要な輸出先国の一つです。日本からの輸出に際して規制が少なく、物流システムが整備されていることから、日本産の農産物がスムーズに流通しています。日本から輸出された食材は、日本食レストランやスーパーなどに並び、日本産の商品に対する消費者の関心が高いとされています。

そこで岡山県は、果物を主要なコンテンツとしてプロモーションを実施。前述したようなSNSを活用した情報発信のほか、現地(香港)でももを使った料理教室を開催したり、香港からの旅行客に向けて果物狩りなどの体験を通じて地域の魅力を伝える取り組みを行なったりしています。

特産品の輸出や観光コンテンツのプロモーションの強化は、日本滞在中の消費を促進するだけでなく、滞在前後の消費促進を図ることにつながります。

そのほか、農山漁村の新しいビジネスモデルである「農泊」も注目を集める取り組みの一つです。農泊は、農山漁村で伝統的な生活を体験しながら地域との交流を楽しむ旅行の形です。農泊は、外国人観光客に向けて「日本の食文化」や「訪日時の食体験」といったストーリー性を提供できるだけでなく、地域活性化や地域の所得向上にも貢献します。

なお、農林水産省は「SAVOR JAPAN」というプログラムを通じて、農泊を推進しており、地域ごとの特色ある農産物や食文化を海外に発信しています。

これらの取り組みは、農産物の輸出や観光誘致を通じた経済効果を生み出しています。

今後も増加すると見られるインバウンド需要に対応するために、地域の特産品や食・農体験を効果的に発信する販売戦略を築くことが重要です。

 

参考文献

  • 三輪泰史『図解よくわかるスマート農業-デジタル化が実現する儲かる農業-』(日刊工業新聞社、2020年)
  • 八木宏典『図解知識ゼロからの現代農業入門 最新版』(家の光協会、2019年)

参照サイト

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