2023年末に発表された農業総産出額からみる日本の農業の現在。

2023年末に発表された農業総産出額からみる日本の農業の現在。

2023年12月22日、農林水産省は令和4(2022)年農業総産出額及び生産農業所得を公開しました。

統計結果の概要より、産出額は増加するも、所得の減少は続いています。

農業総産出額は米や野菜などの価格が上昇したことから前年に比べ1.8%増加の9兆15億円となりました。

なお、2022年の生産農業所得は前年から7.3%減少の3兆1,051億円となりました。減少の要因には国際的な原料価格の上昇などにより、肥料や光熱動力などの農業生産資材の価格上昇などがあげられます。

本サイトでは、2021年に公表された2020年度の農業総産出額および生産農業所得について取り上げています。

全国の農業総産出額と生産農業所得が増加中。各都道府県の農業生産性、産出額向上に向けた取り組み事例を紹介。

上記では、増加率は少ないものの、農業産出額、生産農業所得ともに増加傾向にありました。この年は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)拡大の影響で、需要減退を要因に価格の低下が見られましたが、一方で、天候不順や巣ごもり需要によって野菜や豚肉などの価格が上昇しました。

 

 

米、需要は一貫して減少が続く

2023年末に発表された農業総産出額からみる日本の農業の現在。|画像1

 

米の産出額は2020年以降減少傾向で推移しています。

まずは比較対象として2020年時点とそれ以前の動向を見ていきます。

主食用米から飼料米、他の作物への転換が促されたり、飼料作物への補助金の増額や需要に応じた米生産を定着させる取り組みにより、主食用米の価格は、平成27(2015)年以降、5年連続で増加するなど回復傾向にありました。

しかし2020年は、自然災害等の影響を受けた地域での作柄不良によって全国の生産量が前年並みであったこと、需要減少に見合った作付面積の減少が進まなかったこと、そして何より新型コロナウイルスの影響で中食・外食向け需要が低下し、主食用米の取引価格が前年に比べて低下したことなどを受け、前年から5.7%減少していました。

最新(2022年)の米の総産出額は、前年(2021年は1兆3,699億円)から1.8%増加し、1兆3,946億円へと上向きました。その要因には新型コロナウイルスの収束も見て取れます。

2022年では主食用米から他の作物への需要に応じた米生産の進展のほか、それまで新型コロナの影響で中食・外食向け需要が低下していたこと、増加していた「民間在庫量」が減少したことなどが、主食用米の取引価格回復の要因とされています。

なお、民間在庫量(前年度以前に収穫された米の持ち越し在庫量)は、米の需給状況の指標の1つになっています。なぜなら米の年間供給量は、当該年の生産量と民間在庫量の合計で表されるからです。民間在庫量が増えれば需給が緩和傾向に、減れば引き締まりの傾向にあるとわかります。

 

 

いも類、需要は堅調

2023年末に発表された農業総産出額からみる日本の農業の現在。|画像2

 

ばれいしょ及びかんしょの作付面積は減少傾向にありますが、ポテトチップス用など加工食品向けに国産品を求めるニーズの高まりが続いています。

いも類の産出額の推移で、2020年は前年から比べて19%もの増加となっています。これは、ばれいしょでは日照不足や干ばつ、かんしょでは夏季の長雨や日照不足、九州地方を中心に拡大したサツマイモ基腐れ病の影響による生産量の減少が価格上昇につながったことが要因です。

2021年は前年に比べて0.5%減少しました。かんしょは堅調な消費を背景に価格が高水準で推移しました。一方、ばれいしょは新型コロナウイルス禍での巣ごもり需要の増加と、2020年の不作や供給不足によって、これまで価格が高い水準を示していたのが一転、家庭向け需要の鈍化と供給量の回復によって下落しました。これが2021年の産出額減少の要因として考えられています。

2022年もまた、かんしょが高水準の価格を維持している一方で、ばれいしょは生産量の回復によって価格が低下。結果前年から6.7%減少する結果となりました。

 

 

野菜類、価格が天候不順等の影響を受ける

2023年末に発表された農業総産出額からみる日本の農業の現在。|画像3

 

食の簡便化などの傾向が強まっていることから、カット野菜などに対するニーズや、加工・業務用野菜に国産野菜を求めるニーズの高まりは継続しています。

ただ、野菜類は天候の影響を受けやすいことや保存性に乏しい特徴から供給量が変動しやすいという特徴があります。それもあって、野菜の産出額は2015年以降、2兆円台半ばで推移してきました。

2020、2021、2022年は以下のように推移しています。

単位 2020年 2021年 2022年

実額

億円

22,520

21,467

22,298

対前年増減率 %

4.7

△4.7

3.9

出典:令和4年農業総産出額及び生産農業所得(全国):農林水産省

2022年が前年と比べて3.9%増加したのは、前年に続く玉ねぎの価格高騰や8月の北・東日本を中心とした天候不順等による生産量の減少があげられます。

なお、2024年の夏は平年並みの収穫が予想されていることもあり、野菜相場高が減少するとの見込みです。各々の農産物の価格に大きく影響を与える天候や社会情勢の変化など、その動向が見逃せません。

 

 

果実、堅調な需要と天候不順が価格上昇の後押しに?!

2023年末に発表された農業総産出額からみる日本の農業の現在。|画像4

 

みかん等、果実の栽培面積は、農家の高齢化や離農を理由に減少傾向にありますが、消費者のニーズに合わせた優良品目・品種への転換により、高品質な果実が生産され、国内外でのニーズが堅調です。2020年、2021年、2022年と産出額は増加傾向にあります。

単位 2020年 2021年 2022年

実額

億円

8,741

9,159

9,232

対前年増減率 %

4.1

4.8

0.8

出典:令和4年農業総産出額及び生産農業所得(全国):農林水産省

2022年においては前年比0.8%増とわずかな増加となりました。これは2022年においては、生産時期の天候に恵まれ、生産量が前年産を上回ったことに起因しています。

 

 

作付面積の減少が気になるところ

2023年末に発表された農業総産出額からみる日本の農業の現在。|画像5

 

本記事で紹介した米、いも類、野菜類、果実では作付面積の減少について記されているものが少なくありません。

農業産出額は需要や生産量に応じた取引価格の増減もあって9兆円前後を保っていますが、この先、農家の高齢化、離農による経営体の減少で、生産力そのものが低下し、産出額が下落していることが危ぶまれています。

加えて、最近では生産資材等の価格高騰分が販売価格に転嫁できていないことを指摘する声もあります。

今後、経営体数が減少する中でも産出額の推移に寄与してきた法人化や大規模化といった経営体の規模拡大、また適正な価格転嫁や食料安全保障の観点からの国による赤字補填などの取り組みに、注目が集まりそうです。

参照サイト

(2024年4月1日閲覧)

(2024年4月12日閲覧)

 

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