2021年2月5日に農林水産省より公表された「農林水産物輸出入情報」によると、2020年の日本の農林水産物・食品輸出額はほぼ前年並みだったものの、前年比1.1%増と、わずかながらに増え、8年連続で過去最高額となりました。
2020年といえば、新型コロナウイルス感染拡大の影響が思い浮かびますが、日本の農業輸出は好調を維持することができました。
日本の2020年の農業輸出について
コロナ禍でも好調だった理由
農林水産物・食品の輸出全体が新型コロナウイルスの影響を受けなかったわけではありません。新型コロナウイルスの影響を受け、海外にある日本食レストランの多くが休業を余儀なくされました。それにより外食向けに輸出されていた牛肉や日本酒の輸出額が一時低迷しました。
その一方で、「巣ごもり需要」が鶏卵や米などの輸出額の増加を後押ししたことや下半期には輸出が回復したことが、輸出額前年比1.1%増へとつながりました。
ただし、品目をよく見ると……
“日本の農林水産物・食品輸出額”とあるように、輸出額に含まれる品目は農林水産物だけに限りません。多くを占めているのは「加工食品」で、アルコール飲料やソース調味料などが含まれます。
また「輸入品の」原料を用いた加工食品、チョコレートやコーヒー、清涼飲料水などが「農産物」に分類されていることを疑問視する声も挙がっています。
農作物に限定した場合はどうか
そこで、野菜や果実等だけではどのような状態なのか調べてみました。
なお「農産物」は
農業によって生産される物。穀類・野菜・果物・茶・畜産物など。
出典元:小学館 デジタル大辞泉
を意味し、畜産物も含みますが、ここでは畜産物を含まない「農作物」のみで調べています。
2020年1月〜12月の野菜・果実等の輸出額は45,7869百万円で、前年比+2.9%となっています。2020年の農林水産物・食品輸出額と農産物のみの額を国・地域別でまとめるとトップ5は以下の通りです。
順位 | 輸出先 | 輸出額(億円) | 金額構成比(%) | 前年同期比(%) | 輸出額内訳(億円)
農産物のみ |
1 | 香港 | 2,061 | 22.3 | +1.2 | 1,506 |
2 | 中華人民共和国 | 1,639 | 17.8 | +6.6 | 1,149 |
3 | アメリカ合衆国 | 1,188 | 12.9 | ▲4.0 | 909 |
4 | 台湾 | 976 | 10.6 | +8.0 | 753 |
5 | ベトナム | 537 | 5.8 | +18.3 | 329 |
また、参考資料は2015年のものになりますが、上記の主要輸出国で需要が高まっている農作物の現状と課題をまとめると以下のようになります。
輸出先 | 農作物の現状(☆)と課題(★) | |
香港 | 果物(りんご、もも、ぶどう、いちご等) ☆贈答用・富裕層向けのニーズ★一年を通じて供給できる体制の確保★傷みやすいことから、物流対応が必要 など |
コメ ☆日本食レストラン等で業務用が拡大☆家庭用も含めた増加の期待あり★業務用・家庭用の販路拡大 など |
中華人民共和国 | 果物(りんご、なし) ☆贈答用・富裕層向けのニーズ★りんご、なし以外の果物は検疫条件の設定が必要 など |
コメ ☆日本食の食材として需要に期待あり★流通ルートの多様化や販売の工夫 など |
アメリカ合衆国 | ながいも ☆アジア系をターゲットに輸出増加の可能性あり★アメリカ西部やその他の地域等での需要開拓が必要 |
コメ ☆日本産米を利用した日本食レストランを中心に輸出が拡大。★日本産米と現地産米との品質格差を現地消費者に認識してもらう機会の提供が必要 |
台湾 | 果物(りんご、ぶどう、もも、なし、みかん、いちご等) ☆いずれも贈答用ニーズあり★中間層への需要開拓★他国産との差別化 ★残留農薬基準への対応 など |
野菜(ながいも、大根) ☆日本とは異なる規格への需要に期待あり(ながいもは日本向けより大きなサイズが薬膳料理用に利用される、大根は日本産のやわらかい食感に期待あり)★日本料理の食材としての普及★販路開拓 |
ベトナム | 果物(りんご) ☆2015年9月に輸入が解禁されてから、実績あり★りんご以外の輸入禁止の解除 など |
コメ ☆輸出が大きく増加傾向★マーケットニーズの分析 など |
課題に、今後需要が高まることが期待される農作物のヒントが隠されているかもしれません。農作物の国外への販売を考えている方は、農林水産省の関連資料をぜひチェックしてみてください。
直近の情報
日本政府は、農林水産物・食品の輸出額を2025年までに2兆円、2030年までに5兆円にする目標を掲げています。
そのための具体的な施策として、重点品目ごとに輸出のターゲットとなる国や地域を特定し、目標の設定と目標達成に向けた対応を明確化しています。
例えばりんごの場合。2020年の資料によると、りんごは輸出額の減少が大きかった品目です。その原因は、2019年産の生産量が減ったことと記されています。そんなりんごですが、香港、中国、台湾、ベトナムの主要輸出国でニーズが高い産物でもあります。
日本政府はりんごの輸出額の目標を145億円(2015年)→177億円(2025年)に設定。日本のりんご輸出の7割を占める台湾などへは、従来よりニーズの高い贈答品に加え、中小玉果の生産・供給体制を強化し、値頃感への訴求を図ります。
コメ・コメ加工品については目標額が52億円(2019年)→125億円(2025年)に設定され、中食・外食を中心とした需要開拓の他、パックご飯や米粉の市場開拓も挙げられています。
2021年8月3日に農林水産省が発表した2021年1〜6月の農産物・食品輸出額は5,407億円(前年同期比+30.8%)となり、過去最高額を突破しました。日本政府が目標としている年間1兆円に達するのではないかと期待されています。
参考文献