2021年10月21日、日本農業新聞に『被覆資材の値上げ相次ぐ 原油高要因、農家経営に打撃』が掲載されました。
ハウスやトンネル、マルチングに用いられる農業ポリエチレン、ビニール等の被覆資材の値上げが相次ぎ、その原因は原料となる原油価格の高騰です。
原油価格の高騰
原油価格が高騰している原因には、新型コロナウイルス禍により世界的に停滞していた経済活動が回復期に入ったことが挙げられます。経済活動が回復し、需要が拡大する見通しから高騰が続いているのです。
例えば先で紹介した農業資材などを含む石油化学製品の原料「ナフサ」の価格は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた2020年1〜3月期には2万5000円/klと価格が落ち込んでいましたが、2021年1月には3万1800円/klに上がり、2021年4〜6月期は4万7700円/kl、8月には5万2000円台となりました。
原油と農業の関係
農業で利用される被覆資材などの他、施設園芸では冬期の暖房用燃料などにA重油や灯油等が用いられるなど、農業を行う上で原油は切っても切れない関係にあるといえます。
原料価格が高騰した時、最も影響を受けるのが農業従事者です。メーカーは製品価格に転嫁することができますが、農家は資材や燃料にかかる費用が増えた分を農産物価格に転嫁することがほとんどできません。そのため、経費が増加しても販売価格と収量を現状のままとして試算すると、多くの農家が経営危機に陥ってしまいます。
実は、農業用資材高騰の問題は十数年前から言われ続けています。
2008年10月に公開された「原油高騰に苦しむ生産地の現状」の記事でも、農業用資材の価格高騰が農家経営を直撃していると書かれています。この記事では、最も値上げ幅が大きかった重油価格について、4年間で約3倍上昇したことが記されています(40円台/lから2008年7月には120円/lを超える)。
「A重油、軽油価格の推移|新電力ネット」より年次推移を見てみると、その後、2009年にかけて価格が下がっています。しかし、ゆるやかに高騰は続き、2014年〜2016年にかけては再び下がっていますが、2004年頃の価格40円台/lには戻っていない状況が続いています。
対策はあるのか
国による支援
矢野 佑樹、中村 哲也、丸山 敦史「原油価格と為替レートが施設園芸農業に与える影響 ベクトル誤差修正モデルによる分析 」( 農業経営研究第53巻第2号 p.1-11、2015 年)には、2014年に実施されている農林水産省の「燃油価格高騰緊急対策」について触れられていました。
具体的な内容には
- 省エネ設備(木質バイオマスを利用した加温設備など)のリース導入支援
- A重油価格高騰時に補填金が交付されるセーフティネット構築の支援
が挙げられています。
2021年現在も施設園芸等燃油価格高騰対策は講じられており、農林水産省のホームページには燃油高騰対策関係のページが用意されています。
ただし2014年時点と同様、支援の対象は全ての施設園芸農家ではありません。
支援対象者は以下の要件を満たす必要があります。
(1)野菜、果樹又は花きの施設園芸若しくは茶業を営む者であり、そのことが書面等により確認できること。
(2)事業参加者が3戸以上又は農業従事者が5名以上であること。
(3)省エネルギー等推進計画を定め、燃油使用量を15%以上削減する等の目標を掲げ、その達成に向けた取組をすること。
(4)農業協同組合等以外の任意組織の場合は、代表者の定めがあり、かつ、組織及び運営についての規約の定めがあること。引用元:施設園芸等燃油価格高騰対策Q&A
農家が行う省エネ対策
以下では、実際の農家が取り組んでいる省エネ対策についてご紹介していきます。
農業用資材の場合、例えばマルチであれば、畑に生える雑草で代用することができます。
雑草によるマルチングは、ビニール素材のマルチと同じく土が乾燥するのを防ぐ効果のほか、雨などの影響で土や肥料が流亡するのを防ぐ効果があります。また雑草マルチによって土壌の湿度が保たれると、土壌中の生物が棲みやすい環境となり、生物多様性に富んだ土づくりにもつながります。
使用後は微生物の働きによって分解されるので、処分する必要がありません。雑草マルチの利用によって生物多様性に富んだ土壌になれば、肥料の量を減らすことができるので、肥料代削減にも役立ちます。
施設園芸の場合は
- 多重被覆を導入する
- ハウスの保温性を高める設備を導入する
- ハウスの気密性を向上させる(隙間等を補修するなど)
- 温度管理装置を設備し、適切な温度管理を実施する
- 肥料を複合肥料から単肥にすることで経費を削減する
などが挙げられます。
他にも、高温作物から省加温、無加温作物に転換する(シシトウなど→ニラやネギなど)方法もありますが、今後も原油価格が高騰し続ける場合、農家の自助努力だけでは限界があるのも事実です。
冒頭で紹介した日本農業新聞の記事の終わりには
農畜産物流通コンサルタントの山本謙治氏は、農産物の小売価格が消費者の購買データなどを基に決められ、生産・流通コストと乖離(かいり)していると指摘。「農家の努力を超えたコスト増は農産物価格に転嫁されるべきだ。流通や消費者も理解する必要がある」と指摘する。
とあります。価格高騰はこれからも続くと考えられます。農産物価格への転嫁が可能になることに期待せざるを得ません。
参考文献