現代において「地球温暖化」は誰もが一度は耳にしたことのある言葉かと思います。地球は元々、数十億年という長い歴史の中で数万年から数千万年にわたる大きな気候変動を何度も経験していますが、1980年代からヒトの生活や経済活動を起因とする数百年程度の間の温度上昇が問題視されるようになりました。
地球温暖化はさまざまな分野に影響を及ぼしますが、農業分野も例外ではありません。
地球温暖化により農産物はどのような影響を受けているか
農林水産省が公表する「地球温暖化影響レポート」に農産物への影響が記されています。
地球温暖化影響レポートは「都道府県の協力を得て、地球温暖化の影響と考えられる農業生産現場における高温障害等の影響、その適応策等について報告のあった内容を取りまとめたもの」です。
令和3(2021)年地球温暖化影響調査レポート(調査対象期間令和3年1月〜12月)によると、令和3年は年平均気温が全国的に高く、前年12月〜1月にかけて日本海側で大雪、8月中旬には東・西日本で記録的な大雨を観測しています。その影響が農産物に及んでいます。
水稲は出穂期以降の高温で白未熟粒※が発生しました。
※元来、玄米の胚乳(種子の中にあり、発芽のための養分を貯蔵した組織)にはデンプンが詰まっていくのですが、出穂後20日間の平均気温が27℃以上の高温や日照不足などの影響を受けると、デンプンが詰まりきらずに登熟(穀物の種子の発育・肥大)を終えてしまいます。デンプンが詰まらなかった粒は光を乱反射して白く見えます。
果樹は果実肥大期以降の高温により、着色不良、着色遅延、日焼け果などが発生しました。野菜も着花・着果不良が発生し、また花芽分化期の高温により、花芽分化の遅れが発生しています。病虫害も多く発生しました。
地球温暖化影響調査レポートには適応策も記されています。
たとえば水稲の場合、高温耐性のある品種の導入や水管理の徹底などが挙げられています。
また高温による白未熟粒の発生を減少させるのに、遅植えや直播栽培によって登熟期間を遅らせることが有効とされています(出典元:地球温暖化が農林水産業に与える影響と対策)。
果樹の着色不良においては、着色に優れた品種や着色に関与しない黄緑色の品種の導入、カルシウム剤の散布や植物成長調整剤の活用などが挙げられています。また反射マルチなどで受光状況を改善する技術も紹介されています(出典元:同上)。
農林水産省は「品目ごとの気象被害防止に向けた技術対策」という資料を公開しています。水稲、小麦、大豆、果樹(りんご、うんしゅうみかん)、果樹(もも、なし)、茶について、生育ステージと栽培管理、留意すべき気象現象と被害防止のための対策が月別で表記されています。年間を通しての備えが確認できる便利な資料です。
将来予測について
農林水産省「農林水産省機構変動適応計画」(令和3年10月27日改定)には、農業生産品目への気候変動による影響について将来予測が記されています。
水稲の場合、2010年代と比較した白未熟粒の発生割合が2040年代に増加すると予測されています。
果樹の場合、うんしゅうみかんやりんごで栽培適地が広がること、ぶどう、もも、おうとうの主産県で高温による生育障害が発生することなどが予測として挙げられています。果樹は気候への適応性が低い作物です。一度植栽すると同じ樹で30〜40年栽培を行うことから、1990年代以降の気温上昇に適応できていない場合が多いとされているため、長期的な視野で対策を講じる必要があります。
麦や大豆や茶などは、平均気温上昇による減収や凍霜害リスクの増加等が危惧されています。農研機構が平成29(2017)年8月に発表した研究成果によると、コメとコムギは21世紀末までの気温上昇が3.2度を超えた場合、トウモロコシとダイズは1.8℃未満でも収量の伸びが停滞し始めます。
野菜や花きは栽培時期をずらしたり、適切なかん水を行うなどすれば、栽培そのものは継続可能と考えられていますが、過去の調査から40以上の都道府県で気候変動の影響を受けていることがすでに報告されています。
地球温暖化への対策には、緩和策と適応策がとられています。
緩和策とは、温室効果ガスの排出の抑制や、森林等の吸収作用を保全及び強化することで、地球温暖化の防止を図るための施策です。 一方で、適応策とは、地球温暖化がもたらす現在及び将来の気候変動の影響に対処する施策です。
出典元:環境省_平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部パート1第2章第2節 新たな枠組みを踏まえた緩和策
農林水産省や環境省など関係省庁が公開する適応策を参考に、気候変動の影響を最小限に抑えた生産を続けていきたいですね。
参考文献