気候変動の問題は、今や誰しもが認識している環境問題です。地球規模で起きている気候変動は、農業に重大な影響を及ぼしています。
日本で起こること・起きていること
南北に細長い日本列島は周囲を海で囲まれ、北からは寒流が、南からは暖流が流れていること、陸地の7割が山岳地帯であることなどのさまざまな要因から、日本列島の大部分の気候帯は「温帯湿潤気候」でありながらも、細かく見ていくと寒帯、亜寒帯、温帯、熱帯まで多様な気候帯があることがわかります。
日本の農業はその多様な気候的特性を活用して、適地適作が行われてきました。
植物を含む生態系に影響を及ぼす気候変動によって、日本の多様な気候帯に変化が生じると、適地適作で生まれた特産品に影響が及ぶことになります。
日本の気象庁によると、日本の年平均気温は変動を繰り返しながら上昇しており、1990年代以降は高温となる年が頻出しているという観測結果が報告されています。
気候変動の農作物への影響はすでに報告されています。
たとえば高温は、野菜の着花・着果不良や着色不良、花芽分化の遅れ、収穫期の前進または遅延などを引き起こします。果樹においては、作地の移動が困難なため気候変動の影響を受けやすいといわれており、果実の日焼けや奇形、色落ち、発芽不良などが問題として挙げられます。
その地域の年平均気温が上昇することで、農作物の生産に適した温度から外れてしまうことによる、栽培適地の縮小も懸念されています。
世界の農業への影響、バングラデシュの場合
農作物の生育不良や品質低下、適地の変化が生じているのは日本の農業に限った話ではありません。The Japan Timesの記事には、バングラデシュの北部ラジシャヒ地区では、気候変動の影響で降雨量が不安定になったことで、多くの農家が米から野菜の生産へと切り替えている、と書かれています。
バングラデシュの一部地域ではモンスーン性の記録的な大雨と洪水が発生していますが、ラジシャヒ地区など一部地域では干ばつが深刻化しています。干ばつにより、大量の水を必要とする米の収穫が減るにつれ、米農家の収入も減っていきました。
バングラデシュ稲研究所(The Bangladesh Rice Research Institute)によると、トマトやオクラ、大根などの特定の野菜は1キログラムあたり約336リットルの水で栽培でき、同じ量の米を栽培するのに比べて水の使用量が10倍近くも少なくて済むと試算しています。そんな野菜は買い手も多い作物であることから、多くの農家が米からの転換を選択しています。
ラジシャヒ地区の農業改良普及局はより多くの人が野菜生産に切り替えるよう農家への指導を行っていますが、ラジシャヒ政府は米づくりに苦労している農家がいる地域のみを対象としているため、野菜への転換が水稲生産全体に影響を与える心配はない、と述べています。
世界の農業への影響、カナダの場合
気候変動によって引き起こされた最悪のケースをご紹介します。カナダのケベック州では2002年に熱波に見舞われ、当時最新の換気システムなどが使用されていたにもかかわらず、50万羽の家禽が死亡する事態となりました。また2010年から2012年にかけては、オンタリオ州で猛暑により数百頭の乳牛が死亡しました。
先で紹介したバングラデシュ同様、記録的な大雨と干ばつによる被害も受けています。2016年には、春に広範囲にわたって干ばつが起きました。長引く乾燥した天候の後、夏の終わりに集中豪雨が発生したことで、アルバータ州北部からマニトバ州東部まで多くの地域で洪水が発生しました。2017年にはサスカチュワン州南部で、畑に種をまくことができないほど雨の多い春の後に、130年以上にわたる記録で最も乾燥した7月を迎え、大きなダメージを受けました。
マニトバ州で70年以上農業を営んできた農家は、カナダの多くの農業地帯で猛暑日が続くことになるという予測に対し、「このような暑さでは、農法を変えざるを得ない。新しい作物を取り入れなければならない」と答えています。
参考文献