施設園芸の労力&コスト削減に役立つ養液土耕栽培のメリットと留意点とは。

施設園芸の労力&コスト削減に役立つ養液土耕栽培のメリットと留意点とは。

近年、肥料にかかるコストや環境負荷を減らし、かつ作業の効率化をはかるための施肥法が普及しつつあります。

水田や畑地では、堆肥や基肥などを圃場全面に散布し、耕うん機などですきこむ「全面全層施肥」が一般的ですが、肥料の施肥位置を変え、特に肥料が必要とされる部分にのみ施肥することでコスト低減や環境負荷を軽減する方法や、育苗培土に緩効性の肥料を施肥し、移植後に窒素成分が発現するように調整することで施肥回数を減らすなどの方法が広まっています。

本記事で紹介する「養液土耕栽培」もそんな施肥法の一つ。点滴チューブを使って、施肥と潅水を同時に行う栽培方法です。基肥を施用しないことや、肥料を含んだ養液が作物の根域部分だけ潅水施肥されることから肥料成分の流出が少ないなど、施設園芸において作業効率の良い方法として知られています。

 

 

養液土耕栽培のメリット

施設園芸の労力&コスト削減に役立つ養液土耕栽培のメリットと留意点とは。|画像1

 

一番は作業の省力化です。まず潅水・施肥作業を一工程で済ますことができます。かつ一般的にこれらはコンピューターで制御されます。簡単な装置であってもタイマー制御でこれらの作業を済ませることができるので、かかる労力は与える肥料の準備(液肥を水に溶かす)で済むともいえます。

もちろん定期的に土壌診断や栄養診断を行い、作物が必要とする水と肥料の量を把握する必要がありますが、この情報を得ることで養分を効率よく与えることができ、作業性のみならず、肥料コストの削減や環境負荷軽減にも役立ちます。

またこの栽培システムを導入することで、養分が蓄積することで起こる生育障害や連作障害、塩類集積などを避けやすくなるというメリットもあり、収量や品質の向上にも良い影響があるとされています。

なお近年では、クラウドサービスと組み合わせることで、より作業の省力化に繋がっています。例えば明治大学とIT企業「ルートレック・ネットワークス」が共同開発した「ゼロアグリ」というサービスは、ハウス内外に設置した土壌センサーや日射センサーから得られた情報、例えば土壌の状態を把握するための情報(地温・土壌水分量など)など、から作物の生育状況に最適な養分量を判断し、自動で供給してくれます。

 

 

養液土耕栽培の留意点

施設園芸の労力&コスト削減に役立つ養液土耕栽培のメリットと留意点とは。|画像2

 

「土耕栽培」が対象の養液土耕栽培では、土作りが重要です。

というのも、この栽培方法では根圏域の深さを制限することで、養水分を調整し、作物の生育を管理しています。制限された根圏域で、根が養分吸収を行うのに最適な環境条件にする必要があります。養液土耕栽培に適した土壌は、保水性、排水性、通気性、すなわち土壌の物理性が良好に保たれていることが重要です。そのため、養液土耕栽培は基本的に基肥は必要としませんが、新しい土壌で栽培する場合には、完熟堆肥や肥料成分の少ないピートモス等を用いて一部基肥を施用し、土壌の物理性を整える必要があります。

それから潅水する水にも注意が必要です。鉄分等を含む浮遊物は点滴の目詰まりの原因になりやすいので、場合によってはろ過装置を設置する必要が生じることもあります。

 

参考文献

  1. 養液土耕 – ルーラル電子図書館ー農業技術事典 NAROPEDIA
  2. 『農耕と園芸 2019年1月号』「土壌医を目指そう」より(誠文堂新光社、2019年)
  3. 養液土耕+クラウドで低コストで高収益を実現!?|AGRI JOURNAL
  4. ICT養液土耕システムによるトマト促成長期栽培の増収技術|試験研究|アグリくまもと
  5. 農研機構『野菜の省力・低コスト栽培技術』中野明正「潅水同時施肥(養液土耕栽培)」

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