ビール製造に欠かせない「ホップ」。気候変動の影響からホップ生産を守る技術、国産の生産事情。

ビール製造に欠かせない「ホップ」。気候変動の影響からホップ生産を守る技術、国産の生産事情。

ホップは、ビール特有の苦味、香りを与えるビールの主要原料の一つです。「毬花(まりばな)」と呼ばれるホップの雌花がビール製造に用いられます。

 

 

気候変動の影響を受けるホップを守る最新技術

ビール製造に欠かせない「ホップ」。気候変動の影響からホップ生産を守る技術、国産の生産事情。|画像1

 

ビール製造に欠かせないホップは、気候変動の影響により、収穫量や品質へのダメージを受けています。そんな中、有名なビール『ピルスナーウルケル』でお馴染みのチェコNO.1ビールメーカー・プルゼニュスキー プラズドロイ社、その母体である日本のアサヒグループ、ソフトウェア開発・販売企業のマイクロソフト社、スマート農業関連企業であるアグリテクチャー社が運営する「FOR HOPS」というプロジェクトが立ち上がりました。チェコのホップ研究所(Chmelařský institut)、ホップ生産者組合(Svaz pěstitelů chmele)も参加しています。

「FOR HOPS」はその道の専門家たちが力を合わせ、最新技術を用いて、ホップ生産の収穫量と品質を守ることを目的としています。

ホップ生産の危機

1人当たりのビール消費量が世界で一番多い国、チェコ共和国は世界有数のホップ生産国でもあります。チェコ北西部で栽培される「ザーツ種」は、チェコで生産されるホップの約8割を占め、ピルスナービールの味わいを決定づける重要なものです。

アサ科のつる性の多年草植物であるホップは、水さえ十分に確保できればツルを2ヶ月で7mも生長させる植物ですが、気候変動の影響で極寒や猛暑、干ばつによる水不足や短期間の集中豪雨など、不安定な天候がホップ生産の収穫量や品質に悪影響を及ぼしているのが現状です。

FOR HOPSの取り組み

「FOR HOPS」では限られた水を使った効率的な灌漑を行うため、ホップ畑の土壌や苗にセンサーを取り付け、降水量や湿度など、生産に必要な情報を収集します。得られたデータから、ホップが特定の状況にどのように反応するのかを正確に把握できるようにします。

これらのデータはモバイルアプリとしてホップ農家に提供され、ホップ農家は効率的な生産に必要となるデータをスマートフォンで確認できるようになります。

 

 

国産ホップ生産事情

ビール製造に欠かせない「ホップ」。気候変動の影響からホップ生産を守る技術、国産の生産事情。|画像2

 

気候変動の影響によって危機に瀕するホップを守る取り組みが行われる中、気になるのが国産ホップの生産事情です。

ビールの原料であるホップに着目すると、日本産ホップの現状は厳しく、生産量は全国で2008年から2018年の10年間で446トンから202トンと半減しています。

かなり古いデータではありますが、 農林水産省が2000年3月に公開した「ホップに関する資料 平成12年3月」を見ると、ホップの自給率は1967(昭和42)年の79.8%から大幅に減少しており、1989(平成元)年は22.1%、この資料が公開された前年1999年には7.5%となっています。

国別ビール消費量&生産量ランキング

国産ホップの生産は減少傾向にありますが、日本のビール消費量は決して少ないわけではありません。キリンホールディングス株式会社は1974年分から世界主要国および各地域についてのビール消費量、生産量について資料を公開しています。

2020年の国別のビール消費量をランキング形式で見てみると結果は以下の通りです。

国名 総消費量(万kl)

国別構成比(%)

1

中国

3,608.8

20.3

2

アメリカ

2,410.5

13.6

3

ブラジル

1,384.7

7.8

4

ロシア

864.6

4.9

5

メキシコ

828.7

4.7

6

ドイツ

774.6

4.4

7

日本

441.6

2.5

8

イギリス

408.8

2.3

9

ベトナム

384.5

2.2

10

スペイン

381.5

2.1

出典元:2020年 世界主要国のビール消費量 | 2021年 | キリンホールディングス

日本は第7位にランクインしています。では生産量はどうでしょうか。2018年の資料によると、2018年の国別生産量ランキングは以下の通りです。

国名 生産量(kl)

国別構成比(%)

1

中国

38,927,200

20.4

2

アメリカ

21,460,700

11.2

3

ブラジル

14,137,900

7.4

4

メキシコ

11,980,000

6.3

5

ドイツ

9,365,200

4.9

6

ロシア

7,747,000

4.1

7

日本

5,108,300

2.7

8

ベトナム

4,300,000

2.3

9

イギリス

4,228,200

2.2

10

ポーランド

4,093,000

2.1

出典元:「キリンビール大学」レポート 2018年 世界主要国のビール生産量|2019年

2018年時点で、日本は生産量も第7位だったんですね!

 

 

国産ホップに期待高まる!?

ビール製造に欠かせない「ホップ」。気候変動の影響からホップ生産を守る技術、国産の生産事情。|画像3

 

なお、2020(令和2)年の国産ホップの生産量日本一は岩手県で、全国シェアは48.7%です。特に岩手県遠野市は国内屈指のホップ産地として知られています。

しかし日本はビールの主原料であるホップを主にドイツやチェコから輸入しています。2018年財務省貿易統計によると、日本に輸入されるホップのうち50%強をドイツが占め、ドイツに次いで輸入量第2位のチェコは輸入量約2割を占めています(参考文献9,10)。

そんな中、大手ビールメーカーのキリンは国産ホップの活用に力を入れており、国産ホップの約7割を購入しています。

また同じく大手ビールメーカーのサッポロビールは、自社開発ホップ品種「ソラチエース」を使ったビールを発売しています。国産ホップでありながら、開発された当時には特徴的な香りがその時代にはそぐわなかったこの品種は、アメリカのホップ生産者が目をつけ、クラフトビールメーカーに売り込んだことで世界的に知れ渡り、アメリカから“逆輸入”されています。

今後も国産ホップの持つ「独自性」に注目が集まることが期待されます。

 

参考文献

  1. 日本産ホップ生産の持続可能性強化 | 原料生産地と事業展開地域におけるコミュニティの持続的な発展 | キリンホールディングス
  2. FOR HOPS
  3. ​​ピルスナービールの味の立役者、伝統のホップを守り抜くために | コミュニティ | サステナビリティ | アサヒグループホールディングス
  4. ホップ(いわてお国自慢)
  5. 2020年 世界主要国のビール消費量 | 2021年 | キリンホールディングス
  6. 「キリンビール大学」レポート 2018年 世界主要国のビール生産量|2019年
  7. キリンの日本産ホップに関する取り組み|2019年
  8. ホップに関する資料 平成12年3月
  9. 遠野|ホップ|ビール – 岩手県
  10. 面積は日 本の約 5 分の 1 である。 国土 – 農林水産省
  11. 人気で“逆輸入”国産ホップ クラフトブーム追い風、ビール大手も支援 – SankeiBiz(サンケイビズ)
  12. クラフトビール人気追い風、活発化する「国産ホップで勝負」
  13. 商品化まで35年!? 伝説のホップ「ソラチエース」第2章開幕!~北海道生まれの伝説のホップ「ソラチエース」の国内生産量拡大に向けた挑戦~|サッポロホールディングス のストーリー|PR TIMES STORY

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