2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始したことで、穀物価格が上昇しました。ウクライナ情勢が穀物価格に与えた影響と、飼料用トウモロコシの輸入への影響から注目を集めている国産トウモロコシの現状について紹介していきます。
ロシアとウクライナの穀物類の輸出入基本データ
ロシアとウクライナは世界有数の穀倉地帯です。
穀倉地帯
穀物の大産地で、他地域へ穀物を移出する地域。アメリカ合衆国・カナダのプレーリー、アルゼンチンのパンパ、ウクライナの黒土地帯などは、世界における小麦の穀倉地帯である。
たとえばロシアとウクライナの小麦、大麦、トウモロコシの生産量は以下の通りです。
小麦 | 大麦 | トウモロコシ | |
ロシア | 7600万t(世界4位) | 1900万t(世界2位) | 1300万t(世界11位) |
ウクライナ | 2600万t(世界7位) | 830万t(世界5位) | 3300万t(世界6位) |
(データは2018/19年度〜2020/21年度の3年度平均)
ロシアは小麦と大麦の主要輸出国です。小麦の輸出量は世界1位(2018〜21年度平均で3600万t)、大麦も512万tで世界2位です。なおロシア最大の輸出先は中東や北アフリカです。
国土の7割を農地が占めるウクライナは、トウモロコシの生産量は3300万tで世界6位、輸出量は2700万tで世界4位です。
穀物価格、輸入への影響
麦類・トウモロコシの場合
日本は小麦の9割を海外に依存しています。多様な食生活を支える重要な穀物である小麦を安定的に供給するため、日本では政府が小麦を調達します。買付価格の結果を元に半年ごとに売り渡し価格が改定される仕組みなので、穀物市場価格の激しい変動の影響を直接受けにくいようになっています。加えて、小麦の調達国はアメリカ、カナダ、オーストラリアであり、ロシアからの調達はありません。
日本にとってロシアは、貿易相手としては輸出入額が1%前後と低いです。ロシアからの輸入は化石燃料が中心で、農林水産物では主に水産物などが輸入されています。
とはいえ、ロシアからの小麦の調達がないからといって影響がないわけではありません。
小麦の主要輸出国であるロシアとウクライナからの供給が不安定になれば、ロシアやウクライナから小麦を輸入していた国(中東や北アフリカなど)は、他の調達先に移行せざるを得ません。日本の調達先であるアメリカ、カナダ、オーストラリアへの移行となれば、供給量の縮小と需要量の増加から価格上昇は免れません。
トウモロコシ市場も同様です。なお、世界的にトウモロコシの価格が高騰を続けている要因には中国の存在も挙げられます。中国の経済成長に伴い、豚の消費が拡大し、エサであるトウモロコシの輸入が急増しているのです。
コメの価格にも影響を与えることが懸念されている
小麦とトウモロコシの価格上昇の影響は、コメにも影響を与えるとされています。
飼料の代替品として注目されているのが精米過程で砕けた低品質米(砕米)です。小麦やトウモロコシの価格高騰が続けば、砕米の需要が高まることが予想されます。
しかしアフリカやアジアの最貧国の一部では、安く手に入る砕米が食料として利用されていることもあり、ロシアのウクライナ侵攻の問題が長引けば、食料安全保障の問題も発生するだろうと懸念の声があがっています。
国産トウモロコシについて
経済ニュース番組『WBS』(テレビ東京系)では「トウモロコシ価格が急騰“国内産”普及のカギは?」と題し、自前でトウモロコシ生産を行う畜産農家や国産の飼料用トウモロコシ生産に取り組む農家の事例が紹介されました。
トウモロコシ価格が急騰 “国内産”普及のカギは?【WBS】テレ東BIZ – Yahoo!ニュース
農林水産省は国産トウモロコシ生産を後押ししています。22年4月から「水田リノベーション事業」という補助金制度の対象に、飼料用トウモロコシが加わりました。
「水田リノベーション事業」では、作物ごとに定められている取組メニュー(低コスト生産など)から品目ごとに3つ以上選択し、その取り組み面積に応じて、4万円/10aを支援するというもの。トウモロコシの場合の取組メニューには以下の11の内容が挙げられます。
- 生物農薬の活用
- 農薬によらない病害虫対策
- 農薬によらない土壌消毒
- 農薬のドリフト対策
- 化学肥料の使用量削減
- 化学農薬の使用量削減
- 土壌診断等を踏まえた堆肥・土作り
- 新品種の導入
- 排水対策
- 農業機械の共同利用
- スマート農業機器の活用
それぞれの詳細は参考文献5の資料4枚目に記載されています。
飼料として利用するトウモロコシのうち、子実(食用に供される部分)のみを収穫して、乾燥穀物として利用する場合を「子実用トウモロコシ」と呼びますが、子実用トウモロコシはコメの転作作物や輸入飼料の代替として生産が後押しされています。
農林水産省によると、子実用トウモロコシの水田での作付面積は北海道を中心に全国で約900ha(2021年度)。
子実用トウモロコシの転作で得られる収益については、岩手県の農場の事例(2019年)によると、助成金も含めて10a約1万3,000円で、面積あたりの所得では大豆や小麦に劣ります(農水省の試算では、大豆や小麦は10a約4万円)。とはいえ、作業時間は1.4時間/10aで、水稲や大豆の数分の1〜1/10程度と、作業時間あたりの所得は高いことがわかっています。
そのため、生産性を重視する経営体が選ぶ品目として、子実用トウモロコシが選択肢に加わることが期待されています。
参考文献
- ロシアのウクライナ侵攻 穀物生産、食料貿易へ影響懸念|JAcom 農業協同組合新聞
- 小麦価格、ウクライナ情勢で食糧安保の地政学リスク露呈 – 産経ニュース
- アングル:ウクライナ侵攻の「余波」、飼料用コメに旺盛な需要|Reuters
- 新市場開拓に向けた水田リノベーション事業概要 – 農林水産省
- 【新規事業】水田リノベーション事業について
- 初めて取り組んだ 子実用トウモロコシ栽培に手ごたえ – JA全農
- 転作で子実トウモロコシ 長期的支援 増産へ必須/日本農業新聞