令和4(2022)年5月27日に公表された「令和3(2021)年度 食料・農業・農村白書」によると、令和3年の農林水産物・食品の輸出額は前年比25.6%増となる1兆2,382億円とあります。品目別にみると牛肉・日本酒・りんごの輸出が増加しています。
日本は輸出額⽬標として2025年に2兆円、2030年に5兆円の達成を目指しています。海外市場の開拓を推進する中で、需要の高い日本食材のブランド保護のために推進されているのが知的財産の活用です。その中で登場するキーワードに「地理的表示(GI)」があります。
地理的表示とは
地理的表示(GI:Geographical Indication)とは、農林水産省の定義によると「農林水産物・食品等の名称で、その名称から当該産品の産地を特定でき、産品の品質等の確立した特性が当該産地と結び付いているということを特定できる名称の表示」をいいます。
“確立した特性”は「その特性を有した状態で概ね25年の生産実績があるかどうか」で判断される、ともあります。特性は科学的データや文献などに基づいて説明ができる品質特性や社会的評価を表します。
地理的表示保護制度は国際的に広く認知されている
「地理的表示」は日本ではあまり聞き馴染みのない単語かもしれませんが、地理的表示によって農産物や食品、飲料などを保護する制度は国際的に広く認知されており、100か国以上の国で導入されています。
例えばEU(European Union、欧州連合)では、PDO(原産地呼称保護)とPGI(地理的表示保護)の2種類のマークがあります。
地理的表示を得るとどんな利点があるのか
地理的表示は、日本ならではの特産品の名称を知的財産として保護する目的があります。
そもそも知的財産とは「精神活動の成果として、特許・著作・商標・意匠などの財産的価値のあるもの。知財。無体財産。」を指します(出典元:小学館 デジタル大辞泉)。知的財産を保護するメリットには製品価値の維持、第三者からの模倣防止、社会的信用の向上などが挙げられます。
地理的表示は「日本ならでは」の農林水産物や食品にのみ使用することができます。登録されていない産品がその名称を使用することは禁止されます。国が不正使用を取り締まることで、登録産品のブランド価値や生産者の利益が保護されます。
ブランド価値保護の事例
EUでは約1,400の農産物が登録されています。登録する第1の目的には、名称の不正使用の取締が挙げられます。フランスの「ゲランドの塩」は、他産地の塩をまぜた塩がゲランドの塩として売られる事例が過去に発生しています。地理的表示の登録後、生産者団体らの取組により、名称の不正使用が減少しています。
なおEUの地理的表示制度は消費者にも広く認知されています。ブランド価値が保護されることで、消費者は高価格であっても登録産品を選択します。登録産品は登録されていないものに比べ、1.5倍程度高い価格で取引されています。
地理的表示に登録されるとマークがつく
地理的表示に登録された産品にはGIマークと呼ばれるマークがつきます。このマークを使用することで、輸出先の国や地域に日本の地理的表示産品であることを明示でき、差別化をはかることができます。
GIマークは主要な輸出先において商標登録が行われています。そうすることで、海外で日本のGIマークの模倣品がつくられることや第三者によって勝手に商標登録されることを防いでいます。
商標登録が完了している国は、ミャンマー、ラオス、台湾、ニュージーランド、カンボジア、フィリピン、オーストラリア、韓国、EU、インドです。中国では著作権として登記されています。
参考文献