スーパーマーケットなどで「血圧が高めの方に」「骨の健康に」などと表示された野菜を見かける機会が増えたように思えます。
体調を整える効果をもつとされ、科学的根拠に基づいた機能性を表示することができる「機能性表示食品」。今後の市場成長が期待されているだけでなく、健康食品関連で唯一生鮮品を対象にした制度であることから、農業界でも注目されているキーワードです。
機能性表示食品とは
事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品です。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られたものです。ただし、特定保健用食品とは異なり、消費者庁長官の個別の許可を受けたものではありません。
引用元:「機能性表示食品」って何? – 消費者庁 3ページ
図式にもあるように機能性表示食品は、機能性表示ができない一般食品とは異なり、機能性表示ができる「保健機能食品」のひとつです。
保健機能食品の特徴を比較すると以下のようになります。
国の審査 | 届出/承認 | その他の特徴 | |
特定保健用食品 (通称:トクホ) |
効果や安全性の審査が必須 | 消費者庁長官が許可 | トクホだけが表示できるマークあり |
栄養機能食品 | × | × | 国が定めた表現で表示する |
機能性表示食品 | × | 届出制(企業が科学的根拠を提出する) | 事業者の責任で機能性を表示 |
(日本医師会:健康の森「機能性表示食品」、保健機能食品の特徴比較(表1)の図を参考に作成)
機能性表示食品では、冒頭で紹介した「血圧が高めの方に」「骨の健康に」の他、「おなかの調子を整える」「脂肪の吸収を穏やかにする」など、食品の機能性を表示することができますが、科学的根拠に基づいた機能性であることが大前提です。
「トクホ」と違い、消費者庁長官の個別の許可を必要としませんが、“事業者の責任において”表示されます。
また上記の図のように、国が表示を許可するものか事業者の責任で表示するかの違いからか、厚生労働省が提供する資料の一部では、機能性表示食品が保健機能食品「以外」の食品に位置付けられています(『健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて』の「表1 保健効果や健康効果を期待させる製品」)。
生鮮品の機能性表示食品の事例
2020年1月31日現在、生鮮食品の機能性表示食品届出状況は59品目。そのうち野菜は23品目です。
株式会社サラダコスモが販売している「大豆イソフラボン子大豆もやし」は商品パッケージに「骨の健康が気になる方に」とあります。
大豆の胚芽に多く含まれる大豆イソフラボン。その化学構造は女性ホルモン「エストロゲン」に似ており、同じような働きをします。エストロゲンは女性らしい体をつくる、排卵をコントロールする他、骨の健康にも関わっています。
骨の代謝は、古い骨を壊す「破骨細胞」と新しい骨をつくる「骨芽細胞」がバランスよく働くことで、健康的な状態が保たれます。エストロゲンには破骨細胞を減らし、骨芽細胞を増やす働きがあるのですが、閉経後の女性はエストロゲンの分泌が低下するため、骨の代謝バランスが崩れやすく、骨がもろくなる骨粗しょう症のリスクが高まります。
骨の健康に関わるエストロゲンによく似た大豆イソフラボンは、骨粗鬆症の予防に有用とされています。「大豆イソフラボン子大豆もやし」はそんな機能性を表示している生鮮食品なのです。
JA新いわては寒じめほうれんそうを機能性表示食品として消費者庁に届け出、受理されました。JA新いわてが着目したのは寒じめほうれんそうに含まれる「ルテイン」です。
ルテインは緑黄色野菜に多く含まれるカロテノイド(天然色素)の一種。眼の黄斑部や水晶体に多く存在するルテインは強い抗酸化作用をもっており、眼の老化を引き起こす活性酸素を抑えたり、ブルーライトなど眼に有害な光を吸収し、眼を保護する働きがあります。
今後期待されること
先で紹介したように、野菜における機能性表示食品届出状況は23品目。サプリメントの届出は1395件、清涼飲料水は469件というのを見ると、届出が少ないのが分かります。届出が少ない理由としては
- これまで商品名や産地の表示義務しかなかったため、一般的な表示ルールの知識も乏しく、ハードルが高く感じられる
- 栄養素の分析経験がなく、機能性関与成分に対する関心も低い可能性
- 機能性関与成分の規格値を判断するための分析や届出書類作成には時間やコストがかかる
などが挙げられます。
とはいえ、この課題点を解決し、届出を増やすため、対策も取られています。例えば農研機構では、これまでの研究成果をもとにした届出様式の作成例を掲載しています。これは生産者自身が届出書類を作成するのに役立ちます。
また、すでに届出を完了し、機能性表示食品の販売を開始している生産者によると「機能性表示により、野菜の市況が悪化しても固定単価を維持することができた」とのこと。もちろん機能性表示だけでなく、真摯な生産活動と地道な広報、営業活動によって得られた結果ではありますが。
日本政策金融公庫が2019年に行った消費者の食に関する意識調査で「健康志向」が過去最高の46.6%を占めていることからもわかるように、「健康志向」は今後も継続するであろう重要なキーワードです。
「機能性表示」に着目してみてはいかがでしょうか。
参考文献
- 窪田新之助、山口亮子、『図解即戦力 農業のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』、2020年7月3日、株式会社技術評論社
- 「機能性表示食品」って何? – 消費者庁
- 日本医師会:健康の森 「機能性表示食品」
- 「健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて」
- 生鮮食品の「機能性表示」と新たなマーケティングの可能性
- サラダコスモ:【機能性表示食品】大豆イソフラボン大豆もやし – 発芽野菜ラインナップ
- 女性に多い骨粗鬆症 ホルモン減少が原因 予防に効果的な食品が判明|保健指導リソースガイド
- 機能性表示食品 寒じめほうれんそう|JA新いわて – JAいわてグループ
- ルテインとは|医療機関サプリメント情報サイト|わかさ生活
- さよならサプリ!機能性野菜の効能
- 消費者の食の志向、「健康」が過去最高 「手作り」「国産」は低下 – 観光経済新聞