世界の食料供給に影響を及ぼす可能性があるものに、世界的な人口増加による食料需要の増大や気候変動、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)や2022年2月に発生したロシアによるウクライナへの軍事侵攻などが挙げられます。
食料需要の増加に伴う食料供給への影響について
日本と世界の人口
2022年4月15日に公表された日本の総人口(令和3(2021)年10月1日現在)は1億2550万2千人。前年に比べ64万4千人(‐0.51%)減少しており、減少幅は比較可能な1950年以降過去最大となっています。15年連続の自然減少、減少幅は10年連続で拡大、と日本の人口減少は著しい状態にあります。
一方で世界の人口は、2022年7月11日に公表された『世界人口推計2022年版』によると2022年11月15日に80億人に達することが予測されています。最新の予測では世界人口は2030年に約85億人、2050年には97億人に増える見込みです。そして2080年代中には約104億人でピークに達し、2100年までそのレベルに留まる、といわれています。
とはいえ、「1950年以降、最も低い増加率で推移し、2020年には1%を下回」ったとあり、ここ数十年の間に多くの国で出生率が著しく低下したことや移住率の上昇などの要因から、「2022年から2050年の間に61の国や地域の人口が1%もしくはそれ以上減少する」という見込みもあります。
ですが、世界的な人口が日本の現状とは異なるのは一目瞭然です。
食料需要と穀物等の生産量、国際価格の現状
世界の人口が増加するに従い、食料需要も増加します。世界の食料需要は2000年に約45億トンでしたが、50年には約69億トンまで増加すると予想されています。他方で、世界全体の穀物生産量は単収(単位面積当たり収穫量)の向上により増加してきたものの、その伸び率は近年鈍化しています。
穀物等の国際価格は天候や需要動向等に左右されて変動します。 2012年にとうもろこしと大豆が史上最高値を記録した後、世界的な豊作等から穀物等価格は低下し、2017年以降ほぼ横ばいで推移していました。しかし2020年後半から中国の輸入需要の増加、南米の乾燥、2021年の北米北部の高温乾燥等により価格が上昇し、2022年に入ってウクライナ情勢が緊迫化する中で小麦が史上最高値を更新しています。
日本の課題
日本の農林水産業GDP(国内総生産:一定期間内に国内で産み出された物やサービスの付加価値の合計)は世界第9位ですが、日本は世界第1位の農産物の純輸入国でもあり、主要農水産物の輸入は特定の国に依存している状態です。
農産物は生産量に占める貿易量の割合が自動車などよりも低く、多くが自国の食料として消費されます。食料需給の逼迫や食料価格の高騰などが起きると、輸出国では輸出制限を行い、自国の食料の安定供給を優先させる傾向にあります。
国内外の人口の推移と世界的な食料需要の増加、穀物等の生産量、国際価格の現状を照らし合わせてみると、日本が国内の食料供給を安定化させるためには、国内の食料生産の増大と輸入の安定化、適正な備蓄の確保が重要であることがわかります。
感染症や世界情勢が影響を及ぼす中、日本はどのように対処したか
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)や2022年2月に発生したロシアによるウクライナへの軍事侵攻などによる生産・流通・需要への影響もあります。
日本では新型コロナウイルス下で国内の食料供給全体に大きな問題は生じなかったものの、需要の急激な変化などから、フードサプライチェーン(食品の生産者から、加工業者や卸業者、小売店、消費者へと、食品が届くための一連の流れ)に影響が及びました。
たとえば、学校の休校や外出自粛等の影響で、パスタなどの小麦粉製品の家庭用需要が増加しました。原料供給の不足はありませんでしたが、業務用から家庭用への需要が急激に変化したことで、製品の製造・供給が追いつかなくなり、スーパー等で一部商品が品薄・欠品となる事態が発生しています。
新型コロナ下での輸出国における現地生産の遅延や、コンテナの不足等による輸送の停滞・遅延等に対して、以下のような対応が行われました。
- 通常以上のリードタイムの確保
- 空輸への切り替え
- 調達先の変更
また製造現場、運送現場における衛生管理・感染防止対策の徹底や、東日本大震災を契機に不測時への備えとして、原材料等の調達先の多元化、生産拠点の分散化が実施されています。
世界の食料安全保障対策
2022年は世界各国で干ばつや洪水などの発生により穀物生産に影響が及びました。
中国では8月、中部から南部の長江流域で40度を超える高温・乾燥により、インディカ種(主に長粒)のコメなどの生育に影響が及びました。その後、洪水も発生しています。中国政府は干ばつ被害に対し、8月末に100億元、日本円にして約2,000億円の追加支援策を公表しました。
インドでは3月から4月にかけての高温で、成熟期から収穫期の小麦に影響が及びました。また6月から7月にかけてはインド北東部のガンジス川流域で少雨となり、コメの作付けが遅れました。そのためインドは小麦とコメの減産見通しを受けて、輸入国の食料安全保障に支障がある場合を除いて輸出規制を導入しています。
パキスタンは6月以降の豪雨等により史上最悪ともいわれる洪水が発生し、8月末時点で国土の1/3が被災したとみられています。洪水被害の大きい南部シンド州はパキスタンのコメの4割、小麦の1〜2割を占めており、秋に収穫期を迎えるコメの生産量は下方修正されました。
一方小麦は、9月時点では10月以降に洪水に水が引かなければ来年度の作付けに支障が出るといわれていました。穀物生産シェアが最も大きいパキスタン東部のパンジャブ州では、コメが5割、小麦が8割を占めています。USDA(United States Department of Agriculture、アメリカ合衆国農務省)の9月報告書では、パンジャブ州は今年度分の小麦の収穫がすでに終了し、被災を免れたとみられている、とあります。
しかしパンジャブ州南部を含む広い地域で洪水被害が大きくなっており、2022年10月18日には、トルコ国営通信社であるアナドル通信社が「洪水被害を受けた州では小麦の生産量が50%減少する可能性が高い」と発表しています。
USDAの9月報告書の見通しでは、洪水被害によりコメの生産量が下方修正されたものの、インドの輸出規制による代替需要から輸出量は上方修正されたとあります。小麦においては、来年度の小麦生産量への影響は限定的とも書かれていますが、2010年にはパキスタンが洪水被害に見舞われ、小麦200万トンの輸出を中止する見込みが高まり、世界的に供給不安が高まったことがあります。
日本の食料安全保障を確保するために何が必要か
2022年月日の日本経済新聞「日本の食料安保、大丈夫か 研究者や農業経営者に聞く」には、日本の食料安全保障の確保に関する意見が研究者や農業経営者から寄せられています。4名の意見を簡潔にまとめたものを以下に記載します。
- 水田中心の政策を見直し、輸入に頼る作物を振興すべきである
- 生産性の向上には政策の後押しを必要とするものの、稲作が食料安保に貢献する
- 食料の安定供給には法人経営の存在感を高めることが不可欠だ
- 食料安全保障を念頭に置いた、農業経営の規模拡大に挑むことが重要だ
世界の人口増加に伴い、食料の輸入拡大が予想され、世界で食料の取り合いが激しくなる可能性があります。安定的な食料供給のためには、海外からの安定的な輸入、日本国内の農地を有効に活用する、コメづくりの活性化を促す、使われなかった水田を畑に変え飼料用トウモロコシを生産するなど、さまざまな対策が考えられます。
今後、世界の情勢の変化に応じられるような農業生産がよりいっそう求められるかもしれません。
参考文献
- 食料安全保障について:農林水産省
- 日本と世界の食料安全保障
- 食料安全保障対策の強化について
- 人口推計(2021年(令和 3年)10月 1日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)
- 世界人口は2022年11月15日に80億人に達する見込み(2022年7月11日付 国連経済社会局プレスリリース・日本語訳) | 国連広報センター
- 知ってる?日本の食料事情
- 穀物等の国際価格の動向(ドル/トン)
- 2022年9月食料安全保障月報(第 15 号)
- Pakistan’s flood-hit provinces likely to produce 50% less wheat
- パキスタン、史上最悪レベルの大雨被害(パキスタン) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
- 米小麦先物が2.5%上昇、パキスタン洪水などで供給不安再燃 | Reuters
- 日本の食料安保、大丈夫か 研究者や農業経営者に聞く