農林水産省は「農林水産業の輸出力の強化」を目標に掲げています。農林水産物等の輸出額は、2015年に前年から21.8%増加の7,451億円に達しました。輸出額が伸びを見せているため、日本政府は2019年までに輸出額1兆円規模を目指しています。
そんな輸出力の強化に大きく関わってくるのが新興国の存在です。特に著しい経済発展を見せているアジア諸国に対する輸出が注目されています。
新興国の魅力的な市場について
日本の主な輸出先にアジア諸国が挙げられます。アジアの人口は年々増え続けています。2050年にはアジアの人口が50億人を超えると予想されています。日本国内の人口は減少傾向にありますが、そんな国内の消費縮小をカバーできるだけの市場が目の前に広がっています。
特に注目すべきは健康志向の商品需要です。経済が発展し、暮らしが豊かになることで生じる弊害として肥満、喫煙、有害物質などが挙げられます。これらの弊害は、先進諸国が発展する中で通ってきた道でもありますから、弊害に対応する健康志向商品、サービスの需要の高まりは容易に予測できます。
例えばインドでは食の欧米化や生活様式の変化から「肥満」の増加が問題となっています。インド南部ケララ州では「肥満税」が導入されるほど、社会問題化しています。この「肥満税」はハンバーガーやピザといった欧米の特定ブランド商品に対して14.5%の税を課すものであり「差別的な法律だ」という批判もありますが、一定数の支持は得ています。消費者の健康志向の高まりは、農作物の有機栽培の拡大などにつながっているといいます。
ということは、世界的に注目される「日本食」や「日本製」を掲げた農作物の需要も期待できるのではないでしょうか。
中国への農作物輸出量増加
上記で紹介したように経済発展の著しいアジア諸国への輸出も注目されていますが、昨今もっとも注目されているのは「中国」への輸出です。東日本大震災に伴う原発事故の影響で、中国は日本の農林水産物・食品に対して厳しい輸入規制をかけていますが、それでも多くの農林水産物・食品を日本から輸入しています。また中国政府は、2018年10月26日に輸入規制に対して「科学的評価に基づき緩和することを積極的に考える」と表明しています。
中国による日本のコメの輸入が注目されています。コメの消費量が増加している中国。日本ではコメの消費量が年々減少していますが、中国の消費量は日本の約20倍です。とはいえ中国はコメ生産量が世界一の国でもあります。中国人の消費量を満たす量のコメを自国で生産することが可能なのに、なぜ日本から輸入しているのでしょうか。その理由には「日本産のコメがブランドとして認知されている」ことが挙げられます。日本米を食べた中国人がその美味しさの虜となり、日本のブランド米を選ぶ人が存在すると言われています。凄まじい経済成長を見せる中国では、中国人の生活が豊かになり、消費者の生活に求める質が高くなっていると言われています。そのため食品の味や安全性に対するニーズの高まりから、日本米が注目されているのです。
コメに限らず、アジア諸国では「日本の農産物は安全安心で味がいい」と認識されていると言われています。中国14億人が日本産の農林水産物・食品の虜になれば、輸出額1兆円という目標の達成も大いに期待できるでしょう。
日本の農作物輸出、今後の展望
日本の農林水産物・食品の輸出を拡大するためには「日本産」として商品を輸出することが重要だと考えられています。日本国内と違い、海外の消費者は国ごとや季節ごとの優れた商品を望みます。そのため日本国内で提唱されている地域活性化や地域ブランドの考え方とは別に「日本産」を打ち出すことが重要なのではないかと専門家が指摘しています。「日本産」ブランドを海外に発信するために、海外の消費傾向や好みに合わせた生産が必要と言えますね。
事例として秋田県大潟村の食品会社「大潟村あきたこまち生産者協会」が開発した食品を紹介します。この食品会社は「米粉」を使ったパスタを開発して輸出しました。10年もの長い間米粉の商品開発を進めていましたが、欧米ではダイエット目的で小麦に含まれるグルテンを避けるニーズがあることを知り、グルテンフリーを証明する認証を取得し、米粉パスタをつくりあげました。海外の食文化やニーズへの対応力が輸出増につながった良い例です。
最後に、農林水産物・食品を輸出することの利点を紹介します。人口減少等で消費量が減少している日本国内において、農作物が供給過多になってしまうと値崩れが起こります。しかし日本とは需給が異なる世界に目を向ければ、新たな収益が見込めることでしょう。先で紹介したような、海外の消費傾向や好みに合わせた生産も必要になってきますが、海外に目を向けることで、日本国内で消費が減少しても収益減少を防ぐことはできるでしょう。
参考文献