2023年8月22日に日本農業新聞が公開した記事によると、農林水産省の調査により、全国の田畑を併せた「所有者不明農地」が全耕地面積の24%を占めている、とあります。
所有者不明農地とは「不動産登記簿を確認しても所有者が分からない農地、もしくは所有者が分かっても所在が不明で、連絡も取れない農地」を指します(引用元:所有者不明農地24% 西日本に目立つ 来年4月、相続登記義務化 農水省)。
所有者不明農地の現状
農林水産省によると、相続未登記農地及びそのおそれのある農地は全農地の約2割(93.4万ha)を占める、とあります。その多くは実態上は耕作がなされており、遊休農地となっているのは6%(5.4万ha)にとどまる、ともありますが、所有者が分からない、または所有者は分かっても所在が分からないという状況は、農業の担い手への農地の貸し付けを進める上での障害となるだけでなく、日本政府が進める「農地の集積化・集約化」の妨げとなっています。
なぜ所有不明農地が生じるのか
2017年11月に農林水産省経営局が公開した資料(2016年度に農林水産省が行ったアンケート調査)によると、所有不明農地が生じる要因には相続放棄の他、所有者(親)が亡くなったが、相続登記にお金がかかることから登記を先延ばしにしているといったケースや、親から子へ代替わりしても登記上の所有者は親のままであるといったケースが浮き彫りになりました。
加えて、相続権者の多くが都市部で働くなどして農業に従事していないことも背景としてあげられています。
権利関係をたどれなくなることで起きること
登記せずに数十年が過ぎると、権利関係をたどるのは困難だといわれています。円滑に貸し付けを進めることができなくなることから、せっかく農業の担い手がいても農地の活用が進まないことが問題としてあげられます。
実際、日本農業新聞が2023年8月22日に公開した記事で取り上げられた事例を見ると、借り受けていた田の所有者が亡くなり、所有者の息子が相続を放棄したことをきっかけに未登記が表面化。所有に関係する人の調査や第三者が田を使用することの可否に対する調査が行われている間、田を借りていた農業従事者が作付けできなくなるという事態が発生しています。
また所有者や農地の情報が明確にされていないと、農業委員会が調査する際、所有地の特定に時間をようしたり、改めて確認したところ、一部が公図と違っていたり、農地バンクが扱う「農地としての基準」を満たしていないものが見つかったりと、すぐに活用することが難しくなります。
所有者不明農地への対応
農水省経営局が、相続未登記面積と所有者の生死が確認できない面積を割り出し、集計・分析したところ、所有者不明農地が全国に計102万9101ヘクタールあることが判明しました。
所有者不明農地の問題に対処するため、政府は2024年4月から、宅地を含む全ての土地の相続登記を「義務付」けます。違反すると10万円以下の過料が科されます。
また、2023年4月1日に施行された改正農地中間管理事業推進法等により、所有者不明農地であっても、簡易な手続きで最長40年間借りることが可能になりました。以前の借りられる上限は最大20年だったので、20年の延長となります。一方で、農業委員会による不明所有者の探索後の公示期間は6ヶ月から2ヶ月に短縮されました。
農業従事者の高齢化に伴う、労働力不足や耕作放棄地の増加といった問題を解消する、農地や専業の担い手の集約を進めるためにも、政府は相続登記の義務化に踏み切りました。未来の農業従事者に農地を活用してもらうためにも、今一度、登記情報を明確にしておきたいですね。
所有者不明農地の担い手への貸し付けに至るプロセスは、農林水産省が公開する「新制度の手続フロー図」で確認することができます。
参考文献