体験農園は、体験型農園や農業体験農園、農園利用方式の市民農園など、さまざまな名称や定義がありますが、農業者が利用者に農地を貸すのではなく、農業者の指導のもと利用者が農作業の体験を行う方式の農園を指します。本記事では名称を「体験農園」に統一します。
体験農園は、農業を行う場であり、かつ、地域住民や農業に関わりたい人などが集まる場でもあります。本記事では、体験農園の形態や開設することで得られるメリット、留意点について紹介していきます。
体験農園と市民農園の違い
市民農園は、小面積の農地を利用して自家用の野菜や花を育てる場所を指します。主に地方公共団体が開設主体となることが多く(農協や農家、企業などが開設する場合もあります)、一般的な開設の流れは、開設主体が農地所有者から農地を借りて市民農園を開設する形となります。
利用者に農地を貸す方式がとられることから、関連する法律(特定農地貸付法、市民農園整備促進法、都市農地賃借法)による規制があります。令和5年3月に農林水産省が公開した「令和5年度版 市民農園をはじめよう!」の3ページに紹介されている、開設に必要な手続きの流れを簡略化した図を以下に示します。
体験農園はこのうち「農園利用方式」をとるものを指します。
農業者自らが開設し、利用者は農業者の指導・管理のもとで農作業を体験できます。
体験農園では、農地の所有者が自らの農地で実施すること、すなわち農地の賃借を伴わないことから、農地法等の手続きはありません(ただし、開設者が開設にあたって農地の権利を取得する場合には、農業者が通常、農地の権利を取得するための手続きが必要です)。
体験農園のタイプ
愛知県が公開する資料『農業体験農園開設の手引き~新たな農業経営形態への挑戦~』によると、体験農園は4つのタイプに分けられます。
- 農地を区画に区切り、利用者が植え付けから収穫まで一連の農作業を体験する
- 小面積の農地で、畑ごとに作物を統一して農地利用を行う。利用者は農作業を個別、もしくは共同で行う
- 農地を区切らず、利用者は共同で一連の農作業を体験する。収穫時、収穫範囲を個別に指定する
- 3.と同様に作業、共同で収穫を行い、取れた収穫物を利用者に配分する
1.の方式は、見た目では農地を貸し出す市民農園との違いがありません。そのため市民農園との違い(自作地であること)を明確にするため、年1回は全面を耕起して作物のない期間を作ることが、後述する相続税納税猶予制度上で必須事項となります。
例として、利用者との契約期間を4月から翌1月末までとし、2〜3月に土づくりや次作の準備期間とするといった方法があげられます。
体験農園を開設する利点
開設者は利用者から利用料と収穫物の代金を受け取るため、農業収入を得る方法の1つとなります。
また利用者の指導にあたる必要性は生じますが、作付する作物や作業について指示できることから農作業の平準化・省力化が期待できること、労働力の調整ができることなどもメリットとしてあげられます。
佐藤忠恭『農業体験農園の立地と経営上の意義 – 市街化区域内外の比較分析 – 』(農業経営研究第50巻第3号、2012年)には、過去の研究より、体験農園を導入することで「市場出荷型のキャベツ経営よりも経営全体の労働生産性、土地生産性が向上すること」「生産緑地で開設されている農業体験農園の収益性を分析し、通常の露地野菜作を超える農業所得を確保していること」が書かれています。
体験農地の導入は地域にとっても利点があります。体験農地の開設・運営によって農地の管理が行き届くと、多面的機能を持つ農地の保全や景観の保全につながります。地域住民の交流の場としての役割も果たします。
相続税納税猶予制度に関する利点について
体験農園は相続税納税猶予制度を受けることができます(個別に税務署の判断は必要です)。特定農地貸付方式の市民農園は、農地を利用者に貸し出すことから労力をかけずに農地を管理できるという点ではメリットがありますが、相続税納税猶予の適用は受けられません。
体験農園開設の留意点
作目について
体験農園を開設する際、その立地条件によって利用者の来園頻度が変わることが考えられるため、作目の選び方に工夫が必要です。
たとえば、住宅地にある体験農園など、来園頻度が高くなる場合には、キュウリなどの毎日収穫できる作物を選び、利用者の来園頻度が低いと想定される場合には、収穫時期にまとめて収穫できるイモ類や収穫適期が長い根菜類などを選ぶことが推奨されます。
利用料について
愛知県が公開する資料『農業体験農園開設の手引き~新たな農業経営形態への挑戦~』には入園料の設定について、「区画30㎡の場合で、入園料20千円とすると区画数の多少にかかわらず収益がほとんど発生しないことから、最低限30千円程度の入園料は必要と考えられる」と記載しています。
加えて『農業体験農園の立地と経営上の意義 – 市街化区域内外の比較分析 – 』に記載されている「市街地から離れた立地における農業体験農園の需要は小さいものと思われる」という1文にも注目すると、市街地からの距離と需要の関係から考慮して適正な利用料を設定する必要があることがわかります。
体験農園が市街地から距離がある場合には、遠距離でも通園したいと考える顧客層の分析と、そんな顧客層を呼び込む広告宣伝の工夫が必要になるといえます。
本記事の参考文献には、制度の違いや留意点の詳細、体験農園の事例等が掲載されていますので、開設・運営に興味がある方はぜひ一度目を通してみてください。
参考文献:季刊地域 No. 53 2023年春号(農山漁村文化協会、2023年)
参照サイト