施設園芸の省エネ対策。暖房効率を上げるために確認しておきたいポイントとは。

施設園芸の省エネ対策。暖房効率を上げるために確認しておきたいポイントとは。

施設園芸は、栽培作物の加温に多くのエネルギーを消費するため、経営費全体に占める燃油コストの割合が高いのが特徴です。生産コストの低減、そして温室効果ガスの排出削減を進める上で、省エネ対策は欠かせません。

とはいえ、省エネ対策を図るために、既存より省エネ効率のよい新しい暖房機やその他農業資材に今すぐ買い替えなければならない、というわけではありません。確かに、古くなった機器を買い替えることも省エネ対策の一つではありますが、すでに導入されている暖房機やハウスの状態の点検や掃除、メンテナンスを行うだけでも暖房効率を上げることはできます。

そこで本記事では、農林水産省生産局が平成25(2013)年と平成30(2018)年に作成した施設園芸の省エネ対策についてのマニュアルをもとに、暖房効率を上げるために確実にチェックしておきたいポイントをご紹介していきます。

 

 

施設園芸の保温性を高めるために

施設園芸の省エネ対策。暖房効率を上げるために確認しておきたいポイントとは。|画像1

 

すき間を作らない

ハウスの被覆面にすき間を作らないことが大切です。

すき間を作らず、ハウス内の気密性を高めると、経費をあまりかけずに暖房効率を上げることができます。

まずはハウスの外側、内側ともに破れやすき間がないかをチェックします。チェック項目は以下の通りです。

以下の外張被覆に破れやすき間はないか

  • 出入り口
  • カーテン裾部のフィルム
  • 谷樋の下側や骨組の接合部
  • 巻き上げ換気(すき間が開いて、バタついていないか)

以下の内張被覆に破れやすき間はないか

  • 天井カーテン
  • 仕切りカーテン
  • 二重カーテン
  • カーテンの合わせ目やつなぎ目
  • 天井や肩部の滑車付近

破れやすき間には目張りをしたり、フィルムで覆ったり、留め具で固定したりして対応します。

すき間対策時の注意点

被覆資材には経年劣化があります。被覆資材をできる限り使い回したいのは山々ですが、経年劣化や風や雨の影響によるダメージで資材が破けてしまうと、暖房効率が悪くなるのはもちろんのこと、作物へ悪影響を及ぼす水滴のボタ落ちなどが発生してしまいます。よって、定期的な被覆資材の更新が必要です。

なお、被覆資材の耐用年数は一般的に1〜3年といわれています。ただし、各ビニールフィルムの特性はさまざまです。農業用ビニールの耐久性は1〜3年とされていますが、フィルムの厚みや機能などによって異なります。農業ポリオレフィンは農業用ビニールより耐久性が高いとされ、農業用ビニールと同じ厚みで耐久年数+1年が期待されます。

使用している資材の耐用年数を把握したい場合には、販売元であるメーカーに問い合わせることをおすすめします。

ただし、あくまでも耐用年数は目安です。近年では集中豪雨や大型台風など、自然災害に発展するような気象が目立ちます。外環境の影響やフィルムを張った場所の違いによっても耐久性は変化するものです。傷や破れがないかをこまめにチェックするのはもちろんのこと、場合によっては被覆資材の張り替えを検討することも必要です。

 

 

暖房機のメンテナンス

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暖房効率の低下は、暖房機の経年劣化や故障などのトラブルによっても引き起こされます。長期間、効率よく暖房機を使用するためには定期的な点検・掃除が必要不可欠です。

毎日やりたい

暖房機のダクトにつぶれや破損がないかの確認は毎日行いたいところです。万が一ダクトにつぶれや破損があると、通風量が減少し、温度ムラができたり暖房機が故障したりとトラブルの原因になります。

1ヶ月ごとにやりたい

1ヶ月ごとに行いたいのは、ノズル、オイルストレーナー(燃料中の不純物を取り除く装置)、火災検出器の点検・掃除です。燃焼カスによる汚れや燃料中の不純物によって溜まったゴミ、スス汚れは、完全燃料を妨げ、不着火の原因になるため、1ヶ月ごとを目安に汚れを落とします。

1年ごとにやりたい

1年ごとに行いたいのは、缶体の掃除です。A重油に含まれる不純物は、燃焼後にカスとして缶体内(燃焼室と煙管)に残ります。上記で紹介した汚れと同じく、完全燃焼の妨げとなり、不完全燃焼の原因そして暖房機の熱効率を低下させる原因となります。またこのカスは長期間放置すると缶体の腐食を助長します。

 

 

風をうまく利用する

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最後に、ブロワーや送風ファンを使って保温性を向上させる方法と、ハウス内を効率よく暖めるためにチェックしておきたい循環扇の配置についてご紹介します。

外張りフィルムに一工夫

保温性を高める方法として、被覆資材を多重化・多層化する方法があります。

単純に、屋根部や天井部を2重に固定張りする方法もありますが、この場合には、太陽光が遮られて作物に影響が出てしまうことを避けるために、光線透過性の高い被覆資材を選ぶ必要があります。

そこでおすすめしたいのが屋根面や天井面などの被覆資材を2重に張り、その間にブロワーや送風ファンで空気を送り込み、空気による断熱層を形成する方法です。

空気の熱伝導率はとても小さく、その特性から断熱材として利用されることがあります。

なお、一般的に熱伝導率(単位[W/m・K])は金属が大きく、水や木材、空気は小さいです。たとえば鉄(0℃)は83.5、ガラス(常温)は0.55〜0.75、乾燥木材(18〜25℃)は0.15〜0.25、水(10℃)は0.582、そして空気(0℃)は0.0241です。

もちろん注意点もあります。被覆資材の間に空気を送り込んだ際、その内部に結露が生じてしまうと、光線透過性が低下する原因となります。結露の発生を抑えるためには、水蒸気含量の少ない室外空気を使っての送風がおすすめです。

循環扇の位置に一工夫

循環扇の位置を工夫すると、温度や湿度などのムラが生じにくくなります。

循環扇の向きが全て暖房機に向いていると、暖房機の反対側(循環扇周辺からその後ろ側にかけて、ハウスの奥側)がかえって冷えてしまいます。

循環扇は妻面と対角線上の妻面に、それぞれの妻面から3〜5m離したところに設置することで、循環扇周辺の空気をハウスの中心に送ることができます。

循環扇を設置する数や間隔は、循環扇の気流が次の循環扇まで到達しているかどうかを確認しながら決めていきます。農業誌『現代農業2022年11月号』(農山漁村文化協会、2022年)では、線香やタバコの煙を使い、循環扇を回した時に煙が流れるかどうかによって、適切な間隔や台数を確認しています。

 

参考文献:『現代農業2022年11月号』(農山漁村文化協会、2022年)

参照サイト

  1. 施設園芸 省エネルギー⽣産管理マニュアル
  2. 省エネ型の施設園芸を目指して
  3. ビニールハウスのフィルムの耐用年数・耐久性について
  4. ハウス暖房の“省エネ”に役立つ!「温風ダクト」の役割と効果的な設置方法 | 栽培技術 | 最前線WEB – タキイ種苗
  5. 熱伝導率
  6. 熱伝導率2
  7. 空気は怠け者 性質の理解が「快適暖房」への一歩 – 日本経済新聞

(上記2024年1月9日閲覧)

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