日本におけるイチゴの栽培方法として最も多いのは、地面に畝を立てて栽培する「土耕栽培」ですが、近年作業のしやすさや観光農園に来るお客様がイチゴ狩りをしやすいなどの点から「高設栽培」を採用する農家も増えつつあります。
高設栽培とは
本圃※を腰の高さの位置で作ることで、栽培・収穫をしやすくした栽培方法を指します。
土耕栽培を行うと、元々イチゴは草丈が低いため、株をしっかり育てるために古い葉を取り除く「葉かぎ」や収穫などの作業時、どうしても膝を曲げたり腰を屈める姿勢で行う必要があり、体に負担がかかります。
一方高設栽培であれば、無理な作業姿勢を取る必要なく、葉かぎや収穫作業を行うことができます。
※苗床などのように、栽培のある期間だけでなく、その栽培を完了するまで引き続き使用する圃地を本圃といい、苗床から別の苗床に植え替えることを移植、苗床から本圃へ植え付けることを定植という。(出典元:ほ|農業・園芸用語集|タキイ種苗株式会社)
高設栽培のメリット・デメリット
先述した土耕栽培と高設栽培の違いから分かる通り、「作業がしやすい」ことは高設栽培のメリットです。
また高設栽培は植物の成長に必要な栄養や水分を液肥として与える「養液栽培」が一般的であり、イチゴの生育に最適な環境整備がしやすいというメリットもあります。観光農園であれば、イチゴ狩りに来たお客さんにもメリットがあります。
高設栽培のデメリットとしてよく挙げられているのが「収量が落ちること」です。高設栽培を実践する農業従事者や農業試験場、普及指導センターの間では、「高設栽培は土耕栽培と比べて培地の温度が低くなるため、収量が減る」と考えられています。
しかしこのデメリットには、栽培する品種がどのくらいの低温に耐えられるか、その根域温度を知ることや培地を温める「温湯ボイラー」を活用するといった解決策があります。
また養液栽培を行う際、ハウス内に取り付けたセンサーから
- ハウス内の日射量
- 温度
- 湿度
- 二酸化炭素濃度のデータ
- 水や栄養分の供給量、排出量
などのデータを集め、それらをもとにイチゴの生育に最適な環境を整えば、収量減少を防ぐことができるでしょう。これらの環境データをこまめに確認し、温度が低ければ暖房機を使ったり、日射量が足りなかったらカーテンを開閉したり、イチゴの生育に最適な環境を整備していきます。
生育に最適な環境を整備するために「環境整備機器の状態を毎日欠かさずチェックする」必要があるため、このことがデメリットに感じられる人もいるかもしれません。しかしその問題は、機器の異常を検知してスマートフォンなどに知らせてくれる機能やアプリを活用することで解決できるはずです。
なお、愛媛県のパクチー農家である黒田高志氏の記事で、元々イチゴ栽培が行われていたハウスをそのまま借り受け、パクチーを高設栽培で育てているが、パートの方々からは「しゃがむ必要がない」と評判がいい、とありました。農作業の機械化・自動化が進んでいる昨今、体に負担がかかるような姿勢で育てる栽培方法は、徐々に減っていくのかもしれませんね。
参考文献