地球温暖化が植物に与える影響には、
- 植物の生長速度に影響する
- 高温障害が起こる
- 周辺環境への影響(高温で生態系が変化し、病害虫や雑草などのリスクにも変化が生じる)
などが挙げられます。栽培面において温暖化がデメリットになることはよく知られていますが、流通や販売面においてもデメリットが生じます。
温暖化による流通・販売面におけるデメリット
流通・販売面におけるデメリットには、消費者の目に「温暖化の影響を受けた農作物=品質が悪いもの」として映ることがある、という点です。
わかりやすい例として、果実への影響が挙げられます。
温暖化により果実は日焼けや着色不良を起こします。果実が熟していれば、果実表面の色が均一でなかったり、薄かったりしたとしてもおいしく食べられるものです。しかし日照不足などが原因で着色不良を起こすと味も落ちるため、「色が薄い=おいしくない」という認識があると「着色不良=おいしくない」と敬遠されてしまいます。「色が均一で整った形=良い果実」という固定観念も同様の事態を起こします。
「贈答用」の市場においては、味だけでなく見た目も重要なため、温暖化による着色不良が起きてしまうと出荷できなくなってしまいます。
ミカンは成熟が進んでから高温多雨の時期が進むと、果皮と果肉が分離する浮皮症が起こります。消費者からすれば、皮が剥きやすく食べやすいミカンは魅力的に感じられるかもしれません。しかし産地から消費地まで運ばれる際、浮皮症のミカン同士がコンテナの中で擦れあうと、皮が傷つき、そこからカビが侵入し、腐敗果が発生してしまいます。腐敗果の発生リスクを考えると、市場で好ましい品質とは言えません。
またコメも影響を受けます。温暖化の影響で「白未熟粒(コメが白濁する)」や「胴割れ米(コメ粒に亀裂が入る)」が多く発生すると、コメの等級が落ちてしまうなど、コメの品質を大きく左右することになります。
流通・販売面でできる温暖化対策はあるのか?
流通・販売面での温暖化対策の一つとして、先で紹介した果実の事例にあるような消費者の認識や固定観念を崩すことが挙げられます。
近年、市場に出回る形や大きさから外れた「規格外品」への消費者の認識は変わりつつあるように思えます。規格外品は安価ではありますが、消費者に「味に変わりはない」という認識をもたらしています。
そんな規格外品のように「温暖化による影響で、日焼けや着色不良を起こした果実は味に影響はない」と伝えられれば、認識や固定観念を崩すことができるかもしれません。しかしこの対応策は、直売やイベントなどに参加し、自身が消費者に説明することでしか叶えられないというデメリットもあります。
となると、やはり「高温障害を起こさないよう対策する」がベスト。また各研究機関では、高温障害の発生を防ぐ栽培技術や品種の開発が進められており、開発されたそれらを活用することも効果的といえます。
日焼けや着色不良の防止には、被覆資材を利用した日焼け防止対策や着色に優れた品種等の栽培などが挙げられます。
ブドウの場合、着色期に高温にさらされるとアントシアニン合成が抑制され着色不良になるのですが、
- 環状はく皮処理(枝や主幹の樹皮部分を幅数mm〜1cmほどに環状にはぎ取る栽培技術)
- アブシジン酸(植物生長調整剤)処理
- 適正着果 など
により着色向上をはかることができます。
味に影響はないけれど、流通する際に難が生じるミカンの浮皮症には、
- 房状着果等、摘果法の改善による大玉の抑制
- 植物生長調整剤を利用した被害の軽減
- 浮き皮が発生しにくい品種の栽培 など
が対応策として挙げられます。
コメの場合、白未熟粒は登熟期間の高温で発生するため、それを避けるために遅植えや直播栽培で登熟期間を遅らせたり、高温でも白未熟粒が少ない品種を栽培することが挙げられます。過剰な籾数や栄養状態の悪化等も白未熟粒の発生につながるため、元肥や追肥の量や移植密度を調節することも重要です。
胴割れ米は登熟初期の高温で多く発生するため、こちらも遅植えが対応策として挙げられます。
参考文献
- 『農業ビジネス ベジ 2019 vol.25 春号』,2019年5月30日,イカロス出版
- 地球温暖化で変わる日本の農業
- 地球温暖化が農林水産業に与える影響と対策 農林水産技術会議