2023年8月24日、中国は、東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水(放射性物質を国の規制基準以下まで浄化処理した水)の海洋放出による食品への放射線汚染リスクを防ぐことを理由に、原産地を日本とする水産物の輸入を全面的に停止すると発表しました。
日本にとって中国は世界1位の農林水産物・食品の輸出相手国です。2022年の輸出額は前年と比べて25.1%増の2,782億円で、全体の20.8%を占めています。
そんな中国による水産物の輸入停止措置は、日本の輸出に大きな影響を与えるものとして話題となりました。
上記の報道は水産物についてではありますが、本記事では、日本の農産物輸出入に大きく関わる中国の農産物輸出入の近況をまとめます。
中国の需給動向
主要穀物について
農林水産省が2015年に公開した「主要国の農業情報調査分析報告書」によると、中国は主要穀物(米、麦、トウモロコシ、大豆)の中でも、米、麦、トウモロコシは、ほぼ自給を達成しています。
ただし、トウモロコシは飼料としての用途が増加していることから国内生産量が追いつかない状況にあること、大豆は他品目と比べて自給率が低く、2015年には国内需要の9割弱を輸入している、ともあります。
直近(〜2023年)の主要穀物(米、小麦、トウモロコシ)の生産状況は以下の通りです。
(単位:万トン)
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
米 |
21,109 |
21,268 | 21,213 | 20,961 |
21,186 |
小麦 |
13,327 |
13,424 | 13,144 | 13,360 |
13,425 |
トウモロコシ |
26,361 |
25,907 | 25,717 | 26,078 |
26,067 |
資料:FAO統計
トウモロコシにおいては、2015年の資料で記されていた通り、飼料向けの用途が増加しています。2022年の飼料向けの消費量は1億8,500万トン(前年比2.7%増)とわずかに増加しており、これは2022年5月から繁殖雌豚飼養頭数が増加したことに伴い、国内の飼料生産量が過去最高になったことに由来します。
加えて、工業向け、食品向け、種子向けともにわずかに増加しています。ただし、中国農業農村部が発表した「中国農業展望報告(2023-2032)」によると、消費量の拡大は維持されるものの、生産量の増加ほどの勢いはなく、輸入量は減少することが見込まれています。
生産量が増加するという予測は、今後10年間の作付面積の増加のみならず、育種技術の進化などで単収の大幅な増加が見込まれることに由来します。
消費量の拡大は、現在も続く旺盛な食肉需要が背景にあります。畜産部門の成長や経済成長による需要拡大に由来した消費量の継続的な拡大が期待されています。また食品向けの消費量増加については、健康意識の高まりからトウモロコシの豊富な食物繊維が注目を集めていることがあげられます。
消費量拡大の勢いに反して、輸入量が減少に転じることが予測される背景には、主要輸入先であるアメリカのトウモロコシの価格上昇や、ブラジル産トウモロコシをめぐるEUとの輸入競合があります。
野菜について
2021年は自然災害の影響で、一時期野菜の生産に悪影響が及びましたが、中国は野菜に関しても高い供給力を確保しています。
中国農業農村部が2022年4月に発表した「中国農業展望報告(2022-2031)」によると、中国における野菜の生産量は安定しています。現在の野菜の平均単収(1ヘクタールあたり33〜34.5トン)と国民1人あたりの生産量が500kg以上となっていることから、国民が野菜の供給量を懸念することはない、としています。
そして今後は、生産規模の拡大ではなく、品質や安全性の向上、経済的利益の向上が見込まれます。
近年中国では、品質管理の強化や生産技術の標準化を推進するなど、野菜の品質および安全性の向上を図っています。このことは、中国からの輸出動向にも影響すると考えられます。
なお、野菜の輸出大国である中国の主な輸出先国は日本、韓国、アメリカ、ASEAN、EUなどです。
中国の主な輸出品目であるニンニク(乾燥品および加工品含む)は、2021年時点では野菜輸出総額の19.4%を占めています。中国産ニンニクは国際市場からの関心が高まっています。その背景には、2020年以降、主要生産国の生産状況が厳しいことがあげられますが、今後は中国産ニンニクの高い品質にも注目が集まることが予想されます。
中国の輸入動向とウクライナ情勢による影響
主要穀物や野菜においてほぼ自給を達成している中国ですが、トウモロコシの輸入においては、ロシアによるウクライナ侵攻による影響が及んでいます。
中国の輸入トウモロコシは輸入量・金額ともにウクライナが約8割を占めています。ウクライナが主要輸入先となった背景には、輸入先のリスク分散などを目的としている他、アメリカの遺伝子組み換えトウモロコシの輸入の一時的な禁止があげられます。
なお、2023年7月18日から19日にかけて、ロシア軍がウクライナ南部オデッサ州の港湾施設を攻撃したことにより、ウクライナ政府は6万トンの農作物が被害を受けたことを発表しました。中国向けの農作物が保管されていたこともあり、ロイター通信によると、同月20日、中国商務省はウクライナからの輸入拡大と貿易協力強化の用意を表明しました。
先述した通り、中国は主要穀物や野菜においてほぼ自給が達成していることから、中国のウクライナとの貿易額を見てみると、2021年においては中国の貿易総額の0.3%ほどです。しかし日本貿易振興機構(ジェトロ)が2022年6月3日に公開した記事によると、中国がまとめた「対外投資合作国(地域)別指南ウクライナ(2020年版)」で、54社の中国企業がウクライナに進出していること、エネルギーや農業分野におけるウクライナへの投資が目立つことが記されています。
中国政府の報告では、中国はロシア・ウクライナ両国と通常の経済関係を維持していく姿勢を示しています。ロシアによるウクライナ侵攻の影響は中国の貿易面にも出ていますが、中国とロシア・ウクライナ両国との今後の経済関係、今後の輸出入動向は、引き続き気になるところです。
参考文献