COP27で気候変動の影響を軽減するため、農業分野に焦点が当たる

COP27で気候変動の影響を軽減するため、農業分野に焦点が当たる

2022年11月6日から11月20日まで、エジプト(シャルム・エル・シェイク)にて「国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)」が開催されました。

COP27の議題には、農業分野に関連する内容もあります。

 

 

農業と食糧生産に焦点当たる

COP27で気候変動の影響を軽減するため、農業分野に焦点が当たる|画像1

 

200カ国の代表が参加した2022年の気候変動交渉では、農業に焦点を当てた計画やイニシアチブ(発案)が盛り込まれました。農業に基づく計画では、農業部門が温室効果ガス排出に与える影響を軽減すること、気候変動に直面しながらも食糧を生産する農家を支援することを目的としています。

「持続的変革のための食料・農業イニシアチブ(FAST)」

国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations、FAO)は、11月12日に「持続的変革のための食料・農業イニシアチブ(Food and Agriculture for Sustainable Transformation Initiative、FAST)」を公表しました。

「農業食糧システムが気候変動に適応し、より持続可能になるためには、この部門への気候資金拠出の質と量を改善することが重要である」

これはFAST発足の主要なメッセージとして掲げられたものです。

世界では最も脆弱な地域の飢餓と栄養不足のリスクが深刻化し、世界の農業食糧システムにおいては気候変動や異常気象の影響をますます受けやすくなっています。また農業食糧システムは気候危機、生態系の劣化、生物多様性の喪失に影響します。そんな農業食糧システムをより持続可能で、回復力があり、生産性の高いものに変えるために必要な資金は極めて不十分な状態にあります。

FASTは上記問題を解決することを目的としています。FASTは、食料と経済の安全保障を維持しながら2030年までに農業と食料システムの変革を目指すこと、そして世界の気温上昇を1.5度までに抑える目標を達成するため、農業分野における温室効果ガス排出量の削減を目標としています。

FASTの初期指針(一部抜粋)を以下に記します。

  • 食料安全保障の側面と農業食料システムの多様性が活動に反映されるようにすること。
  • 女性や若者、先住民といった脆弱な立場にある人々の力を引き出し、活動に引き込む。
  • 地元の知識や慣習を含め、利用可能な最良の科学とイノベーションが考慮されるようにする。
  • 政府だけでなく、科学、金融、市民社会のパートナーを含む、幅広くバランスのとれた関係者の関与を確保すること。
  • 加盟国の関心、優先順位、ニーズに応じた柔軟な関与を確保すること。

FAOが2022年12月11日に公開した記事の中で、FAOのマリア・ヘレナ・セメド副事務局長は過去10年間で気候変動資金全体は増加傾向にあるものの、農業・食糧に割り当てられる割合は減少していることを指摘しています。同氏は、

  • 農業生産性向上への投資の促進すること
  • 各国が気候変動資金にアクセスできる支援を行うこと
  • 適切な財源を中小規模の食糧生産者に届けること

を可能とするための大胆な変革を求めています。

「気候変動に対応した農業イノベーションミッション(AIM for Climate)」

COP27で気候変動の影響を軽減するため、農業分野に焦点が当たる|画像2

 

COP27に参加した国のうち、42カ国の政府は、農家の排出量削減と気候変動への適応を支援するため、昨年の倍となる80億ドル(約 約1兆925億円)の拠出を約束しました。

80億ドル規模のイニシアティブは「Agriculture Innovation Mission for Climate(AIM for Climate)」と呼ばれ、日本語では「気候変動に対応した農業イノベーションミッション」と訳されます。

これはもともと、アメリカ合衆国(以下、アメリカ)とアラブ首長国連邦が1年前に共同で立ち上げた目標です。2021年から2025年の間で農業分野における気候変動対策や、人工知能、ナノテクノロジー、ロボットなどの農業技術を強化し、気候変動の深刻な影響に対処することを目的としています。2021年4月に行われたアメリカ主催の気候サミットでこの2国が発表して以来、支援国の数は3倍以上に増えています。

この資金のうち10億ドルは、発展途上地域の小規模農家に割り当てられ、小規模農家の農業技術の利用促進が期待されます。

しかしInternational Coalition on Climate and Agriculture(ICAA、気候や農業に関する国際連合)などの一部の擁護団体は、この誓約が「偽りの解決」と「注意散漫」を促進すると述べています。ICAAの共同設立者であるアンドリュー・キンブレル氏はニュースリリースで「アグリテックとそれが促進する産業用アグリビジネスモデルは気候危機の解決策ではなく、むしろ気候危機問題の重要な部分を占めている」と述べました。同氏は「世界中の農家はすでに革新的な環境保全型農業を実践している」「人と自然に害を与えるような偽の解決法を作るために、化学企業に何百万ドルも与えるのではなく、環境保全型農業の実践をスケールアップし共有すべきだ」とも述べています。

近年、耳にする機会が多くなったSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)と同じく、COP27で取り上げられた農業分野に関する話題も、さまざまな課題に対して包括的に解決することが求められています。

本記事で紹介したFASTとAIM for Climateでは、農業技術で温室効果ガスの排出量削減に取り組むことへの課題だけでなく、その技術を広めるために必要な資金の問題が浮き彫りになっています。世界全体の課題である気候危機対策がどう動くか、来年以降の会議にも注目です。

 

参考文献

  1. 「国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)」等の結果(農林水産省関係)について
  2. 国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27) 結果概要|外務省
  3. 農林水産省関連の議論及び関連イベント
  4. COP27でFAOが農業・食料分野におけるイニシアチブを公表(エジプト) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
  5. COP27: Increasing climate finance crucial to bring about sustainable transformation of agrifood systems
  6. Food and Agriculture for Sustainable Transformation Initiative – FAST
  7. 国連食料システムサミットが開催、米国農務省の取組と畜産業界の反応(米国)
  8. As COP27 Comes to a Close, Agriculture Initiatives Are Top Priority – Modern Farmer
  9. International Coalition Says U.S.-led AIM for Climate Project Promotes False Solutions and Distractions

コラムカテゴリの最新記事