国内の代表的な種苗会社の一つ、タキイ種苗株式会社は、毎年「野菜」に関する調査を実施しています。
そこで本記事では、その調査結果より、2019年末から世間を騒がせている新型コロナウイルスが、消費者の野菜へのイメージや意識にどのような影響を及ぼしているのかをまとめました。
2020年の調査から分かる消費者の意識の変化
野菜加工品の需要に注目
「やさいの日」(8月31日)に実施された「2020年度 野菜と家庭菜園に関する調査」では、農業や食料類の卸売・小売業に関連して「いない」男女600人を対象にしているため、消費者目線に近い「野菜」にまつわるイメージを知ることができます。
注目すべきは「野菜の摂取」に関する調査結果。
この調査結果では回答者の約9割が野菜の摂取を重視しているとあります。しかし、野菜を十分に食べているかどうかに関する回答では、3割の人が「かなり不足」「やや不足」と回答しており、野菜の摂取を重視しつつも実際には十分に食べれていないことがわかります。
なお野菜を取れていない理由には
- 量をたくさん食べられない
- 野菜を使った料理を食べる機会が少ない
- 値段が高い
- 野菜をたくさん食べられる料理方法がわからない
- どんな野菜を食べたらよいかわからない
などが挙げられています。
とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために行われた「外出自粛期間」や「新しい生活様式」の中で食生活の変化を感じた人は少なくありません。8割以上の人が
- 外食頻度が減った
- 調理頻度が増えた
- 生鮮食品を買う量が増えた
- 栄養に気をつかうようになった
と答えています。
そして「栄養に気をつかうようになった」人や「野菜を多く使うようになった」人の野菜加工品(カット野菜や冷凍野菜など)の利用頻度が高まっていることにも注目です。食生活の変化の有無にかかわらず、回答者の3割以上が週1回以上、野菜加工品を活用していますが、「栄養に気をつかうようになった」人などは、そうでない人に比べて野菜加工品の利用頻度が高かった、とあります。
なお、年末に実施された「2020年度 野菜の総括」にも「カット野菜」に関する調査項目があります。カット野菜の購入経験に関する調査では、購入経験が「ある」という回答が8割以上という結果に。さらに20〜30代の若い世代は、男女とわず9割以上が「ある」と回答しています。
消費者の野菜加工品の利用頻度の高まりから、「業務用野菜の生産」に目を向けるのもいいのではないでしょうか。業務用野菜は、安く安定的に供給される輸入野菜が幅を利かせているのが現状ですが、農林水産省の「加工・業務用野菜をめぐる状況」(令和元年12月)によると、5割以上の小売業者や外食、中食等のバイヤーから「国産を利用したい」という声があがっているとあります。業務用野菜にはまだまだビジネスチャンスがあるのかもしれません。
野菜購入時に重視するポイントにも注目
野菜を食べる、購入する際に重視するポイントにも注目です。
- 新鮮であること
- 価格の安さ
- 味のおいしさ
- 安全性・信頼性の高さ
- 栄養があること
- 国産であること
- 料理のしやすさ
- 食べやすさ
- 産地がわかること
- 自身や家族の好み
男女ともに、若い世代(20〜30代)は「価格の安さ」を重視する傾向にありますが、年齢が上がるにつれて「安全性・信頼性の高さ」の割合が高まっています。
近年、農作物の流通ルートは広がりを見せています。そのため、農作物の生産に力を注ぐ農業従事者もいれば、積極的なマーケティング活動を行う人や、アプリ等を活用して消費者と直接やりとりしている人も少なくありません。戦略的に販売していきたい人にとって、これらの回答は顧客ターゲット層を絞って野菜を生産、加工、販売していくのに役立つはずです。
さまざまな購入方法が登場→広がる販路に対応できるかがカギ!?
年末に行われた「2020年度 野菜の総括」では野菜の「購入方法」に注目しました。
「新しい生活様式」を実施する中で、回答者の約半数が「非接触」で野菜を購入したことがあると回答しています。「非接触」での具体的な購入先と消費者から見たそれぞれの利点をまとめたものを以下に記載します。
購入先 |
利点 |
無人直売所 | ・収穫してすぐの新鮮な野菜が購入できる
・お得に購入できる など |
スーパーなどの宅配サービス | ・外出せずに済む
・一度にたくさん購入できる など |
農家直送品 | ・生産者の顔が分かる
・生産者を支援できる など |
個人直売所の運営は、販売機会と収益を増やす方法の一つです。出荷団体や卸売市場を介した流通ルートとはまた違った販路が広がります。農作物を販売する上で、鮮度のよい農作物の生産は基本中の基本ですが、直売所の場合は、消費者から見た利点に応えた生産を心がけたり、消費者の目に届くように看板やディスプレイなどの販売方法にも工夫を凝らすことで、消費者からの反応や売上に変化が生じます。
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また2021年5月13日にテレビ番組『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)で産地直送ネット通販サイト『食べチョク』が紹介され、コロナ禍でサービスの利用者が急増したことも紹介されていました。「非接触」の購入方法として注目されたこともあるかもしれませんが、上記で紹介した利点にある“生産者を支援できる”にも注目すべきです。1981年〜1995年生まれの人を指すミレニアル世代など、若い世代はモノ消費ではなくコト消費を求めるなどの特徴が挙げられていますが、農家直送品はまさに、そのような思考に刺さる購入方法だと考えます。消費者と直接やりとりできる販売方法ならではのマーケティングの工夫が必要にはなりますが、新たに広がった販路の一つとして目を向けてみてはいかがでしょうか。
参考文献