近年、サステナブルやSDGs(持続可能な開発目標)といった言葉をよく目にするようになりました。どの分野の業界においても持続可能性のある取り組みが積極的に行われるようになりましたが、本記事で着目するのは「本来廃棄されるはずだった」ものを活用する取り組みです。
日本はアメリカ、ブラジル、ドイツに次いで世界第4位のコーヒー消費大国です。日本のコーヒーの消費は、2011年には421千トンでしたが2016年にかけて右肩上がりに増加し、2016年の時点では473千トン。その後は減少と増加を繰り返しつつ、2019年には453千トンとなりました。また近年では、まだまだ数は少ないものの日本国内でも栽培が行われています。
そんな人気の高いコーヒーですが、コーヒーを淹れるときには必ずコーヒー粕が生じます。コーヒー粕は有機性廃棄物として処分されます。が、本来廃棄されるはずのコーヒー粕はさまざまな用途で農業に利用されているんです。
コーヒー粕の農業利用
コーヒー粕は有機性廃棄物ですが、含水率が65%以上と高いため、焼却処分に適さないという短所があります。しかし特徴的な構造や含有物質などが農業分野で活かされています。
消臭効果
コーヒー粕の粒子は多孔質です。炭なども多孔質の形態をしていますが、多孔質は通気性をよくし、水分を吸着します。炭はその消臭効果がよく知られていますが、コーヒー粕もまた消臭に役立つのです。またコーヒー粕がもつフェノール基がアンモニアの吸着効果にも優れているため、乾燥させたコーヒー粕は水分や臭い物質を取り込みます。
そのため堆肥を作る際、他の資材とともにコーヒー粕を混ぜると、コーヒー粕が他の資材の水分や臭い物質を取り込み、悪臭を減らすことができます。畜産の場合、畜舎の敷料や家畜糞と混ぜることで、消臭効果が得られます。
雑草抑制
コーヒー粕に含まれるフェノール性物質には植物の生育を阻害する作用があります。生のコーヒー粕を用意し、作物が発芽した後、有機物マルチをします。有機物マルチは生育中の作物の根を守るため、有機物を使って土の表面を覆うことを意味します。コーヒー粕で覆うことで雑草の生育を抑えることができます。
土壌消毒
農研機構はコーヒー粕を利用した土壌消毒技術を開発しています。ただしこの土壌消毒はコーヒー粕単体で行われるものではありません。
土壌病害の一つであるトマトの青枯病を抑制する目的で開発されたもので、コーヒー粕と鉄塩(塩化鉄、硫酸鉄など)から製造した殺菌用資材「ポリフェノール鉄錯体」と、根腐れを軽減するための資材などとして用いられている「過酸化カルシウム」を反応させることで生じる「ヒドロキシルラジカル(活性酸素の一種)」の強い酸化力を利用したものです。
他の食品廃棄物の堆肥化の副資材となる
コーヒー粕は、その一部が廃棄処分されているオカラの堆肥化にも役立ちます。
豆腐を作る際に生じるオカラは飼料として活用されているものの、全量が消費されているわけではないため堆肥として活用する道が見出されました。しかしオカラには、窒素成分は豊富ですが、分解時に水分や悪臭が発生しやすいという難点があります。神奈川県農業総合研究所の研究報告には、コーヒー粕を副資材として活用することで、オカラが良好な堆肥となることが明らかにされています。
コーヒー粕活用の注意点
魅力的な事例が多々ありましたが、コーヒー粕をそのまま施用しないでください。
先にも紹介しましたが、コーヒー粕は植物の生育や発芽を阻害する物質が含まれているため、使い方を間違えると農作物の生育を阻害してしまうことも。またコーヒー粕をそのまま施用すると、土壌中の窒素成分が減少し、植物が窒素飢餓の状態になる現象が起こると言われています。
コーヒー粕はあくまでも副資材として扱ってください。
参考文献
- 統計資料|全日本コーヒー協会
- コーヒーの国産栽培。日本国内でもコーヒーが作られているって知ってますか?|BROOK’S OFFICIAL BLOG(略してBOB)
- 国産コーヒーの大規模栽培、沖縄で展開へ 名護市に1万杯分の苗植え、来年は40万杯分を計画/沖縄SV・ネスレ日本|食品産業新聞社ニュースWEB
- コーヒー粕_現代農業用語集
- コーヒー粕の農業利用 – 神奈川県ホームページ
- 未利用資源の農業利用に関する研究(3)-おから・コーヒー粕混合による堆肥製造-神奈川県農業総合研究所研究報告137号p.43-50(1996-12)
- (研究成果)コーヒー粕で土壌消毒|農研機構