2022年夏は世界中で記録的な猛暑が続き、世界各地で気候変動による自然災害が起きました。さまざまな自然災害が発生する中、中国の内陸部では猛暑と小雨に見舞われたことで大幅な水不足が懸念され、干ばつ緊急事態が宣言されました。
日本は雨の多い国ではありますが、今後温暖化が進み、雨が降らない時期が増えれば、日本国内でも干ばつが発生する可能性はあります。2021年には北海道で小雨と高温により、農作物が影響を受けました。
本記事では、農作物の生育に大きな影響を与える干ばつに備えた対策を紹介していきます。
干ばつの軽減が期待される人工降雨
世界が記録的な高温と干ばつに直面する中で、注目されているのが「クラウド・シーティング(Cloud Seeding)」です。直訳すると「雲の種まき」となり、人工的に雨を降らせることを指します。以下、人工降雨と記します。
人工降雨は雲の中の水分を刺激し、降水量を増加させるもので、粒子やガス、化学物質を既存の雲に注入することで行われます。注入する方法はさまざまですが、よく行われている方法には、飛行機の翼に取り付けられたロケットや照明弾が何兆個もの微粒子の塩を爆発させて雲を作るものが挙げられます。水の分子が塩に引き寄せられ、塩の粒子に結合して雨粒に成長します。
人工降雨は、冬の降雪量を増やして山の積雪量を増やし、周辺地域が利用できる天然水の供給を補う方法として、世界中で利用されています。たとえばアメリカネバダ州などの山々を対象とした長期的な研究では、対象地域の積雪量が全体として年間10%以上増加することが示されています(参考文献5)。
降雪量、積雪量が増加、ひいては降水量が増加したという世界各地からの研究報告は、干ばつ対策として有望な選択肢の1つとなる、といえます。
なお市場調査を行うKenneth Researchは、2021年3月23日に人工降雨装置市場の予測評価を提供する調査レポートを発刊し、世界の人工降雨装置市場は2018年に1億5400万ドル(日本円にして229億円)で、2027年末には2億8800万ドル(340億円)に達すると予想しています。
アメリカや日本を含む多くの国で人工降雨の取り組みが行われていますが、中でも中国は、2025年までに国土の半分で人工降雨や降雪を可能にすることを目指すと発表しています。
2022年8月18日に公開したCNNの記事によると、中国は小雨と高温の影響で縮小した中国最大の川である揚子江を補うために人工降雨装置を稼働しました。しかし揚子江周辺の一部地域では上空の雲が少なく、取り組みが滞っている場所もあったとされています。
人工降雨が干ばつを解消するのはもう少し先?
積雪量、降水量を増加させた結果も報告されている人工降雨の技術は大きな進歩を遂げているものの、まだまだニッチな産業であり、干ばつの奇跡的な解決策にはなっていない、という声もあがっています。
経済、金融情報を配信するメディア「ブルームバーグ」が2022年9月10日に公開したオピニオン記事は、雨を降らせるため雲に微粒子や化学薬品を注入するプロセスは決して即効性のある解決策ではない、と述べています。
また記事内の、人工降雨の研究を指導した国立大気研究センターのダン・ブリード氏のコメントには「微粒子や化学薬品を注入すれば降水量が増やせるということに異論はないが、どの程度注入すべきか、雲の中に適切な条件があるか、必要なときにその雲が存在するかが問題だ」と述べています。先で紹介した中国の事例でも、雲が薄い地域では取り組みが滞っていました。
加えて、ニッチな産業ゆえ、追加の降水量を生み出すための費用が、それがもたらす経済的利益よりも高くなることも懸念されます。
あらゆる最新研究において問われる課題でもありますが、人工降雨に長期間さらされた場合の人工降雨に用いられる化学物質による人体、植物生態系、動物の生息地などへの影響についてはまだわかっていません。
とはいえ、干ばつに見舞われた地域にとって、雨を降らせるという技術は農業や経済的な損失の軽減に役立つといえます。この先も人工降雨の研究に注目です。
参考文献
- 温暖化で日本も干ばつや渇水が増える?暮らしの備えを確認しよう
- China declares first ever drought emergency amid intense heatwave | Euronews
- Is human made rain the way to help the increasing droughts?
- China is massively expanding its weather-modification program, saying it will be able to cover half the country in artificial rain and snow by 2025
- What is Cloud Seeding? – DRI
- Global Cloud Seeding Market Demand Analysis & Opportunity Evaluation, 2019-2027
- China is seeding clouds to replenish its shrinking Yangtze River | CNN
- Yes, We Can Make It Rain. But It Won’t Solve Drought.
- 17 Advantages and Disadvantages of Cloud Seeding | FutureofWorking.com