近年、環境に負荷をかけない「循環型農業」に注目が集まっています。
自然に近い形で農業生産を行う循環型農業には「畜産動物の糞尿を発酵させて堆肥にし、それを畑に活用する」「育った作物は飼料として畜産動物に供給する」という方法があるのですが、畜産動物の中でも「ニワトリ」は牛や豚などの大型家畜より扱いやすいため、小規模農家におすすめです。
ニワトリは
- 小資金で始めやすい
- 減農薬に役立つ(雑草や害虫を食べてくれる、鶏糞が肥料になるなど)
- 卵や肉が商品となる
というメリットがありますが、同時に
- ニワトリを狙う野生動物による獣害
- 畑に慣れたニワトリによる獣害(畝を崩してしまう、畑を掘り返してしまうなど)
というデメリットも挙げられます。
そんな中、メリットを生かしたままデメリットを解消するものを見つけました。それが「チキントラクター」です。
チキントラクター
チキントラクターとは「移動式の鶏小屋」です。
規模はさまざまで、立派な鶏小屋に車輪が付いているものもあれば、車輪がない簡易的なものもあります。
ニワトリはチキントラクターの中で地面に生えている草を食べます。チキントラクターを少しずつ移動させれば、ニワトリが移動した先に生えている草を食べるため、エネルギー要らずの草刈りトラクターになるわけです。
メリット①野生動物からニワトリを守る
鶏小屋の中にニワトリを匿うことができるので、野生動物から守ることができます(もちろん野生動物から守るために、ある程度頑丈なつくりにする必要はありますが)。
メリット②ニワトリの行動を制限することができる
ニワトリは雑草や植物に害を与える昆虫を食べてくれます。土をくちばしや足で掘り返すことで土壌改良にも役立ちますし、鶏糞は肥料に活用することができます。
ただ、畑に慣れてくると、雑草や害虫など、農家がニワトリに食べてほしいと思っているものに意識が働かなくなったり、生産物や畑を掘り返すことがあるようです。
チキントラクターがあれば、ニワトリの行動を制限できるため、ニワトリに食べてほしい場所にニワトリを移動することができます。他の場所で悪さをしてしまう心配が減ります。
チキントラクターは自作できる!
チキントラクターの中には、鶏小屋に車輪をつけた頑丈なタイプもあります。
そのようなタイプは、ニワトリが自由に歩きまわれる1階と睡眠をとったり卵を産んだりするのに適した巣箱のある2階が一体になっていることが多いのですが、ニワトリが暮らしやすい密度「1畳(90cm×180cm)に2〜3羽」を十分に保ったチキントラクターは重量があり、扱いにくいことがあります。
ニワトリの数が少ないのであれば、木材と金網で作る三角形の簡易的なチキントラクターを自作するのがおすすめです。
用意するのは
- 木材(荒材や端材でもOK)
- 金網
- 蝶番
- タッカー
です。
- 木材で木枠を2つ作る
- 1,にタッカーで金網を打ち付ける
- 2,を蝶番でつなぎ、三角形に立てる
(ニワトリが動き回りやすい高さにすること) - 中にニワトリを入れたら両端を板などで塞ぐ
これで完成です!
ニワトリが暮らしやすい密度を意識する必要はありますが、比較的簡単に作ることができるので、チキントラクターの導入が初めての人におすすめです。
もう少しニワトリの数を増やしたい場合、それでいて持ち運びのしやすさを重視する場合には、パイプを用いた軽量タイプがおすすめです。アーチパイプ等で骨組みを作り、網を張って作るものです。
本サイトに『ビニールハウスを自作してみよう!必要なものと作り方』という記事がありますが、このチキントラクターは
- ビニールハウスより小型
- ビニールの代わりに網を張る
- 移動できるように固定しない
だと思っていただければわかりやすいかと思います。
用意するのは
- アーチパイプ
- 横通しパイプ
- 支持金具
- 金網
その他サイズを測るための巻尺やビニールテープ、ハサミなどの小物が必要です。パイプではなく竹を使ったり、パイプ用の支持金具ではなく縄や針金を使うのもOKです。
注意点
狙った場所の雑草や害虫を食べてもらうために、チキントラクターを使う日はエサを与えないようにしましょう。またニワトリには背の高い雑草など食べられない雑草もあるため、雑草が生い茂ったような場所には向いていません。背の高い雑草はあらかじめ取り除いておく必要があります。
「土壌改良に役立つ」メリットがあるニワトリですが、くちばしや足で掘り返せる深さは10cm前後が限界です。深く耕す必要のある土壌は人の手で掘り返す必要があります。
簡便に作ることができるチキントラクターを紹介しましたが、害獣からニワトリを守るための工夫は必要です。日中はあまり心配する必要はありませんが、夜間はチキントラクターではない頑丈な鶏小屋に移動したり、電気柵で囲う、犬を放して害獣が来ないよう番をしてもらうなど、工夫を凝らしましょう。
参考文献
- 「循環型農業」の本質とは? スマート農業との両立は可能なのか SMART AGRI
- 『現代農業1月号』, 2017年1月1日, 一般社団法人 農山漁村文化協会
- チキントラクター販売|事業内容|株式会社 オズファーレ
- 【写真図説】1日で作れる! 簡単・軽量な1万円のチキントラクターAir、完成!