2022年5月22日に放送された『サイエンスZERO』(NHK総合)が「土」について取り上げていました。そこで、栽培に適した肥沃な土「チェルノーゼム」というキーワードが登場しました。
チェルノーゼムとは
温帯の半乾燥気候下の草原地帯に発達する肥えた土壌。黒色の厚い腐植層、その下に炭酸カルシウムの集積層が重なる。ウクライナから西シベリア南部にかけて広く分布するほか、北アメリカにも分布。黒土。黒色土。
引用元:小学館 デジタル大辞泉
肥沃な土壌であるチェルノーゼムは、世界の穀倉地帯に分布しています。
土の定義
そもそも土とは、岩石が風化(地表の岩石が、日射・空気・水・生物などの作用で、しだいに破壊されること。また、その作用。|出典元:小学館 デジタル大辞泉)して砂や粘土になったものと、動植物の死骸が微生物によって分解されたものが混ざってできたものです。
土を堀って層を見ると、土を構成している物質(土質)の違いが分かります。オレンジ色や黄色の層は、主に火山が噴火して出てきた軽石などで構成されています。黒い層は植物や動物の死骸を微生物が分解したものと火山灰が長い年月をかけて混ざり合ってできています。
日本の土とチェルノーゼムの違い
『サイエンスZERO』にも出演していた森林総合研究所の主任研究員・藤井一至氏によると、世界の土は大きく分類すると12種類しかなく、日本で特徴的なものは4種類とのこと。
日本の主要な土として挙げられるのは、
- 褐色森林土
- 黒ぼく土
- 未熟土
- 泥炭土
の4つ。
褐色森林土は、山地や丘陵地に広く分布する土で、森の中の茶色い土にあたります。
黒ぼく土は、日本の畑土壌の主要な土であり、火山灰などの火山砕屑物を母材とした土壌です。暗色の腐植層をもち、保水性、透水性も良好です。
未熟土は川の洪水や土砂崩れが起きたときに堆積した、土となる新しい材料が堆積しただけの土を指し、泥炭土は釧路湿原などの湿地帯にある土を指します。
日本の黒ぼく土とチェルノーゼムは似ている部分もありますが、違いがあります。
日本は雨が多いため、そのままにしておくと土が酸性になります。酸性土壌は作物の栽培には適していません。作物を栽培し、生育をよくするためには、土壌を中性に近づける土作りが欠かせません。
一方チェルノーゼムは乾燥地帯にあるため、中性土壌を保ちます(乾燥地帯のため、農地に水を引く「灌漑」をきちんと行うことが重要です)。
土の肥沃さは、土を構成する物質だけでなく、その地域の気候も関連しているんですね。
『サイエンスZERO』では、チェルノーゼム以外で肥沃な土として知られるものとして、中国などに多い「粘土集積土壌」やインドなどに多い「ひび割れ粘土質土壌」が紹介されています。
世界の土壌が抱える課題
日本は人口減少をたどっていますが、世界的には人口は増加傾向にあります。1950年の世界人口は25億でしたが、2000年には60億を突破しており、2050年には97億になると予想されています。
一方で、耕すための陸地がこれ以上増えるということはありません。耕地面積は乾燥地帯での灌漑の拡大などでわずかに増加しているものの、水資源の枯渇、土壌の塩類化により限界を迎えています。加えて、ここ100年の間に、雨による流亡や風で飛んでしまったり、分解されたりなどで、作物の栽培に適した肥沃な土壌の層が知らず知らずのうちに薄くなっています。
また気候やその地域に生息する植物、土壌の扱いなどの変化によって、土の状態は変わってしまいます。藤井氏の研究によると、藤井氏がフィールドワークを続けているインドネシアでは、熱帯雨林を伐採した農地が過度に耕された結果、土が減り、農業ができなくなりました。石炭採掘も行われた結果、その土壌は極端な酸性に。土壌中の微生物にも変化が起きました。本来、土壌中には大さじ1杯の土に1万種ほどの微生物が存在していますが、極端な酸性になった土壌からは、極端に酸性に強い微生物3種類ぐらいになっていたとのこと。
このような状態から元の肥沃な土壌に戻すには膨大な時間がかかります。
これからは、人口増加に伴う食糧問題の解決と土壌の保持も意識した農業のあり方が重要視されることが予想されます。
参考文献