土壌中の炭素の蓄積が気候変動対策につながる理由

土壌中の炭素の蓄積が気候変動対策につながる理由

地球温暖化の原因である温室効果ガスは、日本国内においては、その大半が農業以外の業種から排出されています。しかし世界規模で見ると、全排出量の約1/3を農業・林業分野が占めています。そのため農業分野でも温室効果ガス削減の取り組みが求められています。

そこで近年期待されているのが農地などの土壌に炭素を貯留する試みです。

農林水産省では地球温暖化防止を図るための「緩和策」と、地球温暖化による現在と将来の気候変動の影響に対処する「適応策」を推進していますが、その取り組みの中に「農地土壌吸収源対策」が打ち出されています。

農地土壌吸収源対策
・堆肥や緑肥等の有機物の施用による土づくりを推進することを通じて、農地や草地における炭素貯留を促進

引用元:生産局農業環境対策課『農業分野における気候変動・地球温暖化対策について』(令和2年12月、農林水産省)

本記事では、土壌中の炭素貯留が気候変動対策にどうつながっているのかご紹介していきます。

 

 

土壌中の炭素の蓄積が期待される理由

土壌中の炭素の蓄積が気候変動対策につながる理由|画像1

 

温室効果ガスに該当する二酸化炭素が、難分解性の土壌有機物として土壌中に長く貯蔵されれば、地球温暖化緩和につながるとされています。

不耕起栽培などの農法を取り入れると、慣行農業に比べ、土壌中に蓄積される有機態炭素量が増加します。そのため、植物が取り込んだ二酸化炭素や人為的に放出されたものを大気中に戻すことなく土壌中に貯めることができ、大気中の二酸化炭素濃度を低下させる効果があると期待されています。

従来の農耕は炭素貯留には逆効果

世界の土壌に含まれている炭素量は、大気中に二酸化酸素として存在する炭素量の2〜3倍に相当するといわれています。もし土壌中の炭素量が毎年0.4%でも増えれば、毎年人為的に排出される大気中の二酸化炭素量を相殺できるとされています(フォーパーミル・イニシアチブ)。

しかしフォーパーミル・イニシアチブの提唱者でもあるラタン・ラル博士によると、実際には、農耕によって土壌中の炭素は失われており、従来の農業を続けてしまうと、土壌中の炭素量を増やすどころか減らさないことさえも難しいとされています。

土壌中の炭素貯留には「不耕起栽培」

土壌中の炭素の蓄積が気候変動対策につながる理由|画像2

 

そこで有望視されているのが「不耕起栽培」です。

そもそも農地では、大気と植物と土壌間で炭素の循環が行われています。植物は光合成を行い二酸化炭素を吸収し、その植物が土壌にすきこまれると、土壌中の微生物がそれを分解し、二酸化炭素が大気中に放出されます。

不耕起栽培はその名の通り、耕うん作業を行わない栽培方法です。耕転しないことで土壌中に空気が取り入れられにくくなると、土壌中の好気性微生物(酸素を消費する微生物)による有機物の分解速度が穏やかになります。有機物の多くは微生物により分解されて大気中に放出されますが、一部が分解されにくい有機態炭素となることで、それらは長期間土壌中に貯留され、大気中に戻る炭素量は抑制されます。

農林水産省の資料『農地による炭素貯留について』によると、日本では、昭和20年代から行われている農地土壌調査のデータ等から、

  • 堆肥や緑肥等の施用で土壌中の炭素貯留量は増大する
  • 化学肥料の施用のみでは炭素が減少するが、堆肥を連用すると一定の炭素が貯留される

ことが確認されています。

ただし、土壌中の炭素が蓄積しているかどうかは見えにくい

土壌中の炭素が分解されているのか蓄積されているのかには、気候や土壌、農地管理などさまざまな要因が絡んでくるうえ、わかりやすく目に見えるものではありません。

そこで、おすすめしたいのが土壌のCO2吸収「見える化」サイトです。農研機構 農業環境変動研究センターが運営するこのサイトでは、場所と管理情報を入力することで、畑の二酸化炭素吸収量を計算することができます。

「2.作物残渣の処理と緑肥」の項目には記入欄がたくさんありますが、作物を選択すると標準的な値が自動的に表示されます。もちろん記入欄に直接入力することもできますので、土壌タイプと管理方法から標準的な値を調べてみたり、自分の圃場や栽培方法を事細かに入力して調べてみたり、興味のある方はぜひ活用してみてください。

 

参考文献

  1. 生産局農業環境対策課『農業分野における気候変動・地球温暖化対策について』(令和2年12月、農林水産省)
  2. 農地への土壌炭素貯留と温室効果ガスの削減のために – affrc
  3. 農地による炭素貯留について – 農林水産省
  4. 小松﨑将一『有機農業と環境保全:特別栽培から持続型農業の本流としての有機農業へ』(有機農業研究(2018)vol.10, No.1)
  5. 古賀伸久『農地への有機物由来炭素投入量の推定と農地土壌炭素蓄積量のモデリング』土壌の物理性 第 123 号(2013)
  6. 潜在的なCO2吸収源として注⽬される農地

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