書籍レビュー『野菜も人も畑で育つ―信州北八ヶ岳・のらくら農場の「共創する」チーム経営』

書籍レビュー『野菜も人も畑で育つ―信州北八ヶ岳・のらくら農場の「共創する」チーム経営』

「農業をやりたい」と思ったとき、また、すでに農業を始めている人で「他の農家さんから学びたい」と思ったとき、本は役立つツールの一つです。

農業経験のない人がゼロから農業を始めた場合の成功事例や失敗談、どのような技術で農作物を育てているのか、どのような経営で農業を成り立たせているのかなど、農家さんの経験を本を通じて学ぶことができます。

本記事でご紹介する書籍は、新規就農前まで営業マンとして働いてきた筆者が、数々の失敗を経験しながらも手探りで解決策を見いだしてきた経験談とその経験から得たノウハウが詰まった一冊です。

 

 

『野菜も人も畑で育つ―信州北八ヶ岳・のらくら農場の「共創する」チーム経営』

出典元:野菜も人も畑で育つーー信州北八ヶ岳・のらくら農場の「共創する」チーム経営|Amazon.co.jp

 

概要

のらくら農場の特徴
・農繁期には16名ほどで運営
・平均年齢33歳。ほとんどが非農家出身
・50〜60の多品目を中量生産

複雑で伝えづらい作業の手順やコツ(「暗黙知」)を、理解しやすい「形式知」に変換。農場メンバーだけでなく、仲間の農家や小売サイドとも連携し、「集合知」に高めることで、質の高い野菜を、それなりの量、時期を狙って作れる人気農家に。

都会の営業マンが新規就農後、手探りで見つけてきた農場運営の公式

引用元:萩原紀行『野菜も人も畑で育つ―信州北八ヶ岳・のらくら農場の「共創する」チーム経営』(同文舘出版、2021年)帯より

プロローグでは、右も左もわからない状態から農業を始めた筆者の失敗談が語られます。作物ごとにバラバラな収穫量や採れ始めたばかりの作物の病気、共に働く妻と作業の連携がとれず戸惑う姿に、新規就農の難しさを感じます。

しかしその20年後、20年前とは全く違う農場の姿が映し出されます。筆者は失敗経験を糧に作業内容を細かくマネジメントすることで、天候など自分たちでコントロールできないものに臨機応変に対応、また誰もが作業を明確に理解できるよう工夫したりして、非農家出身の従業員たちと共に多彩な農作物を安定的に出荷しています。

20年前の失敗を糧に現在の経営体制となった「のらくら農場」の栽培や経営に関するノウハウは第2章から始まります。第2章では現在の経営スタイル、第3章では「畑の公式」と題し、農業従事者が長年の経験や勘で培ってきた技術をどのようにして誰もが理解しやすい「形式知」に変えていったのか、第4章では「チームビルディングの公式」、チームで経営するためのノウハウがまとめられています。

経営とチームビルディングの視点が興味深い

特に興味深かったのが、第2章「経営の公式」と第4章「チームビルディングの公式」です。

例えば第2章で述べられているマーケティングの視点。近年、マーケティングの視点は農業界でも必要とされています。昨今、農業はプロダクトアウト※1からマーケットイン※2に移行すべきだという考えが広まりつつある中、「のらくら農場」では6割くらいが“作りたいから作る”プロダクトアウトなのだとか。

※1 生産者側の視点で製品を作ること
※2 買う側の視点で製品を作ること

もちろん「のらくら農場」がプロダクトアウト6割だということを鵜呑みにして、ただ“作りたいから作る”を実践するだけでは、せっかく作ったものが売れない、売れ残って廃棄せざる得ない、そんな状況になる可能性も。

本書では、生産者側の視点で作るにしても「お客さんが喜ぶもの」が大前提であること、またそうしてできたものをお客さんに広めるためにどんなことをしたのかを教えてくれます

第4章では、農場に限らず、ぜひさまざまな職場に浸透してほしい、コミュニケーション方法が紹介されています

例えば「怒ることを禁止してみた」。「のらくら農場」では、自分以外の人に対して“不満が生じないことなどない”と書きながらも、怒る・怒鳴るなどの行為を禁止しています。これは不満を我慢し続けよ、というわけではなく、不満を解決するためにはどうすべきかを考えさせるためのルールです。

怒る・怒鳴るなどの行為の代わりに、自分が抱いている不満の原因を探り当て、それをどうやって解決に導くべきか考え、どうしても自分の手に負えないときには誰かに相談する。これらを心がけることで、ミスの押し付け合いが起こるなどの経営リスクを減らすことができます。またミーティング等でチーム全体に失敗経験を共有することで、その原因と解決方法もまた全員で共有できるようになったとありました。

こんな人に読んでほしい

書籍レビュー『野菜も人も畑で育つ―信州北八ヶ岳・のらくら農場の「共創する」チーム経営』|画像1

 

・農業経験がないが、農業を始めたい人
・経験者の失敗談から学びたい人
・経営やチームビルディングに課題を抱えている人
・省力で効率的な作業管理の方法を知りたい人

など。

上記では経営やチームビルディングに関する章を紹介しましたが、作業管理等のノウハウが詰まった第3章の内容もとても充実しています。農業経験者が長年の経験と勘で培ってきた技術を誰もが理解しやすいものに変換したことで得られたメリットや少人数で多品目栽培を可能にする方法がまとめられています。

新規就農を目指す人にはもちろん、すでに農業に従事しており、経営や作業管理の課題を解決する糸口を探している人にもおすすめの一冊です

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